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貴族令嬢が行方不明です

クロード視点


 自室にて、少々古いが使いこんである甲冑を着込む。

 鎧、剣、異常なし。

 出発は明日の予定だったが、準備が予想以上に早く終わりそうな為、今日のうちに出る事にした。


 さて、他の者の準備はどうなったかな。

 考えていると扉が開いた。


「クロード様、準備はもうすぐとの事です」

「うむ。それにしてもトドルのその姿は久しぶりだな」


 トドルの姿はトラム王国の西にある、リトネア王国の紋章が胸に着いた鎧姿だ。

 元リトネア騎士団副団長だけあって鎧姿は似合っている。


「こうしてクロード様と戦いへ赴くのは六年ぶりですね」

「あの時はクレージュに現れた魔獣討伐の援軍で我々は協力したのだったな。あれは大変だった」


 クレージュはここトラム王国とリトネア王国の下にある国だ。

 そのクレージュから救援要請があり、儂も一軍を率いて向かったらまさか家ほどもある巨大な魔獣が待ち構えているとは……。


「まあ、今回はあのような大きな事にはなるまいて」

「だとよろしいですね。あの時は……」


 昔話に花を咲かせていると焦ったようにばたばたと誰かが走ってくる音がした。


「なんだ、騒々しい」


 経験の浅い若い兵士かと思って見れば、そこに立っているのは額に汗をかいているルドマンだ。

 想定外の事が起きたら慌てる癖は治ったと思っていたが……。

 くく……と内心笑いながら聞いた。


「落ち着け、何かあったか?」

「父さん、ルシアとグラムを見ませんでしたか?」

「なに?」



 広間に行き話を聞くと、昼からルシアとグラムの姿がなく、聞けば街に向かったそうだが夕刻になっても戻ってこないというのだ。


「もしかしたら誘拐されたとか……」


 エルは顔を真っ青にしながら呟いているが、それは無いと思う。

 グラムはともかく、ルシアも一緒なのだ。


 トドル曰く、剣の才能はあるが気弱なグラムは少々不安だが、ルシアは違う。

 彼女は魔法が使えるし賢い子だ。

 もし誘拐犯に出くわしても返り討ちにすると思う。


 だが少々意外に思う。

 あの子は魔法の才能もあるし頭もよい。

 何をやらせてもそつなくこなす割に自分の意思を出さず何より覇気がなかった。


 やる気がないのか物事に興味が無いのか、だから杖が欲しいと言い出したり魔獣討伐に興味を持ったのは嬉しかったというのがある。

 ん?


「魔獣討伐……?」


 いや、まさかな……。


「ルドマン」

「はい」


「情報は集めたか」

「一応は、庭師のエヒムによれば街に出ると、許可は父さんから貰ったとルシアが言っていたと」

「儂から……?」


 許可をした覚えはないが……しかし、ルシアが何の理由もなくそんなすぐ分かる嘘をつくだろうか。


「他には?」

「何やら街で食料と剣を一振り買い、最後に乗り合いの馬車でどこかへ向かうのを見たと」

「馬車で……だと?」


「もしかして家出とか」

「そんなわけないだろう、不満なんてなかったはずさ」


 エルが不安そうに言い、ルドマンが否定しながらなだめる。

 ふむ。

 家出はない、もしそれをするならわざわざ街へ行くと言い残したり、足取りが分かる馬車を使う理由が無い。


 わざと痕跡を残したのか?

 となれば……。

 広間から出てルシアの部屋へ向かう。


 扉を開き、一瞥する。

 渡したはずの杖が無いな。


 その時脳裏をよぎるのは彼女が魔獣討伐に行きたがっていた事だ。

 まさか本当に……?

 最初の疑念が確信に変わっていく。


「ルシア達はリドの村に向かったのかもしれない」

「リドの村ってあの魔獣が出たっていう……」


 儂だって若い頃は反対を押し切ってこっそり魔獣討伐に向かったのだ、魔法の才のあるルシアだ。

 いくら才があるとはいえまだ若い。


 自分の実力を過信して向かう可能性は大いにある。

 あの時同行を許可していれば……と思うが後悔するのは後で良い。


「ルドマン、兵達の出立の準備を急がせろ。トドル、我々は馬を厩舎から出して外で待つぞ」

「は、はい!」

「分かりました」


 こうなったら時間勝負だ。

 急いで屋敷の外へ向かった。


☆☆☆


グラム視点


「んぅ……」


 ガタガタと揺れる馬車の中で目を覚ました。

 起き上がろうとして布が身体の上にかけられているのに気づく。


 ああ、姉さんがかけてくれたのか。

 ぼんやりとした頭で布を畳んでから顔を上げると、姉さんが馬車の背もたれに身体を預けながら座っていた。


「おはよう、よく眠れましたか?」

「おはようございます。眠れました」

「そうですか、良かったです。もうすぐ村に着きますからね」


 穏やかに笑った。

 外を見ればどうやら早朝の様だ。


 空を見れば下半分は白いのに上はまだ深い青でうっすらと星が見えている。

 木々からは水がしたたり落ち、鳥の声もしない。


 馬車の車輪の音しかせず静かだ。

 本当にこの近くに魔獣がいるんだろうか。


 暫く外を見ていると目を瞑っていた姉さんがパチッと目を開け、顔を上げた。

 その表情は固く馬車の走っている先を睨んでいる。


「どうしたのですか?」

「声が聞こえました、恐らく魔獣の遠吠えです」

「え?」


 耳を澄ませるが全く聞こえない。

 気のせいかと思うが、こういう時にルシア姉さんが間違うとは思えない。


「グラム、準備を……私は御者に到着後、私達を置いたらすぐに逃げるようにと伝えてきます」


 姉さんは御者さんの方へ向かう。

 僕はすぐに荷物を確認しつつ、剣を身に着けた。

次は二時間後に更新します

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