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梅に髑髏  作者: まめ童子
椿
21/30

其の七


 自らの計画を暴かれた椿は、しばらくして落ち着きを取り戻すと、事の次第を淡々と語った。


 椿の主人は面倒見が良く、自らが作り出した人形たちに愛着を持っており、それぞれに目を掛けていた。椿は取り分け主人に懐いており、そんな彼女を彼は可愛がってくれていた。

 ある日、椿は主人から彼が不老不死であること、そして唯一、その命を奪えるのが、彼の一番の出来の人形であることを聞かされた。

 椿は期待した。その一番は自分である、彼が愛しているのは自分であると。

 だがそんなとき、あの人形が突然現れた。

 彼女は異質だった。人形と言えど元は人間。生前の容姿や才覚から何ら変わるところは無いはずなのだが、彼女だけは明らかに他の人形たちと違っていた。それがどうしてかはわからないが、ただ、主人が彼女に特別な感情を抱いていることだけは、はっきりとしていた。

 椿は嫉妬した。自分は主人を愛している。そして主人も自分を一番愛しているはずだった。けれど後からやって来た人形が、彼の愛を全て奪い去ってしまった。

 ある晩、突然二人は姿を消した。椿は幾日もかけて彼らを探し回ったが、見つけたときには既に手遅れだった。

 そして、彼女は見てしまったのだ。


 ――幸せそうな表情で、仲睦まじく手を繋ぎ、事切れた人形師と人形の姿を。


 椿は怒り狂った。自分はこんなに主人を愛しているのに、どうして彼は自分を一番に愛さないのか。どうしてこの女なのかと。

 狂いに狂い、やがて彼女は一つの結論にたどり着いた。



 ――私が、あの子になればいい。そうすればきっと、彼は()()私を愛してくれる。



 椿の独白を黙って聞いていた稔だったが、おもむろに膝をついて彼女と目を合わせると、優しげにふわりと微笑み掛けた。


 「椿さんは何か勘違いしているようだけど、人形師と最高傑作との間に恋愛感情があるとは限らないよ」


 男の言葉に椿は瞠目した。――ずっと、主人と、彼と共に滅びた人形が恋仲であると思い込んでいた。だが、そうではなかったというのか。


 「君が紅子さんに話していた通り、二人は親子のような関係だったのかもしれない。まあ実際どうだったかは今となってはわからないし、どうして二人して死を選んだのか、真実は誰も知り得ないけどね」


 そう言うと稔は、未だに不安そうな顔で彼を見上げる椿を励ますように、その手を握った。


 「だけど、ご主人は間違いなく君を信頼していたと僕は思うよ。でなきゃ、人形師の秘密である不老不死とその終わりについて話したりはしないさ。そして人形の彼女も君を大事に思っていたんじゃないかな。いつも君の後をついてきて可愛かったって、言っていたじゃないか」


 椿はそっと目を閉じた。目蓋の裏に、いつも優しかった主人と、自分を姉と呼んで慕ってくれていた娘の姿が浮かぶ。

 稔の言う通り、二人の関係がどんなものだったかは、もう永遠にわからない。けれど確実にわかっていることが一つだけある。


 それは、二人が椿を愛していてくれたということだ。


 過ぎてしまった日々と、失ったものを思い、彼女は再び涙を流した。




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