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2日目 -2- 衝撃的!? 私に対する第一印象

「えっ、あんたの? さすがに第一印象なんて覚えてないわよ。子供すぎて」

 確かにマリエンとの出会いは、物心がつく前だ。お互い覚えてなくても無理はない。

「別に、第一印象じゃなくてもいいよ」

「じゃあ、子供の頃の印象ってこと? それなら……」

 マリエンは少しだけ考え込む姿勢を見せたが、割りにあっさりこう答えた。

「そうね。"男前!"って感じかしら」

 私はガクッと力が抜けた。


 いや、わかる。昔の私が、お世辞にも『愛らしい』とか『大人しい』とか、言えない感じの子供だったのはわかる。

 でも、そこはもう少しこう、他に何かなかったのか。


「一応、女なんだけど」

「そりゃ知ってるわよ。でも何て言うか、あんたってそこらの男共よりよっぽど凛々しい印象だったのよね」

 ──男共より凛々しい。これは喜んでいいんだろうか。


「キリッとして、ケンカだって強くってさ」

 ──ケンカが強い。これはは喜んじゃダメな気がする。


「あんたが本当に男だったら、子供のころ惚れてたかもしれないわ」

 ──男だったら惚れてた。これはもう喜ぶとかの範疇(はんちゅう)を超え過ぎだ。


 意味がわからず、私はただマリエンをじーっと見た。

「……ちょっと、そんなに引くことないでしょ。別にあたしだけの話じゃないんだから」

「どういうこと?」

 マリエンの言葉に首を傾げると、彼女はニヤッと悪戯っぽい笑みを見せた。美人はニコッじゃなくてニヤッと笑っても様になるのだから羨ましい。


「気づいてなかったの? あのころ、実際あんたに憧れてた女の子も少なくなかったってことよ」

「ええ?」

「だってリンカったら、悪ガキ共にからまれてる子を見たら、颯爽と駆けつけて助けてあげたりしてたしさ。そういう事を日常的にやってたんだもの。そうおかしな話でもないでしょ」

「……」


 まさかの事実に、どういう感情を抱けばいいのかわからない。

 子供のころの自分が、男の子みたいだったというのは自覚していた。だけど、他の女の子達に憧れられていたなんていうのは、まったくの初耳だ。

 嬉しいような嬉しくないような複雑な心境で、私はおそるおそるルーフィスの方に目を向けた。


 私がルーフィスを初めて見たのは、家の窓から、引っ越して来たお隣の家族を眺めていたときのことだった。

 遠くからでも、ルーフィスが自分の周りの男の子達とはまるで違う、すごく綺麗な子だっていうのはちゃんとわかった。

 育ちの良さが滲み出た、品のある佇まいにドキッとしたのを今でもはっきり覚えている。


 けれど、そのときは『出会った』わけではなく、私が一方的に見ていただけだ。


「ルーフィスは……どうだった? 私の印象って」

 マリエンの話の後でこれを聞くのは、正直かなり怖いものがあった。でも、だからこそ逆に気になる。

 怖いもの見たさならぬ怖いもの聞きたさで、私はつい、ルーフィスに確かめてしまった。


「リンカちゃんのこと?」

 意外そうに聞き返した後で、ルーフィスはくすっと微かな笑みをこぼした。


「出会いがものすごく印象的だったよ。一生忘れられないくらい」

「い、一生忘れられないくらい……?」

 ルーフィスの言葉に不穏な気配を感じ取って、私は顔を引きつらせた。


 私はルーフィスに出会ったときのことを覚えていない。つまり、彼の言う、印象的な出会いがどんなだったかわからない。

 ただ妙なもので、良い意味で印象深かったわけじゃなさそうだ、ということだけはヒシヒシと伝わってきた。訊かなきゃ良かったと思ったけれど、自ら尋ねておいてやめるわけにもいかず、話を続ける。


「ええと、そ、そうなんだ……出会ったときのことなんて、よく覚えてるねルーフィス」

「だって、ものすごかったから」

「ものすごい?」

「覚えてないの? 近所の男の子達から、僕を助けてくれたのに」


 近所の男の子達というと、私がよく蹴散らしていた悪ガキ連中のことだろう。いつも3、4人で(つる)んでは、大人しい子にからんで泣かせたりしていたけれど、そこまで悪質なイタズラはしなかったので、大人からはほったらかしにされていた。……そのシワ寄せで、私がいらない活躍をする破目になったのだが。


 ルーフィスの説明によると、どうやら引っ越してきたばかりのころ、彼らにしつこくからまれて困ったことがあったらしい。そこへ、私が助けに飛んで来たそうだ。


「へ、へえ。私、そんなことしたんだ」

 答えながら、私は正直ホッとしていた。ルーフィスが()()()()()()()()なんて言うから、どんなすごいことをやらかしたのかと思ったが、それくらいなら、まあ許容範囲だろう──そう思ったときだった。


「飛んで来てくれたときのリンカちゃん、本当にすごい迫力だったよ」

「え、迫力?」

 話の続きがあったのか、と、ギクリとしつつ聞き返す。ルーフィスはくすくす笑っているが、もう嫌な予感しかしない。


「うん。すごい迫力で『ぶっ飛ばすぞコラーッ!!』って。手にこーんな太い丸太抱えてた」

(!?)

 ルーフィスのセリフに、私は思わず飲んでたビールを噴出しそうになった。

 こらえたはずみで変なところに入ったらしく、ゲホゲホと咳が出る。


 咳き込みながら、なんだそれは、と私は思った。

 なんなんだ、それは。その丸太をどうする気だったんだ私は。それで殴りかかるのか、それとも投げつける気だったのか。

 どっちにしてもあまりに酷い。酷すぎるせいか、ここまで聞いても思い出せないくらい、見事に記憶から消えている。

(どうせなら、ルーフィスの記憶からも消えていてほしかった!)


「大丈夫? リンカちゃん」

 咳き込む私に、ルーフィスが心配そうに声を掛けてくれたが、これっぽっちも大丈夫じゃない。咳はともかく、精神的にかなりの深手だ。

 

 咳が止まらない私の背中を、ルーフィスが遠慮がちにゆっくりさする。

 ちらりと見ると、マリエンはその横で涙を浮かべて爆笑していた。

次話◆勇ましい過去の傷

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