第十二話 ういじん 1
長くなってしまったので2つに分けます。
2も今日中に更新します。
1556年春、織田家に激震が走った。
信長の正妻・帰蝶の父である斎藤道三が息子の斎藤義龍により殺されたのだ。
信長は義龍が兵を起こしたと聞いて、自ら兵を率いて救援に向かったが間に合わず、勢いに乗った義龍軍に追われる事となった。
この戦いで何人かの武将が討ち取られ、可成さんも膝に怪我を負って退却を余儀なくされた。
この時俺は恒興さんと来るべき信勝改め達成との戦いに備えて清洲城天守の一室にいた。
「伝令!岩倉城に動きあり!清洲へ向けて伊勢守七兵衛尉信安が兵を出した模様!その数凡そ400!」
報せに来た兵に労いの言葉をかけ、恒興さんと俺はどうすべきか対応を練る。
「この機会に動くとは、恐らく伊勢守家は義龍と繋がっていますね」
「そうですね。ただ流石に400の数で清洲城を陥すのは無謀じゃないか?たぶん戻ってくる三郎様を途中で襲撃するつもりでしょう。そうすると向かう先は下津城跡地か」
「その辺りでしょうね。三郎様が美濃に向かった時の兵数は200。しかし敗走してどれくらいの数が残っているか…確実に三郎様の首を取りにきています」
そう語る恒興さんの顔は心なしが青醒めている。
「両軍がぶつかる前に叩く必要があるな」
「藤十郎殿」
「分かっている。勝三郎殿はここで達成に睨みを聞かせておいてくれ。俺はすぐにでも出立して単身三郎様の援護に向かう。」
「単身!?あなた一人で400の兵相手に立ち回るのは無理です!」
「今から兵を集めていたら間に合わなくなる。それに俺の立場はまだ"市姫の側仕え"か"新参の小姓"だ。そんなのに着いてくる兵はいないよ。大丈夫、俺の頑丈さを知っているだろう?」
俺が織田家に仕えるようになってから2年弱が経ち、恒興塾のお陰で大分顔が広くなったし、仲良くなった人も多い。だが兵を率いていけるだけの信用を得たかと言われると、否だ。
それに緊急を要するなら俺が単身走った方が早い。
「ですが…」
「じゃあ又左衛門殿か内蔵助殿に声をかけてください。重鎮の方々は次への備えがあって動けなくとも、馬廻衆なら多少融通が効くでしょう?」
「わかりました。誰か!前田又左衛門殿と佐々内蔵助殿に使いを出せ!可能な限り早く天守に出頭するようにと!」
しばらくすると利家くんと成政がやってきた。
「勝三郎殿、いかがなされた?」
「三郎様が義龍に敗れたのは聞いていますか?それに呼応して伊勢守信安が400の兵を以て、三郎様の退路を塞ごうとしています。その為お二人には兵を率いて下津城跡へと向かい、伊勢守軍を叩いて三郎様と合流した上で清洲へ帰還して下さい」
「なんじゃと!わかった!すぐに支度をする」
「そして藤十郎殿は二人に先行し、伊勢守軍を偵察、可能であれば陽動をお願いします」
「わかった。可能な限り数を減らしておく」
そう俺が言い放つと、勝三郎さんは呆れたように溜息を吐き、利家くんと成政が途端に詰め寄ってくる。
「藤十郎殿!?あんたが古今無双ともいえる強さを持っているのは知っているが、400は無茶だ!」
「そうだぞ!俺たちとともに出立すればいいではないか!功を焦りすぎだ!」
「二人とも落ち着けって、何も死にに行く訳じゃないし、功を焦っている訳でもない。一刻でも早く敵の先手を取れればそれだけ後がやりやすくなるんだ。俺が先行して敵軍の情報を集めて、罠を仕掛けておくことができれば、それだけこちらの損耗が減るじゃないか」
無論、罠=俺自身だ。馬よりも早く走れ、下手すれば馬ごと武士を叩き切れる、しかも追尾式。相手からしたら冗談のような罠で数を減らす。
「すでに敵は岩倉城を出ている。今から兵を集めて出立だと、合流する前に三郎様が接敵する。万が一があってからでは遅いだろう?心配するな、これは無理だと思ったら三郎様に合流して、三郎様だけでも君らが来るまで守り切ってみせるさ」
そう言うと二人は渋々納得したのか、出兵の準備の為部屋を後にした。
さて俺も準備をするか、と部屋を出ようとすると恒興さんに呼び止められる。
「藤十郎殿、ご武運を。お市様を泣かせないように」
「ありがとう。まだまだこんなところで死ぬつもりはないさ」
そう言うと今度こそ俺は部屋を後にした。
家に帰ると早速装備を整える。
小姓として自分の鎧は与えられていて、素早くそれを身につける。
〜ステータス〜
名前:柳藤十郎信晃
レベル:18 (224/1800) ↑2
年齢:22
所属:織田弾正忠家
職業:側仕え/小姓
称号:急成長
状態:健康
体力:170/170 ↑20
気力:170/170 ↑20
妖力:-
力 :65(49+16) ↑5
頑強:53(43+10) ↑5
敏捷:44(43+1) ↑7
器用:49(42+7) ↑6
知力:45 ↑5
精神:48(45+3) ↑6
幸運:39(33+6) ↑3
忠誠:95
技術:剣術(全般)、槍術、無手格闘術、忍術(刀)、斧術、体術、急所突き、投擲術、解体、隠密、気配察知、夜目
必殺技:剣術 / 二連撃 ★★★★★、回転斬り ★★★★☆、圧し切り ★☆☆☆☆
槍術 / 二連突き ★★★☆☆
無手格闘術 / 正拳突き ★★★☆☆、回し蹴り ★★★☆☆
忍術 / 鎧貫き ★★☆☆☆
斧術 / 兜割り ★☆☆☆☆
〜装備〜
主武器:無銘・直江志津兼近(攻撃力4+2)
副武器:忍刀・無銘(攻撃力2+1)
頭:鉢金(頑強+1)
胴:桶川胴(頑強+3)
腕:籠手(頑強+2)
腰:佩楯(頑強+2)
脚:脛当て(頑強+2)
装飾品1:市のお守り(幸運+5)
装飾品2:ウサギの後ろ脚(幸運+1)
この1年半で大分スキルが増えた。クエスト報酬の武器だったり、恒興塾の一環で覚えたものもある。
圧し切りについては何とか人目に付かないタイミングを見計らって、少しずつ使う事で習熟することができた。気配察知を取ってから、見張りがいるかどうかわかるようになったのはデカい。
一度取ってしまえは後は木刀だろうが素振りで熟練度は上がるから、ちょくちょく訓練の時に使う事にしている。
さすがに全てを★5にするには今の俺には時間が足りなかったが、習熟ボーナスでステータスが伸びているし十分だろう。
準備を整えた俺はその足で御館に向かい、市に会っていくことにした。一応俺はこれが初陣だし、何も言わずに出立するのは失礼かなとも思ったからだ。
部屋の前で待機していると慌てた様に市が出てきた。9歳になった市は幼いながらも少しずつ女性らしい雰囲気を備えつつあり、その女神度に磨きがかかってきている。
「藤十郎!?どうしたの?どうしてそんな格好を?」
「これから俺は三郎様をお助けする為に出立するんだ。その前に市に挨拶をしておこうかなと思って」
「兄上を!?兄上は無事なの?藤十郎は危なくないの?」
一気に色々と情報が入って混乱している市を落ち着かせる為に、俺は市の目を見ながらゆっくりと話しかける。
「正直三郎様が今どんな状況かはわからん。ただこちらに向かってきているのは確かだ。そして、それを狙う連中がいる。それを阻止する為に俺は行くんだよ。俺は頑丈だし、市がくれた御守りのご利益もある。ちゃんと無事に三郎様と帰ってくるさ」
そう言って頭を撫でると市は今にも泣きそうな顔をして抱きついてくる。
「約束よ!絶対に無事に帰ってきて!怪我したり、し、しし死んじゃったりしたら、許さないんだから!」
「あぁ、必ず帰ってくるよ。だから泣かないで笑顔で送り出してほしいな。市の笑顔は俺に力をくれるから」
俺がそう言うと市は着物の袖で涙を拭い、なんとか笑顔を作ってくれた。
今はこれで十分だその笑顔に俺も笑顔を返す。
市が見守る中俺は踵を返し、戦場へと赴くのだった。
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・
清洲城を出た俺は下津城跡にやってきた。
重い鎧を着込もうがステータスで強化された俺が走れば10分程で到着することが出来た。
まだ信長は到着していないが、信安軍はもう姿が遠目に見えている。
いや、400人の鎧武者ってのは壮観だなぁ。
道の真ん中でその様子を眺めていると、軍勢が止まった。
「なんだ貴様はァ!?」
軍勢の中から騎馬武者が一騎出てきて威圧する様に問いかけてくる。が、こちとら信長の圧を何度か受けているんだ。それに比べたら屁みたいなものである。
「俺は弾正忠家家臣、柳藤十郎信晃!こちらからも問いたい。何故兵を率いてここまで来られたのか!?」
そう答えると騎馬武者は鼻で笑った。
「たった一人で軍勢の前に現れるとは馬鹿なやつよ。貴様に答える筋合いはない!そこを退かねば死ぬことになるぞ!」
そう騎馬武者が言うと兵たちが抜刀し、槍を構える。
あれが大将か?ステータスを確認したいが距離がありすぎる。以前試したことがあるが、ステータスオープンの効果範囲は50mくらいだ。あの騎馬武者とは100mくらい離れている。
大将首を取りに行くのが一番楽なんだけどなぁ、とため息をつきながら俺も刀を抜く。
「さて死ぬのはどちらかな?死を恐れぬやつからかかってこい!」
俺がそう返すと、信安軍は一斉に俺目掛けて襲いかかってくるのであった。
前話の暗殺に関しては色々ご意見いただいております。ありがとうございます。全て目を通させていただいております。
個人的にもどうするか悩んだ話ではありましたが、信晃をまったく絡ませずに恒興さんの狙いを書くのが話の繋がりとして難しかったのと、この後(大分先ですが)信晃が忍術スキルをどうやって取らそうか思いつかなかったこともあり、こういった形になりました。
今回あっさり暗殺が成功したのは元々居城だった那古野城が舞台だったことで、構造を知り尽くしていたり、手の者を送り込みやすかったということがありました。
今後困ったら暗殺!って展開はありませんので、ご安心(?)下さい。




