表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

顎マスクの新人君

 手洗い、消毒、マスク、うがい、人混み回避、体調不良時は安静にする。

 みんなが「感染症対策の基本」を守れば、流行は終息に近付いてゆくはずです。

 でも、拡大が止まらないのは、どこかで誰かが……


 今から語るのは、二十年以上前にあった実話です。



 当時の私は、とある窓口で働いていました。

 ゴールデンウィーク直前、研修所を出たばかりの新人が、現場研修に来ました。

 正式な配属先は、私の職場ではありませんでしたが、様々な現場で経験を積ませる最終研修の一環でした。

 新卒採用で勤続四年目の私が、「社会人経験のある年上の新人」の指導役を任されました。


 で、この新人君が、洟水を垂らしながら顎にマスクを装着していたのです。

 垂れてきた粘度の高い洟水をズルズル啜り、客が途切れた時にティッシュで鼻をかむ。

 窓口カウンター越しの接遇の絵面としても、顎マスクの洟垂れ野郎は最悪です。


 当然、指導をしました。

「風邪なら休んで下さい。お客さんに移ると大変ですから、休むのも仕事の内だと思って下さい」

「いや~でも俺、採用からまだ半年経ってないんで、有給ないンすよ」

「ここは狭くてお客さんとの距離が近いので、移ると大変ですから、お客さんの為に休んで下さい」

「いや~タダの風邪くらい別に大丈夫っしょwww」


 えぇ……(困惑)

 他人(ひと)に移さない為に休めと言う指示なんですが、それは。


 職場は、古くからある住宅街と商店街の中間地点にありました。

 主なお客様は、高齢者、乳幼児連れの若いお母さん、高齢のご家族を介護する主婦の方々、個人商店の店主や従業員、中小企業の経理社員などでした。


 私は立地条件と主な客層に併せて【家族や店員などを通じて、乳幼児や高齢者に風邪が移ると、最悪の場合、肺炎を併発して亡くなる可能性】についても説明しました。


「お客さんに移ると大変なので、休んで病院に行くか、市販の薬を飲んで治療して下さい」

「いや~別に熱ないし、大丈夫っしょwww」

「新人君は大丈夫でも、お年寄りとかに移ると大変なので、休んで下さい」


 って言うか、来んな。帰れ!


「俺だって研修所で移されてしんどいけど、むっちゃ頑張って出勤してンのにセンパイ何でそんな酷いコト言うんスか」


 まさかの逆切れです。

 そこ頑張るとこ違う。

 何でドヤ顔するんだ。


 若くて体力のある成人男性ですら「移されてしんどいもの」を体力や抵抗力の低い人々に感染させるのはえぇのんかと言う。


「じゃあせめて、移さないようにマスクは顎に付けずに鼻と口をちゃんと覆って下さい」

「いや~でも、それしたら苦しいんでwww別に大丈夫っしょ」

「それじゃマスクの意味がないので、正しく装着して鼻と口を覆って下さい」

「いや、苦しいですってwww無理ムリwww」

「顎にマスクを着けても意味がないので、正しく装着して下さい」


 理由と危険性を説明した上で、わかりやすく具体的に明確な指示を出したつもりですが、終始へらへら笑いつつ逆らわれました。


 他の業務内容に関する指示にはちゃんと従うのに何でやキミ。


 私が「年下の先輩」だから、舐めてかかって指示に従わないのかと思い、職場のトップに相談。上司からも私と同じ内容の指導がありましたが、「職場の一番偉い人」に対しても、私に対するのと同じ態度で逆らいました。


 中間管理職と女性の先輩も、ゴミを見るような目で見て注意してくれましたが、新人君は頑なに顎マスク。



 四月二十九日、みどりの日(当時)を挟んで再び出勤し、結局、顎マスクが改善されないまま五月の連休に突入しました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ