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貴族令嬢早速先生になる

「まさか二人で倒してしまったとは……驚きです」


 私達は村に戻ってきた。

 クロード達は兵を連れてセトムの案内の下、残ったピッケルドッグを倒しに向かった。

 ついでに死体の話をしておいたから拾ってくることだろう。


 私達には案内役の予定だったムウがくっついてきた。

 本当はセトムと付いていく予定だったが、でかいのがいないなら万が一もないだろうとのことで村に引き返してきたのだ。


「運が良かっただけですよ。それより、弟を横にしてあげたいのですがどこか休める所はありますか?」

「そういえば怪我をしていたのですね、なら丁度いい。きっとそれは治りますよ」

「良い薬があるんですか?」


 意外だな、こんな村に。


「いえいえ、薬よりもっと良いです」

「…………?」


 ムウに案内されてきたのは森に行く前に守った村の集会場だ。


「ここですか?」


 聞いても説明をしてくれない為、半信半疑で中に入った。


「怪我人ですか? ではこちらへ」


 中に入るとすぐに案内された。

 布が敷かれた床に怪我人が横になっているが痛みはあまりなさそうだ。

 それに、私達が救ったセトムと一緒にいた足を怪我した村人。

 彼も横にはなっているが足の痛みはそうでも無さそうだ。


「おっ、お嬢さん達も来たんですね」


 横になりながら私達に気付いたのか話しかけてきた。


「足の怪我は大丈夫だったんですね」


 グラムを下ろしながら答える。


「痛みは大分よくなりましたね、まあ……ティアがいますからね」

「ティア?」


 誰だっけ……。

 考えていると奥から少女がやってきた。

 顔を見て思い出す、確か村長の孫の……。


「あなたは……! 父が戻ってきました。本当にありがとうございます」

「いえ、間に合った良かったです。それよりどうしてティアさんがここへ?」

「勿論怪我人を助ける為ですよ。……と、グラムさんは足を怪我したんでしたっけ」


 ティアがグラムに近づいていき、布の奥から血がにじんできている怪我の個所に手を近づける。


「え? え?」

「動かないでください」


 困惑するグラムを静かにさせながらティアは、手を近づけたまま目を瞑る。

 まさかと思ったその直後。

 青のオーラのようなものがティアの手から傷口へと伝わっていく。

 そして、暫くそれが続いた後、ティアはふう……と息を吐いて座り込む。


「これで大丈夫ですよ」

「何が? って……あれ?」


 グラムがスッと立ち上がる。

 痛めた方の足を何度か動かし。


「あれ、痛くない! 姉さん、痛くないよ!」


 嬉しそうにジャンプまでする。

 その時の私は心底驚いた表情を浮かべていたと思う。

 まさかこんな所に回復魔法を使える子がいたなんて……しかも、詠唱もしていないし、杖なども使っていない。

 これは凄い。


「ティアさん回復魔法が使えたんですね」

「回復魔法……ですか?」


 首を傾げている。

 もしかして気付いてないのか?


「驚いたようですね、そうです。ティアは回復が使えるんですよ。最も外に漏れたらティアの能力を狙って面倒なことになるからと村の中だけで秘匿にしていたのですけどね」


 へえ、そんな事が。


「でもどうして私達にそれを?」

「クロード様がティアが私を回復するところを偶然見てしまって。その時にもしもの時はこのクロードが責任を取るからカーティス家の者にだけは教えても良いと言うので」

「あー……」


 クロードなら言いそうだね。

 私らが怪我をして戻ってくるかもしれないからってのを想定して、そんな言い回しをした可能性すらある。

 ま、とりあえずグラムが治ったなら良いか。


「ならティアさんがいる限り死にさえしなければ大丈夫なんですね」


 軽く言ったのだが、ティアの表情が曇る。


「それが……」



 話を聞くと、一人重傷の者がいるらしい。

 ティアが回復魔法を使ったのだが、どうしても治らなくて現在意識が無いという。

 試しに見せて欲しいとお願いしたら案内してくれた。


 奥の部屋に行くと寝かされている者がおり、それは森で会ったビル……とかいう村人だ。

 肩に怪我をしていて、血がにじんでる。

 周囲ではビルの家族だろうか心配そうに見ている。

 表情に悲壮感が出ていて、長くないと思っているのだろう。


「何か良い手はないでしょうか」


 深刻そうに言うが、多分大丈夫なんじゃないかなと思っていた。


「そうですね、じゃあ……ティアさん。これを持ってもらえますか?」


 私は自分が持っていた杖を渡した。


「これは?」

「私の杖です、ちょっと傷がありますけど」


 私の杖、実はいうと先の方に埋め込まれた宝石に小さなヒビが入っている。

 森でアックスヘッドに向かってちょっと強めの風の球を放ったからだろう。

 宝石はそこそこではあるけど骨董品だし、耐えられないと思ったんだよなぁ……。


「じゃあ、杖を肩に向けながら私と同じように詠唱してください。最後に杖の先に向かって魔力を強めるイメージで、まあこれは回復魔法をしているのと同じ要領でお願いします」

「詠唱? え? え?」


 困惑しているが、やれば分かる。

 もっとも私が出来るのは詠唱を教える所までだけど。


「まあまあ、では行きますよ」

『あまねく水の力よ、傷深きかの物を癒す力をここへ……』

【ヒール】


 ティアが私に続いて詠唱をした直後。

 先ほどより強い青の光がティアからビルの身体へと伝わっていき、みるみる傷が塞がっていく。

 それからしばらくすると、ビルの荒い呼吸が急に静かになる。


 試しに肩を触ってみるが、痛そうな仕草は見せない。

 服をはだけてみると、傷口自体なくなっているようだ。

 うん、成功の様だ。


「これで大丈夫なはずです、良かったですね」


 私の言葉にビルの家族は、お礼を言いながらもほっとしたようにビルを見ていた。



 あの後、夜にはビルの意識が戻った。

 ついでにクロード達も戻ってきた。

 無事に森に残っていたピッケルドッグの群れを掃討し終えたみたいだ。


 まあ、しっかり鎧を着こんだクロード率いる集団なら余裕だったことだろう。

 ちなみにだが、クロードが帰ってきてからすぐ私は呼び出され、クロードから拳骨を喰らった。

 魔獣を倒したのは見事だが何かあったらどうする……と言う心配交じりの怒りだ。


 無断で飛び出したのは事実だし、大人しく怒りを受け入れよう。

 ちなみにグラムは途中足が痛いとか言い出して逃げた。

 ジャンプできる程足は治っていたはずだし痛いはずが無いんだけど……、どうやらグラムは駄目な方に賢くなったようだ。

 これも成長……なのかな。


 ともかく、この村で休憩をしてから明日には発つとクロードは言ったのだが、私はどうしてもとお願いして出発を二日後にしてもらった。

 理由は、ビルを救った後、ティアリスにこっそりお願いされたことがあったからだ。


「違う、もっと閉じ込める感じです。でそのまま前に飛ばすイメージで」

「ん、んん!」


 プルプルと震えながら杖を思いっきり握っているのはティアリスである。

 グラムが側で剣を振っている隣でティアリスは、私が上げたヒビの入った杖を持っている。

 ではどうしてこんな事をやっているのかと言えば、私の趣味だ。


 ティアリスは杖も無ければ詠唱もなしで回復魔法を使っていた。

 それは相当凄い事であり、恐らく水魔法の天恵を持っている可能性がある。


 しかし、魔法に付いて知らないから独学で使っていたのだろう。

 詠唱を知っていたり、杖とかを使えばもっと威力が上がるのに知らなかった辺りそうだろう。

 だから、ティアリスに魔法での戦い方を教えてくださいと言われた時、私は考えた。

 彼女に魔導士という可能性を与えるのも悪くないなと。


 そして現在詠唱を覚えさせ、基本の水攻撃魔法である【ウォーターボール】を教えている。

 回復だけでもいいけど、自分の身を自分で守る位の魔法の一つは覚えていた方が良いと思ったからだ。


 試しにとやらせた結果。

 現在水の球を出す事は出来た。

 後はそれを前に射出するだけだ。

 暫くしてティアは、それを前の木に向かって飛ばす事が出来た。


「はぁ……はぁ……やりました」


 肩で息をしているが一日でティアは【ウォーターボール】を使う事が出来た。

 簡単にできたように見えるが相当凄い事だ。


 まず杖から水の球を出す事自体人によっては数か月かかるのに一日で出来た辺り、この子天才かもしれない。

 回復魔法として水の力を日々使っていたからってのもあるけど。


「良いですね、これを日々練習してください。魔力を高める為に毎日が良いですね」

「は、はい。あ、けど回復魔法が使えなかったらどうしましょう」


「そのためのこれです。毎日使っていれば自分の魔力の底がどれだけあるか分かるでしょう? だから自分で回復魔法の分の魔力を残しながら魔力を使うんです。頑張ってください」

「あ、ありがとうございます。これで次こんなことがあったら父さん達を私が守れます。ありがとうございます、先生」

「姉さん、先生だって」


 隣でグラムが笑う。

 茶化したグラムを叩いてから私はティアリスの頭をよしよしと撫でた。

 身長的にはティアリスの方が高いんだけどね。


 そして、予定より一日遅れたが数日後リドの村を出立した。


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