第六話 てんし の きかん
ステータスに年齢の項目を追加しました。
あと一部ステータスの計算をミスっていたので修正しました。
装備の付与効果を後付けしているから間違えるんだ!(自業自得
どちらも読み返さなきゃいけないレベルの影響はないので、引き続きよろしくお願いします。
洞窟から出て市を抱えて走ると、ものの数秒で声の主を確認することができた。
「あれか」
「うん」
俺たちの視線の先には数人の鎧姿の男たちがいた。
それも先ほど見た落武者ではなく、ちゃんとした武者だ。
「っ!お市様!良くぞご無事…で?」
「貴様ァ!今すぐそのお方から離れろ!」
こちらに気付き、市を見てホッとしたのも束の間、隣の俺を見て一気に色めき立つ男たち。
その中から虎の腰巻をした背の高いイケメンが槍をこちらに突き付けながら前に出てくる。
赤い槍に虎の腰巻ってはまたエラく目立つ格好だな。
ん?織田家で赤い槍ってもしや…
「お市様、その怪しげな男から離れてくだされ!」
「又左!この者は妾の命の恩人であるぞ!丁重にお迎えせよ!」
おぉ、市が大人モード(当社比)になってる。
ていうか市よ、君が言っていた通り今の俺は野人で、それが姫君の隣にいたら怪しさ満点だと思うよ?
しかしやっぱりこいつが前田利家か。
思ってたより若いな。俺よりも年下じゃねぇか?
そういや今まで気にしたことなかったけど、人のステータスって見れるのかな?
疑問に思ったら検証あるのみと、俺は頭の中で「ステータスオープン」と唱えてみる。
〜ステータス〜
名前:前田又左衛門利家
レベル:5
年齢:15
所属:織田弾正忠家
職業:馬衆
称号:槍の又左
状態:健康
体力:50/50
気力:50/50
妖力:-
力 :17(16+1)
頑強:24(15+9)
敏捷:10
器用:12
知力:14
精神:10
幸運:8
忠誠:92
技術:槍術
〜装備〜
主武器:朱の長槍(攻撃力5+1)
副武器:和泉守兼定(攻撃力4)
頭:なし
胴:桶川胴(頑強+3)
腕:籠手(頑強+2)
腰:佩楯(頑強+2)
脚:脛当て(頑強+2)
装飾品1:虎の腰巻(力+1)
装飾品2:なし
おぉ、口に出さなくても出るんだな。そして案の定このステータス画面、俺にしか見えていないらしい。戦国時代ならしょうがない。
15歳ってまだまだ子供じゃないか!令和だと高校生でも戦国時代だと立派な武者だなぁ。
しかしステータスとレベルがチグハグだ。俺のステータスとは大分違う。どういう計算なんだろう?
その他にも経験値表記もないし、うーん、謎が多いぞ。
そして武器防具の性能!いかに俺の装備が貧弱かよくわかるね!いやむしろ布の服と織布の洋袴なら納得なのかな。
そうこうしてステータス検証に耽っていると、市と話していたはずの前田利家、もう利家くんでいいや、がこちらを睨みつけていた。
「おい貴様、どこを見ている!名を名乗れ!」
おっと、既にかなりヘイトを稼いでいるぞ?
「柳信晃だ。しかし人に名を尋ねるときは自分から名乗るのが礼儀ってもんだろ?」
君の名は、知ってるけどね!
「何ぃ?」
余裕ぶっこいた俺の態度が気に入らなかったのか利家くんが更にヒートアップする。
こいつ沸点低いな。そういや史実の前田利家も短気だとか聞いたな。
すると未だ俺の横から離れない市が服を引いてきた。何やら手招きをしているが、君は本来なら向こう側の人なんだから早く行って安心させてあげなよ。
しょうがないのでしゃがみ込むと耳を引っ張られて小声で説教が始まった。
「ちょっと!何でそんなに偉そうなのよ!」
「いや、常識を説いただけでしょ?」
「それで怒らせてたら意味ないじゃない!又左は織田家の中でも武勇で鳴らしている男なのよ!いきなり斬りかかられたらどうするのよ?」
「それもそうだけど、多分、俺の方が強いしなぁ」
ステータス的にも数値は俺の方が高いしね。
あとは数値差がどれだけ効いてくるかだけど。
コソコソと話している俺と市が気に食わなかったのだろう。明らかにイライラが増していく利家くん。気持ちはわからんでもないぞ。
「又左、そなたが礼を失しているのも事実じゃぞ。名くらい名乗らんか」
「くっ、俺は前田又左衛門だ。しかし貴様、いきなり諱を名乗るとは正気か?」
そういやそんな話もあったね。
「それについては色々と事情があっての。あとで妾が字をつけることになっておる」
「なっ!お市様がですか!?貴様一体何者だ?」
おい、それは俺も初耳だぞ?
それは置いておいて俺が何故市と一緒にいるのかは説明しないとね。
いい加減マジで斬りかかられそうだし。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
夜の森を行くのは市が危ないということで、利家くんの部下が市の無事を先に報せに走って行き、俺たちは洞窟で一晩明かすことにした。
ちなみに帰りも市は俺が背負って行った。利家くんは抵抗したが市の希望が通った形である。
「それで一時的に俺が保護して助けが来るのを待っていたんだ。一日経たずに助けが来て安心したよ」
「そうか…柳殿、お市様の身を守って頂いたこと、感謝する。先程の無礼も許して欲しい」
「いいってば。俺の風体が今とてつもなく怪しいのは市からも言われてるしな」
焚き火を囲んでひとしきり説明が終わると利家くんは素直に頭を下げた。うんうん、お兄さん、素直な子は好きよ。弟もツンケンしてるくせに根は素直だからなぁ。
「しかし柳殿、お市様が嘘を申されているとは思わんが、出自含めて貴殿が怪しいのも事実。何故そこを明らかにしないのか?」
「妾もそれは気になるの」
「説明できるならしたいんだけど、まだ俺の中でも何が起きたのか把握できてないんだよなぁ」
気になるよね?でもタイムスリップしてきました!なんて言っても誰も理解できないだろうし、言ったところでいい方向に転がる気もしないんだよな。
「今のところ言えるのは、俺は一月前に突然この森に放り出されて、自分でも何が起きたかわからんってことだけだ」
「神隠しにあったということか…ならば生まれはどこだ?場所がわかればそこまで送り届けるぞ?」
利家くんがそう言うと市が愕然としたような顔をしてこちらを見ている。
何だ?今のセリフの中にそんな愕然とするような内容があったか?
「うーん、申し出はありがたいんだけど、戻っても親類縁者がいるわけでもないし、どちらかというと織田家に保護してもらえるのが一番助かるんだけど…」
「それは名案じゃな!さっそく帰ったら兄上に頼んで妾の側付きになるといい!」
さっきまでとは打って変わって今度はやたらテンションが高くなる市がとんでもないことを言い始めた。
不審者がいきなり姫様の護衛とかないでしょ。
「お市様、流石にそれは三郎様も…いや、お市様が言えばあり得るか…?」
あり得るのかよ!天下の織田信長が妹の言いなりになる姿は見たくないぞ!
「まぁ側付きはないにしても、衣食住がきちんと賄える職を紹介してもらえればいいかな」
「柳殿は腕に自信があるのだろう?ならば取り立ててもらうことも出来るかもな。そうしたら俺と共に戦場で戦果を立てようぞ!」
出来れば穏便な生活でお願いします!
「それならば兄上に会う前に信晃の字を決めんとな!」
そういえばそんな話もありましたね。
「ホントに市が決めるのか?」
「うむ!」
いい笑顔で胸を張る市ちゃんかわいい。利家くんも顔が緩んでいるぞ。
「実はもう決めているでの!」
えっ早くね?
「ここの洞窟の前に藤の花があろう。あの花とそなたが妙に良い雰囲気でな」
「野人なのに?」
「野人なのに」
俺には野人と藤の花の組み合わせに雅な雰囲気は感じられないなぁ。これがジェネレーションギャップか!(違
「藤の字を用いて呼び易い名前、藤十郎というのはどうだ?」
「柳に藤。どちらも風にたなびく木ですね。のらりくらりとしたこの男に相応しい。さすがお市様、良いと思います」
それ褒めてなくね?とは言え利家くんのお墨付きも出た。
語呂もいいし特に異論はないかな。
「柳藤十郎信晃、か。うん、ありがとう、市。」
俺が礼を言うと今日一の笑顔を見せる市。その顔が妹の幼い頃と重なって思わず手が伸びて頭を撫でてしまった。
その行動に市も利家くんも完全に固まってしまった。いや、利家くんは腰の刀に手が伸びている。
「あ、すまん!馴れ馴れしすぎたよな!」
そう言って手を引こうとすると、市に手を掴まれた。
「い、いいの!そのまま続けていい…」
焚き火によって赤く照らされた顔が一層赤くなった気がする。だが本人が満更でもなさそうなので、俺は暫く市の頭を撫で続けるのであった。
正面からの利家くんの殺気には気付かないふりをして。
そうして夜が更けていく。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
翌日、目が覚めたら何故か市が腕の中にいて、利家くんに処刑されそうになるハプニングはあったものの、俺たちは信長の居城清洲城に向かうことになった。
今日も市は俺が背負っている。最早定位置だ。
移動速度はこっちの方が早いし、市が(以下略
利家くんは若武者らしく体力もあり、動きも軽かった。おまけに昨日報せに走らせた利家くんの部下が目印をつけて行った為、移動速度は思ったよりも出て、昼過ぎには森を抜けることができた。
森を抜けると迎えが来ており、今度は袴姿の男が数人と馬が数頭繋がれていた。
こちらの姿を見つけると一人の男が駆け出してきた。こちらは利家くんと違ってどこにでもいそうな平凡な顔をしている。人の事言えんのかって?ほっとけ!
「お市様!よくぞご無事で!」
「勝三郎か。出迎えご苦労」
勝三郎って誰だろう?ということでステータスオープン。
〜ステータス〜
名前:池田勝三郎恒興
レベル:7
年齢:18
所属:織田弾正忠家
職業:小姓
称号:信長の乳兄弟
状態:健康
体力:50/60
気力:50/50
妖力:-
力 :13
頑強:18(14+4)
敏捷:16
器用:16
知力:16
精神:15
幸運:5
忠誠:100
技術:剣術(太刀)、忍術(刀、鉤爪)、体術、投擲術、隠密、気配察知
〜装備〜
主武器:孫六兼元(攻撃力4+1)
副武器:苦無(攻撃力1)
頭:なし
胴:木綿の小袖/肩衣(頑強+2)
腕:なし
腰:木綿の袴(頑強+1)
脚:木綿の足袋(頑強+1)
装飾品1:なし
装飾品2:なし
ふぁっ
NINJA!忍術持ちだよこの人!
池田恒興って信長の乳兄弟だよね?え?忍者?どこにそんな要素があるの?
混乱する俺の前に池田恒興がやってきた。印象に残りにくい顔っていうのも忍者の条件なのかな…と益体もないことを考えていると、彼はにこやかに話しかけてくる。
「柳藤十郎殿、お市様をお救い頂き感謝致します。某は池田勝三郎と申します。これから清洲城へと向かいますが、貴殿は馬には乗れますかな?」
「え?乗れません」
乗馬なんてハイソな趣味は持ち合わせていませんことよオホホホ。
「となると柳殿は歩いて来ていただくことになりますが、お市様は先に某が城へとお連れします」
「はい、それでいい…」
「妾は藤十郎と一緒に向かうぞ?」
ピシリ、と音が聞こえそうなくらい恒興さんが固まった。
「えぇと、市さんや?」
「藤十郎は、妾と一緒にいたくないのか?」
「はい、一緒に行きましょう」
美少女が目をうるうるさせて上目遣いでお願いをするんじゃありません!どこで覚えてくるんだよ、そんなの。
「お、お市様、ですが柳殿は馬に乗れません。三郎様や帰蝶様もお市様のご帰還を心待ちにしております故…」
「むぅ…義姉上か…」
帰蝶の名に悩み始める市。その様子から帰蝶のことが大好きなんだろうということが見てとれる。
ここは背中を押してやるか。恒興さんも困っているしね。
「池田殿、ここから清洲城まではどれくらいの距離があるんですか?」
「そうですね…この道沿いに七里程ですね」
七里というと約30キロか。普通なら無理ゲーだけど、レベルが上がって気力と敏捷も上がってるし、走ったら2時間切れるかもな。
「市、やっぱり先に池田殿と行ってなさい」
「え!?」
絶望したような顔をするな!マジで泣きそうじゃんか!泣かれたら負けだと妹で学習している俺はすかさずフォローを入れる。
「七里くらいなら走ればそんなに時間はかからんし、市だって着替えたり色々あるだろう?先に行って身綺麗になって俺を出迎えてくれよ」
そういうと何か考え込む市。
暫く皆が固唾を飲んで見守っていると、納得したのか市は承諾してくれた。
恒興さんはホッとした顔をしてこちらに黙って礼をしてきた。
市自身が馬に乗るなんてことはなく、恒興さんの前に座って行くようだ。
「では藤十郎、妾は準備をするでの。待っておるから必ず来るのだぞ!又左、藤十郎が逃げ出さないようしっかり連れてくるのだ!」
「不肖、前田又左衛門利家、しかと承りました」
俺そんなに信用されてない?
恒興さんと市が見えなくなった頃、俺たちも清洲城に向かうことにした。
準備運動はバッチリであるが、利家くんからは不思議なものを見る目で見られた。解せぬ。
「それじゃあ前田殿、道案内よろしく」
「柳殿、本当に走って行くつもりか?七里を駆け続けるなど鍛えられていないと厳しいと思うが」
利家くんが心配そうな顔をしてこちらを見ている。いや、あれは心配そうというか何言ってんだこいつって顔か。
「まぁ俺も実際走ったことはないけど…市に見栄を切った手前、やっぱり無理だと思ったので歩いてきました、は格好がつかないでしょ」
「確かに」
男には格好つけにゃいかん時があるんじゃ。
その気持ちは利家くんにもわかるらしい、苦笑して手綱を引く。
さて、今の俺の身体測定長距離編、行ってみますか!
当作品では長さや面積は太閤検地後のものに統一します。本来はこの年代だと地域ごとにバラバラなのですが、混乱を避ける為と、何より筆者が面倒くさいので_:(´ཀ`」 ∠):_
馬も当時はサラブレッドみたいな馬はいませんが、この話はフィクションですのでご承知おきください。
ちなみに滝は養老の滝あたりをイメージしてます。道三とは同盟結んでるし、その辺まで鷹狩りに行ってもあり得なくはないってことで。