レドナ貴族令嬢に生まれ変わる
薄っすらと目を開けると窓ガラスが見える。
そばには積み上げられた沢山の魔導書、埃の被ったランプ。
力を入れると自分の手がゆっくり上がった。
見えた自分の手は骨ばってミイラの様で。
「ぁあ……」
かすれた声が出る中、隣に立つ愛弟子ブルータスが自分の手を握る。
「レドナ師匠、意識が!」
「……? ブルータス……ここは?」
「師匠はレミカ王国へ行く途中でしたが、急に倒れて意識を失いまして、覚えてらっしゃらないのですか?」
そうだ、私は確か西部のレミカ王から頼まれて演説をするために準備をしていたはず。
「そうか……」
ゆっくりと瞬きしながらこれまでを思い出す。
私は若い頃から世界中を旅した。
その旅の目的は魔獣を殺すため。
世界には召喚モンスターとは別、人に危害を加える強い魔力、力を持った魔獣が沢山存在している。
魔獣は人に害を為す生き物であり、絶対に殺すべき存在である。
そんな魔獣相手に私が何を出来たか、私は天恵を持っていた。
この世界には天恵というものが存在しており、百万人に一人の確率で様々な効果の天恵を貰う人間が存在する。
人によっては全く役に立たない天恵を貰ったりするし、天恵と言うには性能が弱かったり、地味過ぎて生涯気付かない場合もある。
私は天恵として強大な魔力を持っていた。
それもあり、数多くの魔獣を葬り続け、魔獣殺しという異名を持っていたが、やはり歳には勝てなかった。
途中から後進育成について考え始めた私は、ブルータスという才能のある弟子を取り、度々世界を移動しては魔法とは何か、魔獣とは……戦闘を学ぶ場所をそれぞれの国で作るべきだ……などと様々な国で講演や、進言をしてきた。
今はまだまだ各国の動きは鈍いがいつか私の考えが現実となればきっと、魔獣と戦える人材を大きく増やす事が出来る。
きっと魔獣をこの世界から……。
「ブルータス」
「はい、師匠」
「お前は馬鹿だが魔法のセンスがある。このままサボらず研鑽を積めばきっとこの世界で相当な腕前の魔導士になれるだろう。そして私の後を継げ……」
「後なんて、僕なんかでは……やはり師匠こそが!」
私は首を小さく振る。
「歳には勝てないよ……これからはお前の時代だ。私が行けなかった場所に生息していた魔獣はまだまだ存在する。もしまたこれらが人に害を為そうと、人里に現れたならば迅速にこれを仕留めよ」
「師匠!」
「泣くな、弟子よ」
ブルータスは唇を噛み締める。
やれやれ。
まあ、こいつなら何とかやってくれるだろう。
「少し眠る」
「はい……」
目をゆっくりと閉じた。
ふわふわとした感覚。
まるで自分の身体じゃないみたいだ。
これが死か……。
私はゆっくりと意識を失った。
☆☆☆
どれだけの時間眠っただろうか。
ずっと闇だったはずの瞼の向こうに光を感じた。
おお、どうやらまだ生きているようだ。
だが寿命はすべての人に死を与える。
多少伸びたところで……まあ良い、またブルータスと話でもするか。
あいつも私ほどじゃないが魔法の天恵を授かった奴だ。
頭はあまり良くないしすぐ調子に乗って失敗もするが正義感は強い。
きっと後を継いでくれるはず。
また同じような事を言って鼓舞するのは面倒くさいけど、やる気を出してくれるなら。
ゆっくりと目を開けると視界に入ってきたのは予想外の状況だ。
「おお、見ろ! 目を開いたぞ! エル、よくやった!」
「ええ……ええ……私の子。私の赤ちゃん……」
「やりましたね! 旦那様、奥方様。長年執事として屋敷で従事しておりました私は……幼き頃から二人を見ていた私は……嬉しゅうございます。うぅ……!」
「こらこら泣くな、これからも頼むぞ」
「はい、この私が全身全霊を持って成長を見届けます!」
目の前で行われているのは何だ? 演劇か?
見覚えのない奴らが興奮しているが……どういう状況だ?
ていうかブルータスはどこにいる?
ブルータス!
「だ……ぅ……」
「おお、今声を出したぞ!」
「まあ! 生まれてすぐだというのに、もう……っ!」
「これは賢い子です。将来有望ですね!」
今の声は……まさか私か?
いやしかし……。
反応がそんなに嬉しいのか、狂喜乱舞する目の前の奴ら。
いやこれ……いったいどうなってんの?
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