第二十六話 おけはざま の たたかい 3
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柴田本隊と合流したあと俺は先程の戦いについて利定くんたちと遊撃隊と佐々・千秋隊の状況を確認したが、酷いものだった。
遊撃隊は130人中戦死者30人、重傷者10人と、あの数を相手取ったにしてはかなり良い結果だったが、佐々隊は大将佐々政次を筆頭に180人中生存者は0、千秋隊は120名中生存者は千秋季忠を含む10名足らずという状態だ。
「戦とはこれ程までに人の命が散るものなのですね…」
秀継くんが唇を震わせながら呟くが、利定くんが即座にそれを否定する。
「いや右近、我々は400足らずであの数を相手にして100以上が生き残ったのです。しかも敵の半数以上を討ち取るという結果も出しています。大戦果ですよ?」
「そういえば喜太郎、敵は結局どれくらいの数だったんだ?」
「投降した者たちの話によると、先程の今川軍は蒲原宮内少輔氏徳を総大将とした凡そ15,000の軍とのことです。撤退したのが6,000ほど、散り散りに逃げ出した者達が3,000ほどと考えると我々だけで6,000近い敵兵を討ち取ったことになります」
その数字を聞いて秀継くんが俄かに活気付く。
「やはり今川軍よりも織田軍の方が精強ということですね!」
「織田軍が、というよりは藤十郎様が、という方が正しいですね。恐らく討ち取った6,000のうち殆どが藤十郎様の手柄だと思いますよ?」
「私も鍛錬を続けていればいつか藤十郎様のようになれるでしょうか?」
「その前に死んでしまうから、もう少し手近な目標を立てるべきですね」
利定くんが酷い。
「貴方には又左衛門殿という素晴らしい手本が身近にいるではないですか」
「兄上も素晴らしい武士だと思います!ですが藤十郎様はそれを上回る武勲を立て、私は小姓としてお側にいる事を許されております!ですから私は藤十郎様を手本としたいのです」
「あー、気持ちはわからぬでもないが、本当に藤十郎殿の動きは酷いぞ?雨霰と降ってくる矢に対して逃げもせず、自分に当たる矢のみを切り払うとか、腕前もだが心のありようも尋常ではない。少なくとも手前には無理だな」
目をキラキラさせた秀継くんに対し、信賢が横から首を突っ込んでくる。
「私にも無理ですね。そうだ、この後本隊同士が接敵したら矢合わせがあると思うので、そこで降ってくる矢というものを体感してみてはいかがでしょう?藤十郎様がいれば当たることはないと思いますし、柴田様に相談してみては?」
無茶苦茶言いやがる。いや、確かに後ろに秀継くんが居ようと一本たりとも後ろに通すつもりはないけどさ。
「それ、心の傷にならないか?」
「そうなったら藤十郎様を諦めて、又左衛門殿を手本にしてもらえばいいのです」
いいですね?と言わんばかりに利定くんは俺に目を向けてくる。
はいはい、了解しましたよ。
さすがに使いの者が伺いを立てられる内容ではないということで、俺自ら柴田勝家の元へ行き矢合わせの時に前に出てもいいか聞いたところ、拍子抜けするくらい簡単に許可された。
「矢薙ぎの藤十郎がこの目で見れるとは、味方の士気は上がり、敵は恐れ慄くだろう。存分にやれ」
とのことだ。みんな無茶苦茶なことに対して受け入れの土壌が整いすぎじゃないか?
遊撃隊の元に戻り許可された旨を伝えると秀継くんは大喜び。いや、飛んでくる矢って相当恐ろしいよ?俺もこのステータスがなかったら絶対やりたくないからな。秀継くんがトラウマを抱えないことを祈るばかりである。
そうこうするうちに今川の本陣と接敵したらしく、俺は秀継くんを連れて最前線へと向かうのであった。
俺たちが最前線に着いたのはちょうど鏑矢が放たれる時だった。
甲高い音を立てて鏑矢が空に放たれた直後、両軍の弓隊から大量の矢が放たれる。
その量は曇天の空を黒く染め、まさしく雨のように互いの軍へと降り注いでいく。
「ひぅ」
「右近、俺の後ろから決して離れるな。そこにいれば一本たりともお前に矢を届かせんよ」
引き攣ったような声を挙げる秀継くんに俺は忠告する。チラッと目をやると秀継くんは腰が抜けたのか座り込んでいる。
そして織田軍の弓隊は合わせ盾を構えて降り注ぐ矢に備えていた。これならば織田軍の被害は最小限だろう。
再び目を前に向けると矢は重力に乗ってその速度を上げ始めていた。
唸りを上げて矢が近づいて来るが、俺からしたら止まっているも同然だ。
降り注ぐ矢をひたすらに斬り払う。
そうして降り注ぐ矢がなくなると、俺と秀継くんの周りだけ結界でもあったかのように矢の刺さっていない地面が出来上がっていた。
「や、矢薙ぎの藤十郎……!」
そう呟いたのは誰だったか。
そしてその呟きが聞こえたかの如く、今川軍の前線が崩れ始める。
統制の取れた逃げ方ではない。まさに散り散りである。弓を捨て、武器を捨て、脇目を振らずに兵が逃げていく。
大将らしき人物が檄を飛ばすのが見えるが、立ち止まる者はほぼいない。
その様子を見て織田軍の槍・足軽隊が今川軍へと突撃して行った。
多くの兵がバラバラに逃げる軍と統制の取れた攻める軍。どちらが勝つかなど言うまでもないだろう。
前線がどんどん押し込まれていく。
こりゃ兵数差は思っているより圧倒的に少ないかもな。
「さて、右近。お前も首級を上げに行くか。初陣で敵大将でも取れば大金星だぞ?」
「も、申し訳ありません。腰が抜けてしまって…」
ありゃ、やっぱダメだったか。
秀継くんは座り込んだまま涙目でこちらを見上げて来る。そんな目で見られても、俺が提案した訳じゃないぞ?
まぁトラウマになったって感じでもなさそうだし大丈夫かな。
「とりあえずここにいると騎馬隊の邪魔になる。ほら、背負ってやるから行くぞ?」
気恥ずかしいのか、抵抗を見せる秀継くんを背負ったところで鼻の頭に水滴があたる。
ついに降ってきたか。
後は信長が上手く義元を討ち取れるかだな。
俺は今川本陣があるであろう方向を見ると、信長の健闘を祈りつつ、秀継くんを本陣へと連れていくのだった。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
〜今川本陣 side 義元〜
「何をやっておるか!敵はたかが4,000だぞ!とっととすり潰さんか!」
「治部大輔様!前線の兵は恐慌状態で完全に押し込まれております!既に井伊次郎直盛殿、久野宗忠元宗殿、久野宗国宗経殿が討ち死に!他の隊も奮戦しておりますが、押し返すには至っていません!」
くっ、一体何故こうなった!
彦五郎に家督を譲り、上洛に向けて万全の体制を整えてきた。
25,000もの兵を以ってすれば尾張の大うつけなど瞬く間に呑み込んでしまえるはずだった。
それがどうだ、25,000の兵のうち5,000は大高城を抑える砦を落とすために向かわせたので良い、だが露払いの為に送り出した15,000は400の敵を相手に6,000が討ち取られ、3,000は戻らぬ。
大将を務めた宮内少輔氏徳は「鬼が出た」と言っていたが、馬鹿馬鹿しい!これは人と人の戦だ!火縄の玉を弾いたなど、己が臆して狙いを外しただけであろう。
腰抜け氏徳は怒りに任せてその場で首を撥ねたが、もう少し話を聞いておくべきであったか!
前線の方を見やるが、激しく滝のような雨で煙ってしまい、その様子を伺うことはできない。
轟々と響く雨音で目の前の者との話も儘ならないほどだ。
「ええい、ここは良い!左馬介(義元の弟・今川氏豊)にも前に出るように伝えよ!全軍を以って織田軍を叩き潰せ!」
儂が怒鳴ると伝令が逃げるように走り去っていく。
儂は床机に座り込むと頭を抱える。
この雨が儂らに味方をしているのか、そうでないのかはわからぬ。
だがここで負ける訳にはいかんのだ!儂は海道一の弓取り。駿河、三河だけではなく尾張も、甲斐も、相模も、全ての国を支配する男になるのだ!
儂自ら前線に出て指揮を取るか、そう考えた次の瞬間、
儂は何かを感じて振り返った。
その目に飛び込んできたのは、
朱色の槍。
儂は刀を抜いて、ソレを迎え撃った。
〜side 織田信長〜
「三郎様っ、仕損じましたぁ!」
ちっ、あの距離まで近づいて仕留めきれぬとは!
さすがに海道一の弓取り、簡単に終わってはくれんか!
「決して逃すな!この場で必ず義元を仕留めるのだ!」
藤十郎と権六は上手くやっている。
奴らのおかげで今川軍は前掛かりになり、本陣が手薄になった。
おまけにこの雨で我らの駆ける音は気付かれず、簡単にここまで近づくことができた。
この機を逃せば次はない。
俺が馬を返し、義元へと再び向かおうとしたところで黒母衣衆の毛利新介が義元に飛びかかるのが見えた。
「今川治部大輔義元、毛利新介が討ち取ったりぃ!」
毛利新介が義元の首級を掲げ、母衣衆が鬨の声を上げる。
これで長かった今川家との戦いも終わる。氏真など、ものの数ではない。
俺が天を仰ぐと厚い雲の隙間から陽の光が見える。
雨が降り注ぐ中、射し込む陽の光によって見事な虹がかかる。
まるで天が我らを祝福しているかのようだ。
良い気分だ。この様な気分になるのはいつ以来であろうか。
「三郎様」
声の主を見れば、大変なことを成し遂げたなど微塵も思っていない顔で藤十郎が近づいてくる。
まったく、藤十郎が市と出会って我が家に来たことが天の導きであったな。
「藤十郎、大儀であった」
「はっ」
藤十郎が俺の前で跪く。どれだけの敵を倒してきたのかは分からぬが、決して易しい戦いではなかったであろう。だが此奴の具足には傷らしい傷もない。
味方でいてこれほど頼り甲斐のある男はおらんだろう。
「お主には清洲へ戻ったら話がある。良いな?」
「御意に」
今回のこやつの働きは疑うべくもない。
今回の褒賞について文句を言う者は誰もいないであろう。
すると一筋の光が藤十郎を照らす。
ふっ、本当に天から祝福されているのは此奴だけかも知れんな。
俺は此度の褒賞で喜ぶであろう者の顔を脳裏に浮かべると、戦の後始末をつけるべく踵を返すのであった。
のぶあき は おけはざま の たたかい に しょうりした!
〜ステータス〜
名前:柳藤十郎信晃
レベル:29 (1470/2900) ↑4
年齢:26
種族:人間
所属:織田家
職業:側仕え/遊撃隊大将
称号:急成長
状態:健康
体力:280/280 ↑40
気力:280/280 ↑40
妖力:79(78+1) ↑10
力 :89(73+16) ↑9
頑強:80(68+12) ↑9
敏捷:70(69+1) ↑10
器用:76(68+7+1) ↑11
知力:68 ↑8
精神:74(71+3) ↑9
幸運:56(50+6) ↑6
技術:剣術(全般)、槍術、無手格闘術、忍術(刀)、斧術、体術、急所突き、投擲術、解体、超集中、隠密、気配察知、夜目、飯綱の法、抵抗
必殺技:剣術 / 二連撃 ★★★★★、回転斬り ★★★★★、圧し切り ★★★★★
槍術 / 二連突き ★★★★☆
無手格闘術 / 正拳突き ★★★★☆、回し蹴り ★★★★★、後回し蹴り★★★★★
忍術 / 鎧貫き ★★★☆☆
斧術 / 兜割り ★★★☆☆
〜装備〜
主武器:矢薙ぎ兼近(攻撃力4+2)
副武器:忍刀・無銘(攻撃力2+1)
頭:鬼面前立の兜(頑強+3)
胴:仏胴(頑強+3)
腕:竹筒備えの玉滑りの籠手・仮(頑強+2、器用+1、妖力+1)
腰:佩楯(頑強+2)
脚:脛当て(頑強+2)
装飾品1:市のお守り(幸運+5)
装飾品2:ウサギの後ろ脚(幸運+1)
これにて桶狭間の戦いは終わりです。
信長の考える藤十郎への褒賞とは…?