決着 そして迫りくる黒い影
自分に移動速度を上げる付与を三重がけして落ちてくる雷を全て躱しているが、うーん。
やっぱりこいつただの地竜ってレベルじゃないよね。
炎といい、雷と言い、明らかに並の魔獣とは違う規格外の強さだ。
シルバーカード持ちのリニスが一撃で倒されるのは当然だな。
『殺す! 貴様を殺す!』
殺意の波動が凄い、攻撃が全て回避されるから完全に頭に血が上ってるな。
私だってお前を殺せるものなら殺したいよ。
でも杖がないとな……よし。
私はくるりと後ろを向いてブルータスに向かって叫んだ。
「ブルータス! 杖を貸してくれ!」
ブルータス達は結構遠くに避難していたから聞こえるか不安だったのだが、すぐに杖が飛んできた。
ていうかこれ、ブルータスが屋敷で自慢してた杖じゃないか。
これなら私の魔力に耐えられるか。
視線をボルギガスに戻した直後。
目の前に突然現れる真っ黒の塊。
否、ボルギガスが私に向かって体当たりを敢行してきていた。
とっさに風の障壁の三重掛けで受け止める。
思わず後方へ吹っ飛びそうな衝撃が伝わってきた。
こいつの攻撃いちいち重くない? 普通三重掛けしたら余裕で受け止められるものなんだけど。
ちょっとこいつの攻撃はどれもおかしい気がする。
だがまあ、許そう。
わざわざ接近してくれたのだから。
「さて、終わりにしようか」
【鉄搭】
魔力を練りこんで五本の鉄の柱を上空に作り地面……否、ボルギガスの身体に突き刺す。
『ギアアアアッ!』
硬い鱗を貫き、鉄の柱が突き刺さった肌からは大量の血が流れている。
「痛いか、逃げたいか、だがもう駄目。お前はもう逃げられない。地面に突き刺さった鉄搭を全て折らない限りはね」
空いた片手に風の球を作る。
球の中では金属音が鳴り響き今にも外に飛び出そうとしている。
風の球の中で風の刃が暴れているのだ。
四重術式で作った風球の中に二重術式で風刃を組み込む創作術式。
六重術式を展開した。
「喰らえ」
【ウィンブルストレブル】
ボルギガスの身体に入った風の球が内部で弾け、中から飛び出した風の刃で切り刻まれる。
壮絶な断末魔を響かせた後、ボルギガスは身動き一つ取らず、体躯は地面に突っ伏した。
ボルギガスが倒れると雲は晴れ、青空が見えてきた。
「ん……」
展開した魔法を解除してから身体を伸ばす、久しぶりに複数魔力掛け魔法を使ったから心なし身体の調子が良い気がする。
そもそもこの身体になってから自分の魔力に耐えられる杖等が無かったから仕方ないが、たまには魔力を放出しないとね。
それにしてもこの杖結構よか……。
「げっ」
良かったと言おうとして手に持った杖を見ると、杖の宝石はボロボロと崩れ落ち、杖の持ち手も本体も黒く焦げ付いている。
これは……良くないね。
私がどうしようかと考えているとこちらにブルータスとリニスが向かってきていた。
「ぶ、ブルータス! ごめん、お前の杖……」
「レドナ師匠!」
ブルータスが抱き着いてきた。
頬ずりをするな気持ち悪い。
「おい、止めろ。離れろ! 気色悪い」
「師匠! あの絶大な魔力! 風、鉄、付与術を用いた戦闘! 師匠なんですね! 僕は感動しました! やはり僕の師匠はあなたしかいません。杖なんていくらでも使ってください。むしろ私があなたの杖になります」
「意味分かんない事言うな! ていうか私の言葉を聞けよ!」
両手でぐいぐい顔を押しているのだがびくともしない。
普段から流れている風の壁があるにも関わらず風の壁にごりごり顔を押し付けているのにびくともしない。
「ブルータス様! 落ち着いてください!」
リニスが剣の入った鞘で思いっきりブルータスをぶん殴った。
「ぐべ……」
変な声を出しながら飛んでいくブルータス。
まあ、リニスがやらなかったら私が魔法でやってた所だから良いけど。
ひとまず落ち着かせてから話す事にした。
「こほん、ブルータス様が失礼しました。ところでブルータス様がおっしゃっていたレドナ様……というのは」
「あー、事実です。私は元レドナであり、現在はルシアで間違いないですが中身はレドナです」
「なるほど、師匠は可愛い女の子に生まれ変わりたかったからわざと……」
「そんなわけあるか、私だってよく分かってないんだ」
どうして生まれ変わったのか、普通死んだらそのまま意識もなく全く別の個となり、新しい生を生きると聞いていたのだが……。
「ブルータス様、もしかしたらあれではありませんか? メルテトのスキテラ様がおっしゃっていた……」
「ん? なんですかそれ」
リニスが神妙な顔をしたまま口を開く。
「学術都市メルテトのスキテラ様が話してて。戦闘で死亡したわけでもなく、絶大な魔力を持ったまま眠る様に死んだ場合、世界へ魔力の分散、再構成が上手く行われず、魔力がまとまったまま次の生へと向かうのではないか……という魔力再構成理論です」
そのまんまな名前の理論だな。
でも実際私は寿命で死んだのか。
「私以外にもそういう奴いそうだけど。私以外に例は無いんですか?」
「すいません、詳しくはスキテラ様にお聞きください。私ではちょっと」
「レドナ師匠の様に死に際まで絶大な魔力を保有したまま死ぬって人は少ない気がしますけどね。やはりレドナ師匠、規格外です」
「……ブルータス。レドナだった私はもう死んでるし、一応現在私は今ルシアとして生きてるからルシアと呼んでくれ」
「かしこまりました、ルシア様」
「様もいらない」
「それは出来ません! 私は唯一無二の弟子ですから!」
「…………」
「ルシア様、御勘弁を。ブルータス様は一度決めたら意地になる方ですので」
「はぁ……相変わらずだな。まあ良いよ。それよりこれで終わりなんだろう? もう帰ろう」
「そうですね、地竜は倒しましたし後は……ん?」
「黒い影?」
三人の上を黒く大きな影が覆う。
頭に疑問符を付けながら上を見上げると。
『戦い始めから見れたのは偶然だがこの縁は必然か……まさかディノのお気に入りを壊すとは大したものだ』
ばさっばさっと大きな羽音を立てながらゆっくりと降りてきたのは、さっき戦っていたボルギガスより一回り小さい白竜だ。
身体には所々白い膜が張られており、冷気が立ち込める。
「誰ですか……と、ブルータス、新しい杖」
「はい」
素直なブルータスから杖を受け取りながら睨むが、白竜は意に介した様子もない。
「白竜……冷気……まさかあれは」
リニスが震える声を上げる。
「リニスさんご存じですか?」
「はい、多分あれは世界六大魔獣の一角、調律者、純白竜アルガウスです!」




