ほぼ全滅
連休明け。
例の新人君は、特に治療などはしなかったそうですが、ケロっと元気になっていました。
しかし、他の職員にも、ばっちり感染しました。
私の他、新人君に指導した一番偉い上司、私の隣の席の先輩、後輩、中間管理職の二人、警備員さん……みんな連休が療養で潰れたそうです。
警備員さんは外の立ち番で、もしかするとお客様より接点が少なかったかもしれないのに感染しました。
元が健康で比較的若い職員は、連休中の自宅療養で回復しましたが、警備員さんを含む年配の職員は、連休明けもしんどそうでした。
多分、一番の重症は基礎疾患持ちの私で、確かに風邪症状は連休中に治まりましたが、連休明けに病院に行っても喘息の悪化が回復せず、ボロボロでした。
無事だったのは、席が一番遠いナンバーツーの上司ただ一人。
この上司も持病のある人だったので、移っていたら入院したかもしれません。
お客様にはどれだけ感染したか、追跡調査は不可能ですが、肺炎の併発や持病の悪化で亡くなった方がいても不思議はありません。
乳幼児の場合、あんな粘度の高い洟をどうするのか。
連休中「風邪くらいで救急車を呼ぶのもなぁ」と判断した感染者が、私一人だったとも思えません。
先輩は、旅行をキャンセルして連休中ずっと寝込んでいたそうです。
ドタキャンだったので、キャンセル料が高くついたとガチ切れ。
しかし、新人君は先輩のキャンセル料&私の医療費の弁償どころか、終始被害者面で、謝罪すらありませんでした。
一番偉い上司からも、連休前より厳しい口調で「人に移る病気になったら休むのも仕事の内だ」と叱責を受けていました。
別室への呼び出しでしたが、怒鳴り声がカウンターまで聞こえました。
それでも研修期間の最後まで、被害者面でごにょごにょ言い訳を並べ、結局、誰にも謝罪しませんでした。
「風邪は人にうつすと治る」などと言うヤバい迷信を本気で信じていたのかもしれませんが、確認はしていません。
大卒も、社会人経験も、意味がなかった新人君の出勤判断。
誰がこんなヤツ採用したんだ……!
私は悪化した喘息がなかなか回復せず、未消化だった前年度分の有給も使い、三カ月くらい、毎週水曜か木曜に休ませてもらいました。
土日祝日が休みの職場でしたが、それでも、五連勤すらできない悪化ぶり。病院で一応、劇薬も処方されましたが、無理しなかったので使わずに済みました。
風邪自体は連休中に症状が消失しても、風邪のせいで悪化した喘息からの完全復活には、半年以上掛かりました。
これは二十年以上前の話で、その後約二年は、また薬なしで過ごせるくらい元気になりました。
が、二〇〇一年の夏にまた別件で悪化して救急搬送。それ以来、薬の常用が必要になりました。
去年、更に悪化して、二〇二〇年現在は、結構な量の吸入薬を常用しています。
搬送を待つ間に亡くなった方のニュースが出た頃、いつもの通院で、看護師さんに「喘息の患者さんが例のアレに感染したら問答無用で入院だから、逆に安心よ」と言われました。
個人でできる限りの対策はしていますが……
余談ですが、二〇〇九年新型インフルエンザの流行時は、別の所で働いていました。そこのバイト君は、小学校の給食当番以外でマスクを着用したことがない健康優良児でした。
で、初めてのサージカルマスクが逆。
「それ、上下が逆」
「えっ? マスクに上とか下とかあるんですか?」
「パッケージに書いてますよ」
「捨ててしまいました」
「その針金みたいに固いのが上で、鼻にぎゅっとして隙間を塞ぐ仕様」
説明したらちゃんと実行してくれました。
「結構苦しいけど、それだけ守備力高いってことですよね!」
素直なバイト君の笑顔がまぶしかったです。
私も気を付けてはいたものの、二〇〇九年新型インフルエンザに感染して五日間出勤停止。
喘息は、前述と同じくらい悪化しましたが、特に有休を使う必要もなく、週五日勤務をこなしても、一カ月くらいで復活できました。
平日で、すぐ病院に行けたこと、タミフルが効いてインフルエンザ自体は三日くらいで治まったこと、既に喘息が窓口当時より悪化済みで、投薬治療中だったことが、よかったのだと思います。
早期発見、早期治療、大事。お薬すごい。
そんなワケで、街で顎マスクの人物が視界に入るたびに例の新人君を思い出し、「あの人もきっと言葉通じない系なのだなぁ」と残念な気持ちになります。