貴族令嬢村人を探しに行く決意をする
「私はここの村長をしているソマと申します、助けていただきありがとうございます」
深々と礼をするのは白い髭を蓄えた老人だ。
ピッケルドッグの群れを全て仕留め終えると中に招待された。
この大きな建物は村の集会場で、平時にはよく大人達が相談で使ったり飲み会に使っているらしい。
ここには部屋も結構あるらしく、子供達が奥の部屋に集まっているのが見える。
「いえいえ、間に合ったようで何よりです」
「こちらをどうぞ」
女性が木製のコップを持ってきてくれた。
オレンジ色の液体が揺れている。
「ビウの実を絞った物です。冷えてはいないですが……」
ビウの果実ジュースはレドナの時に飲んだことがあったな。
ぼんやりと昔を思い出しながら一口飲むと、以前同様甘酸っぱい不思議な味が口いっぱいに広がる。
ずっと飲んでいると癖になりそうな感じで、相変わらずこのジュースは美味しいと思う。
「美味しいです、ありがとうございます」
礼を言うとソマはにこりと笑った。
「ところであなた達はどうしてここへ? 見たところ子供の様に……いえ、この村を救ってくれた魔導士様に失礼を」
実際子供だから良いんだけど。
「家族からこの村の近くに魔獣がいると聞きましたので来ました。まさかもう襲われているとは思いませんでしたが……」
「家族ですか? 失礼、お名前を聞いても?」
隣に座るグラムをちらっと見てから私は一礼する。
「申し遅れました、私はカーティス家の長女。ルシア・カーティス。そしてこちらが弟のグラム・カーティスです」
「ど、どうも」
言った瞬間、ソマが椅子から降り、へへー……と跪いた。
私達の話を聞いていた大人達も慌てて膝をつく。
「も、申し訳ございません! 綺麗な所作でしたのでどこかの貴族家の方かと思っていましたが、まさか当村を支配する領主様のご子息様、御令嬢様だったとは! お許しを」
「ね、姉さん!?」
「いえ、良いですよ。顔を上げて下さい! そういうのはやめて下さい!」
慌てて止めた。
そんなかしこまられても困る、偉いのは父とかクロード爺さんだし。
「はぁ……それでですか」
とりあえずどうして私達二人だけでここに来たのかを説明すると、ソマは納得したとばかりに頷いた。
更に大人達はこの後にクロードが援軍を連れてくると聞いて安堵の声を上げた。
今日の夜か明日の朝には来るんじゃないかな、知らないけど。
ま、これで森に残っているであろう群れをクロード達と一緒に掃討すれば解決か、怪我人は出たけど死者は出なかったし良かったね。
「まどうし様! おねがいがあります!」
軽い食事後、ゆっくり飲み物を飲んでいると、ててて……と子供が走ってきた。
グラムや私より小さい子供だ。
「サラ! ご、ごめんなさい」
遅れてもう一人私と同じくらいの年齢の少女が入ってきた。
「失礼しました。この子らは私の孫娘達で、ティアリスとサラ……と言います。これ、今はお話をしているから奥にいなさい」
「いえ、それよりお願いって?」
「お父さん達を助けて!」
「お父さんを? 一体どういうことですか?」
ソマを見ると、ソマは困ったような顔をする。
「あー……その、実は私達が魔獣の襲撃に早く備える事が出来たのはこの子らの父であり私の息子セトムのおかげなのです」
話を聞くと森に魔獣が出たのを知っていたため、セトム率いる村の自警団は、順番に森の様子を見に行っていたらしい。
そして昨夜ピッケルドッグの群れが近づいているのを知り、連絡の者を走らせた後、足止めの為にセトムは何人かで森に残ったそうだ。
隠れて後で合流するとはいったものの、現在まで連絡はないらしい。
その話を聞いて私は合点がいった。
そっか、それでここに村中の人達が集まっているのか。
急に襲われたにしては集会場に人がいすぎだもんね。
連絡の人だけ先に行かせるのは良い判断だった!
ただ、足止めした人達はどうなっただろうね。
外を見れば大分明るくなってきている。
探しに行くなら今だ、また夜を迎えるとなると流石に生きてはいないだろう。
クロードがいつ来るかによるが来ても早くて昼か夕方以降。
それから捜索となれば絶望的だな。
「考えておられるようですが気にしなくて大丈夫です。森には更に大きな魔獣もいるそうですので」
何だって?
あいつらより上位の何かがまだ控えているのか。
それは是が非でも私が戦いたい。
というか私の手でぶち殺さなければ……。
恐らくクロードが来てからだと私は前線に出れない。
そうなればきっとクロードの連れてきた兵の中から更に犠牲者が出るかもしれない。
私ならきっと救えるはず。
「更に大きな魔獣が? 姉さん、後はクロードお爺様が来てからに……姉さん?」
「…………」
助けられる命を前に動かず見殺しにする。
そんな事、私には出来ない。
あの時私は誓ったはずだ。
これ以上魔獣に家族を殺される被害者を増やさないと、私のこの身全てを魔獣の返り血で染めてでも。
細く小さな拳をぎゅっと握る。
「セトムさん達がいそうな方向は分かりますか?」
「ま、まさか……」
「…………」
私が杖を持つと、ソマは目を瞑り静かに一礼した。
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