貴族令嬢村のピンチに遭遇する
村に近づくにつれて聞こえてくる声が大きくなってきた。
辞典によれば恐らく村の近くに現れている魔獣はピッケルドッグ。
魔力で出来た鉱物などを壊すピッケルに似た物を投げたり刺したりして、獲物を仕留めてから喰らう危険な魔獣だ。
厄介なのはそのピッケルを魔力が続く限り作り出せることと、身軽な体と集団で行動することだ。
重装備の騎士ならば隙間を狙われない限りは無傷で倒せるが、村人がそんなフルプレートの鎧を持っているわけもない。
急がないと被害が出るかも……。
村に着いたのはそれから十数分後だった。
生い茂る森の中に家々が連なっている。
村は木造の家が多く、二階建ての家は少ない。
「気を付けていきな」
「ありがとうございます」
礼を言って馬車から降りると同時に鼻に来るのは獣の臭い。
「姉さん」
「グラム、気を付けてください。恐らくですがもうこの村に魔獣がいます」
「ええ!?」
グラムが驚きながら周囲を見渡した。
一応見える範囲にはいない。
しかし、間違いなく村のどこかに入る。
「気を付けて行きましょう」
ゆっくりと村の中を進んでいくとそれに出くわした。
「姉さん!」
突然グラムが声を上げる。
指さす方向を見るとそこには一際大きな家を取り囲み口で噛んだピッケルを次々と家の扉に向かって投げるピッケルドッグの群れ。
扉は傷だらけで大分穴も開いており今にも壊れそうだ。
二階にあるバルコニーから数人の男達が身を乗り出して弓を構えて撃っている。
弓が当たったピッケルドッグが悲鳴を上げてから倒れる中、数匹のピッケルドッグが上を睨んだ。
まずい……っ!
「グラム、行きましょう」
「は、はい……!」
私は走りながら杖を翳す。
【ウインドボール】
風を圧縮した球を放つ中級魔法だ。
それを連射して放つ。
ピッケルドッグはそれに当たると悲鳴を上げながら錐揉み上に飛んでいく。
それぞれ向こうの壁に激突し崩れ落ちる。
威力は弱めだが喰らったら派手な飛び方をする攻撃魔法を放った為、こちらに意識を向くと思ったのだが、予想に反して上を睨んでいた数匹のピッケルドッグには効果が無かった。
彼らはこちらを一瞥もせず壁を蹴りながら上に上がっていく。
そして弓を撃っていた男達へ襲い掛かる。
「あぁ、姉さんあれ!」
グラムが隣で叫ぶ。
私は内心舌打ちをしながら小さな声で詠唱する。
詠唱が終わると共に白く薄い光のオーラが身体の周りに現れる。
途端、自分の身体が一気に軽くなり、足も速くなる。
隣をちらっと見るとグラムが足を止めている、初めての魔獣討伐だし少々ビビったのかもしれない。
まあ、がむしゃらに突っ込まれるよりはいい。
「グラム! 前に出過ぎず隠れてなさい!」
そう指示してから私は、風の様に空気を引き裂き飛び出した。
完全に扉を壊す方から邪魔者を排除することにしたピッケルドッグの群れが襲い掛かってくる中、飛んでくるピッケルドッグを躱しながら身体を強引に建物側に持って行き、そのまま壁を駆け上がる。
普段なら出来ない身のこなしだが今の私なら出来る。
ピッケルドッグの様に私もバルコニーに上った。
ピッケルドッグのピッケルが腕に刺さった男が悲鳴を上げ、更に足にピッケルを喰らったもう一人の男は地面に尻餅をついている。
バルコニーと二階の扉の向こうには村の住人の姿が見えた。
ピッケルドッグの付近で魔力の収束を感じる。
恐らく新しいピッケルを魔力で作っているのだろう。
今はまだ死人が出ていないようだが、ここで仕留めなければ被害者が出るな。
そう判断して一歩前に出た。
すると、一番後方、バルコニー側にいたピッケルドッグが私に気付き、すぐさま反転して襲い掛かってきた。
一番後方にいた為、まだピッケルを使っていなかったのだろう、口にピッケルを加えて飛び掛かってくる。
「…………」
私は風の刃を纏わせた杖を振り切り、ピッケルドッグの身体を両断する。
あと二匹!
一瞬で一匹を倒した私はそのまま走り出す。
後方から走ってきた私に気付いたピッケルドッグ達はすぐに私の方へ向きを変える。
だが、今の私からすれば遅い。
私は瞬時に杖を振りぬき二匹のピッケルドッグを仕留める。
バルコニーに上った奴らはこれで終わりだ。
あっけに取られる村人達。
「早く怪我人を中へ入れて扉を閉めて下さい!」
「あ、ああ……」
村人達が頷くのを見てから、私は残っているピッケルドッグを倒すべく、バルコニーから飛び降りた。
残ったピッケルドッグを杖で斬り飛ばす。
ピッケルを放ってくるが私の身体には風の気流が流れているから飛んできたピッケルはそもそも身体に当たる直前に弾かれる。
「はぁああ!」
声と共にグラムがピッケルドッグの一匹を剣で仕留める。
身体が竦み歩みを止めていたはずのグラムがいつの間にか私のすぐ側まで来ていた。
待機していろと言ったのに、ま……動いたなら良いか。
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