第二話 はじめて の せんとう
一部残酷な表現があります。
主人公がピンチなのはこの話だけ(の予定)です。
はい、みなさんこんにちは!
いきなりのヘビーな戦闘に放り込まれて絶賛混乱中の柳くん(20歳)です!
オオカミたち が あらわれた!
ってか!?
もうね、オレサマオマエマルカジリと言わんばかりの殺意とヨダレが溢れるあのお顔。
ヤバいこれチュートリアルとかじゃなくて死にイベントか?
混乱する俺を余所に段々と距離を詰めてくるオオカミたち。
このままだとマジでマルカジリされてしまう。
ええい、ままよ!
男は度胸!俺はやれる子!
布の服と織布の洋袴に木の棒装備だぜ!やったね!
真っ当な令和に生きる真っ当な日本男児がオオカミなんぞと戦ったことなんてあるかぁ!
そりゃちょっとは武道もかじってきたさ!でも本気の殺意なんて受けたことねーよ!
「グルァッ!」
「ひぃっ!」
混乱している俺をいい獲物だと思ったのか、一匹のオオカミが飛びかかってくる。
それを何とか転がることで避けられたが、次もできるか分からない。
てか他にも後二匹いるんだろ!無理だよ!詰みだよ!
と思ったら他の二匹は襲ってくる気配はない。いや、逃がす気がないのはわかるが、見守っているような…
そういえば群れで狩りをする動物って狩りやすい獲物を題材に子供に狩りの練習をさせるって何かで聞いたな。
俺は獲物か!そうだな、木の棒しか持ってない人間はエサですね!
「ガァッ!」
「うおおっ!?」
また飛びかかって来るが今度も何とか避けれた。
数の上では一対一だ。落ち着け俺、Be cool。
…一度極限までテンパってから冷静になると普段よりよく状況が見えるもんだな。
あいつはさっきから直線的に飛びかかることしかしない。であれば上手く攻撃を合わせれば一太刀入れることが出来るかもしれない!
さぁ来い。人間様をなめるんじゃねぇぞ、犬っころ!
「グルァッ」
オオカミの身体が沈み込んだそのタイミングで木の棒を振る!このタイミングなら!
「おおぉぁ!」
ゴスッ
「キャウンッ」
「よしっ!」
狙いを外すことなくオオカミの鼻っ面に一撃を与えることが出来た!
結構いい音したし、転がったまま動けないみたいだ。このチャンスを逃す訳には…
「グルアァッ!」
「うわあぁ!」
気が逸れた瞬間、今まで様子見だった別のオオカミが飛びかかってくる。
咄嗟に木の棒で受けたが、最初の一撃でヒビでも入っていたのか、その衝撃で折れてしまった。
「マジかよ、一匹やられて本気モードってか…」
手元には折れた木の棒、相手は一匹減ったとはいえ後二匹。
夢なら覚めるだけだけど、現実ならここで死ぬぞ!
考えろ!諦めるな!生きる道を探すんだ!
咄嗟に折れた木の棒をそれぞれ両手に持つ。
「ガアァッ!」
その時自分の中でスイッチが切り替わるような音がした。
世界がミュートになる。世界がモノクロになる。世界がスローになる。
やつは口を開けている。
俺は手に先の尖った武器を持っている。
この武器をやつの口にぶち込む!
そのスローな世界の中で俺は落ち着いてその考えを実行した。
オオカミの口の中に武器の先が刺さった瞬間、自分の中のスイッチが切れ、世界が急激に戻っていった。
「ギャグンッ!」
オオカミの牙で木の棒は噛み砕かれ、さらに短くなってしまったが、確実に喉に突き刺さったようだ。
やつは血と悲鳴を上げながらその場に倒れ込む。
ピクピクと痙攣しているがもう起き上がることはなさそうだ。
その様子を見て最後の一匹は脱兎の如く逃げ出していった。
ひょっとしたらこいつが親で残りの二匹が子供だったのかもな。
「ははは…生き残った…」
正直手に残る感触と殺意から解放された事で腰が抜けそうになった。
けどここで動けなくなる訳にはいかない。まだやるべきことがある。
俺は残ったもう片方の折れた木の棒を持って、さっき殴り倒したオオカミの元へ行く。
こちらもまだ衝撃から立ち直れないのか、こちらに反応しない。
だが今ここで起きたのは俺とお前たちの殺し合いだ。
ここで見逃したら次に死ぬのは俺かもしれない。
かわいそうだけど動けないうちにトドメを刺すしかないんだ…
俺は誰かに言い訳をする様に折れた木の棒を、オオカミの目に振り下ろした。
戦闘シーンって難しいですね…