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純白竜アルガウス

 世界六大魔獣。

 それは世界中に数多くいる魔獣の中でも絶大な魔力、力を持っていると言われている魔獣の名称だ。


 レドナがいた頃から名前だけは伝わっていたが、実際にレドナが会えたことはない。

 最も、レドナが一体にでも会っていたら六大魔獣は五大魔獣になっていた事だろう。


「あれがアルガウスか、昔噂だけ聞いたことがある。会いたいと何度思った事か。それでその魔獣が何の用かな、私に殺されに来たのかな」

「ルシア様、一応補足ですがアルガウスが人を襲った記録はありません。決して人を襲ったりはしないと」


「今までしなかったからって私が見逃す理由があるんですか?」

「ええ……」


 アルガウスはリニス、ブルータス、ルシアへゆっくりと視線を送る。


『……構えることはない。我は戦いに来たのではない。まずは聞け、ボルギガスを倒せるほどの強者よ。貴様らにとっても重要な情報だ』


 魔獣に強者……と褒められて喜ぶ気はない。

 魔獣は絶対殺す、それが私の行動理念だ。


 私は杖を向け、魔法を放つ準備をする。


「師匠、師匠が強いのは知っています。ですが殺すのはいつでも出来ますし一応話だけでも聞いては?」


 ブルータス、こいついつからこんなに甘くなったのか……いや、こいつは私と違って前から甘かったな。


「……わかった、一応聞こう。言ってみろ」


 アルガウスは微かに揺れた。


『生意気な……まあ良い。まず第一、魔獣と協力している人間がいる』


「魔獣に協力する人間?」


 意外な情報だ。

 基本的に魔獣と人間は敵対しあっている。

 それは世界中での共通認識であり、協力というのはにわかに信じがたい。


「協力? 人間がどうして?」


 というかそもそも、協力する理由がない。


『奴らは世界を滅ぼそうとしているらしい』

「世界を……滅ぼす? 人間が魔獣と一緒に?」


 何言ってんだこいつ、与太話でもしに来たのか?


「ブルータス、やっぱ殺そう」

「いえ、もう少し情報を吐き出させてからにしましょう」


 一理あるな。


「話を続けろ」

「ブルータス様もルシア様も何で6大魔獣相手に上から目線なんでしょうか……」


『我々魔獣も一枚岩ではない。人間を襲うのが好きじゃない者、好きで人間を襲う者、そもそも人間に興味はなく自由に暮らしている者と様々いる。だが、人間を好きじゃないが襲うほどでもない魔獣をわざとけしかけ、人里や敵対する温厚な魔獣を襲わせたりしている奴らがいるようだ』

「ふーん」


 温厚な魔獣って何だろう、魔獣に温厚も何もないと思うが。


「魔獣の事情は関係ないな、というか結局何が言いたい?」

『我は貴様らに休戦を求める。ボルギガスを倒すほどの強者だ。我も戦ったら手傷を負う。それは今後そいつらを探すのに不都合だ。代わりに貴様らを見逃そう』


 不遜な言い方、それにイラッとする。


「私がお前に負けると? あの地竜の死体が見えないのか」


『我が本気を出せばボルギガスなんぞ楽に倒せる』


「私が本気を出せばお前はボルギガスと同じ運命を辿る事になるが?」


 片や幼い少女、片や純白の竜がガンを飛ばしあう。


「まあまあ、師匠落ち着いてください」


 ブルータスが間に入ってきた。


「この魔獣が言っていることが事実だとしたらここで倒すのは良くないですよ。むしろうまく使った方が良いかと」

「む……」


 それは……確かにそうだ。

 こいつを倒すのはいつでもできるが、協力体制を取っていた方が情報も集まるし、今後人の被害も減る可能性が高い。


「……分かった、人の被害が減るなら協力しよう」


『結果的には減ることになろう。ではこれを持て』


 空から山なりに何かが飛んできた。

 咄嗟に取ると、掌サイズの……竜をかたどった石?


「なんだこれは」


『それに念じれば我と会話が出来る。――が、必要のない時に話しかけるな』


 いちいちカチンとくる言い方をする奴だな。


「用があっても話しかけないが?」


『話はそれまでだ』


 言いたいことだけ言い、アルガウスは飛び去って行った。


 アルガウスと話せる小型の石像に関してはブルータスに持ってもらうことにした。

 私が持っていてもどうせ役に立たないし、世界中に情報網がある魔協の奴が持っていた方が良いだろう。


 魔獣抹殺協会のリーダーが魔獣と話すための物を持ってるって、何かの冗談みたいな話だが仕方ない。

 そしてその後は山を下りて何もなくカーティス家まで帰ってきた。


 お見合いの話を愚痴ったら自信もって何とかすると言ってくれたから、何とかしてくれるのだろう。

 そう思ってから一年、ブルータスからは何の返事もない。


「あいつ……口だけじゃないだろうな」


 今日も今日とてエルからの縁談話をのらりくらりと躱して自室に逃げ込み、窓からの風を浴びながら本を読んでいる。

 庭では相変わらずトドルとグラムの訓練の声が聞こえてきていて、そんな折見覚えのある馬車がやってきた。


 続けて部屋の扉がノックされる。


「どうしました?」

「お嬢様、ルドマン様が応接間に来るようにと」


 来たか……。


「失礼します」

「師匠!」

「師匠?」


 応接間に入った瞬間、椅子に座っていたブルータスが、飛び上がるように立ち上がり開口一番そんなことを言うもんだから、相対していたルドマンもクロードも訝しむ。


 こいつは本当に……。

 一瞬睨んでから微笑みを忘れない。


「ブルータス様、大丈夫です。師匠と呼べばいいんですよね?」

「は……え、ええ。そうですよ」


 ブルータスは私の笑みを見て焦ったように同意して座った。

 家族にばれたくないから私が弟子でブルータスが師匠ということにしろと言ったのに。


 まあ、一年ぶりだしごまかせたなら許そう。

 早速椅子に座るとブルータスの隣に座るリニスが一枚のカードを出してきた。


「こちらをどうぞ」


 目の前にあるのは黒いカードだ。


「えっと……」

「ブラックカードです。以前一緒に山に行った際の活躍を顧みて評価させていただきました」


 評価は良いけどブラックカードって魔協の最高ランクのカードじゃなかった?


「これは以前話してた! でもどうして……」

「彼女がそれに該当すると判断したからです」


 リニスは驚くルドマンとクロードに微笑む。


「過去を遡ってもこのカードを持っているのは一人もいません。こちら、ブルータス様ですらそうです。ですがブルータス様が彼女を推しました」

「はい、ルシアし……いえ、ルシアさんこそが持つに相応しいと僕は思いました。百年前なら僕はレドナ師匠にのみこれを渡したでしょう」


「は、はぁ……ルシアが……」


 ルドマンはともかく私の才能を認めていたクロードまで何度も瞬きをしている。

 信じられないのだろう。

 ま、ブラックカードの価値を分かっていればそうもなるだろう。


「ブラックカードがあれば、魔協を知っている世界中の半分以上の王侯貴族とも約束無しで面会することが出来ます。一応事前に約束をした方が心情的には良いでしょうけど」


 それは凄い、便利なカードだ事。


「ちなみに質問なんですが、どうして魔協の認める最上位のカードがブラックカードなんですか? 色の次に石でマスターと来ているのに」

「良い質問です。それは勿論、死んだレドナ師匠の最も好きな色が黒だったからです! 杖も服装も黒で統一してましたから……!」


「…………それだけ?」

「他に何の理由が?」


 心底不思議そうな顔をするブルータス。

 こいつは本当に何でって思ってんだろうなぁ……こいつ私の事好き過ぎだろう。

 まぁ……黒は好きだったけどさ。


「それと、こちらをどうぞ」


 次に出してきた書類を見て私は勿論ルドマンやクロードまでブルータスの顔を凝視した。


「これは?」

「入学の手続きに必要な書類です」

「入学?」


 ルドマンもクロードも、私も首を傾げる。


「「「どこへ?」」」


☆☆☆


「ありがとうございます、ここで大丈夫です」


 私は御者に礼を言いながら馬車を降りた。

 冷たい風が吹く中、白を基調とした立派な建物の前で一息をつく。


「ブルータスなぁ……お見合いを何とかしろと言ったけどこんな手で来るとは……」


『レドナ記念学校 東部アカデミー』


 それが今日から私が通う学校の名前だ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

ここからは学校編が始まる予定です。

ですが、書きためと構想の為少々更新が止まりますので少々お待ち下さい。

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