4日目 -2- 新しい服
私は話を切り上げ、マリエンに服を見せてもらうことにした。
思い掛けないローサさんの存在ですっかり惑わされてしまったが、私が今日ここへ来たのは、そもそも服を買うためだった。これ以上脱線する前に、本来の目的を果たすことにしよう。
「ええと、マリエン。服を見せてもらいたいんだけど、いい?」
「あら、もちろん! 昨日入荷した中で、あんたに似合いそうな服があるのよ。良かったら、ちょっと試着してみない?」
そう言ってマリエンが見せてくれたのは、淡いブルーのワンピースだった。いや、ブルーというよりは、白に近いのかもしれない。胸からウエストの位置までレースの飾りが施され、上品であると同時に可愛らしいデザインだ。
一目で気に入ったので、私は薦められるまま試着をしてみることにした。まあ、一目惚れするほど素敵な服は、お値段の方も素敵だったが、かといって手が出ないほどの額でもない。
さっそく着替えてみると、どうやらサイズもぴったりだ。
「……どうかな?」
感想を聞きたくて、着替え用の衝立の陰から、そっと出る。
「うん。思った通り、いいわね」
「ああ、本当だねぇ! すごく似合うじゃないか、リンカ」
二人揃って褒められて、私は顔が赤くなった。
なにせこの二人は、お世辞とは無縁の親子なのだ。マリエンは、似合わない時には似合わないとはっきり言うし、ローサさんも、思ったことを悪気なく口にする。
つまり、二人が口を揃えて褒めたこの服は、本当に私に似合って見えるということだ。
「そ、そう? それじゃ、この服にしようかな」
照れくさかったが、私は鏡の前に立ち、そこに映った自分の姿を眺めてみた。
……なるほど。
確かに今の私は、服のお陰でちょっとだけ底上げされて見えるようだ。つまり平たく言えば、服のおかげで目の錯覚をおこしているわけだが、お洒落なんてものは、いかに錯覚させるかが大事な気もする。
私はごく自然に、ルーフィスに見てほしいな、と思ってしまった。
目の錯覚だろうが何だろうが、少しでもマシに見えるというなら、この際なんだって構わない。名誉挽回のために私も必死だ。
「……その服、このまま着て行ったら?」
「えっ?」
マリエンにこそっと耳打ちされ、私は驚いて彼女を見た。
「今から図書館に行けばいいじゃない。着てきた服は、預かってあげるからさ」
(!)
必死なあまり、何か顔に出ていたようだ。赤くなってマリエンを見る。
「ほら、行ってきなさいよ。その服、見てほしいんでしょ?」
誰にとは言わないまま、彼女が私の背中をポンと叩く。それから『大丈夫、分かってる』とでもいうように、私を見てニンマリ笑った。
* * * * *
マリエンの言葉に背を押され、お店を出た私は、まっすぐ王立図書館へと向かった。
もちろん着ているのは、さっき買ったばかりのワンピースだ。これでルーフィスに会えたなら、昨日の出来事を少しは払拭できるだろうか。
そんなふうにドキドキしながら図書館へ辿り着いた私だったが、すぐに落ち込むはめになった。広い館内をあちこち見回してみたが、どこにもルーフィスの姿はなかったのだ。
(まあ、そうだよね。来たからって、必ず会えるわけじゃないよね……)
期待していた分だけ気持ちが萎む。
いや、わかっている。図書館は本を読むための場所で、こんな浮ついた気持ちで来る私の方が間違っている。それでも、ルーフィスに会えるものなら会いたかった、というのが私の本音だ。
(でもまさか、用もないのに呼び出す訳にもいかないし)
仕事中にそんなことをされては、ルーフィスだって迷惑極まりないだろう。
彼に会うのは素直に諦め、私は、自分の頭を切り替えた。
王立図書館は入館許可証さえあれば誰でも自由に利用できるが、その許可証をつくるにはそれなりのお金がかかる。本の保証金の意味合いを持つそれは、決して安くはない金額だ。
せっかくそんなお金を払っているのだから、有効活用しないのは、あまりに勿体ないだろう。それに私は、もともと本を読むのは嫌いじゃないのだ。
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