第九話 ごぜんじあい
ジャンル別歴史(文芸)ランキングで日間1位、週間12位を頂きました!まさか自分の作品がこのような評価を頂けるとは感無量です…!
今後ともよろしくお願いします<(_ _)>
前話の最後、三左が謁見の場にいるのは立場的におかしいということで修正しました。
もう少し経てば参加してもおかしくない立場になるんですけどね…
気になる方はご確認下さい。
あれよあれよと言う間に本丸内の庭に御前試合会場が出来上がってしまった。
既に試合場には多くの人々が集まっており、前列の人が椅子に座り、その背後には立ち見の人間もかなりの数がいた。
さっきよりも人めっちゃ増えてるんですけどォ!?久々にこんなに人に囲まれたら緊張するんですけどォ!?
プチパニックに襲われてると利家くんが話しかけてくる。
「なんだ柳殿、緊張しているのか?」
「いや、こんなに人に見られてるのが久しぶりで…」
「ずっと森の中であれば仕方あるまい。なぁに、みんな娯楽がなくて暇だからな。こういう時は集まってくるんだ。たまにやる相撲大会も同じような感じよ」
これから織田家に仕えるのであれば慣れておけ、とのこと。慣れるかなぁ…。
でだ。俺と戦うよう言われた三左さんだが、先程試合場にやってきた時に見たステータスがこちら。
〜ステータス〜
名前:森三左衛門可成
レベル:16
年齢:31
所属:織田弾正忠家
職業:徒士頭
称号:攻めの三左
状態:健康
体力:70/70
気力:50/50
妖力:-
力 :19(18+1)
頑強:20(16+4)
敏捷:15(14+1)
器用:13(12+1)
知力:14
精神:15
幸運:15
忠誠:68
技術:槍術、剣術(太刀)
〜装備〜
主武器:木の槍(攻撃力2+1)
副武器:なし
頭:なし
胴:木綿の小袖/肩衣(頑強+2)
腕:なし
腰:木綿の袴(頑強+1)
脚:木綿の足袋(頑強+1)
装飾品1:木綿の襷(敏捷+1、器用+1)
装飾品2:木綿の鉢巻(力+1)
三左って、鬼武蔵こと森長可や信長の小姓で知られる森蘭丸の父親だ。歴戦の士であるからかステータスも他の人に比べて高い。
それにしても木の槍か。俺も森であれくらいの長さの棒は持ったんだけど何が違うんだろう?
考えられるのは穂先と石突きがあることかな?練習用だからか丸められた布みたいな物が付いている。
これは後で検証あるのみだな。
さて、対する俺の現在のステータスは、と。
〜ステータス〜
名前:柳藤十郎信晃
レベル:13 (877/1300)
年齢:20
所属:無所属
職業:なし
称号:急成長
状態:健康
体力:93/120
気力:120/120
妖力:-
力 :41(37+4)
頑強:33(29+4)
敏捷:29(28+1)
器用:32(27+4+1)
知力:31
精神:29
幸運:25(24+1)
忠誠:-
技術:剣術(全般)、急所突き、投石、解体
〜装備〜
主武器:木刀(攻撃力2+2)
副武器:なし
頭:なし
胴:木綿の小袖/肩衣(頑強+2)
腕:なし
腰:木綿の袴(頑強+1)
脚:木綿の足袋(頑強+1)
装飾品1:木綿の襷(敏捷+1、器用+1)
装飾品2:ウサギの後ろ脚(幸運+1)
うん、ステータスだけ見ると圧倒的だな。
これならステータスでどうにでもなるかもなぁ。
でもがっつり圧勝したら面目がーっ!とか言って後々揉めないかなぁ…
そんなことを考えていると可成さんがこちらにやってきた。
試合前の挨拶みたいなもんか。
「何やら大事になっておるなぁ」
「巻き込んでしまって申し訳ない」
「いやいや、某もせっかくの見せ場を頂いたのでな。お主には悪いが本気でやらせてもらうぞ?」
男臭い笑みを浮かべて反対側に帰っていく可成さん。
そうか、まだ可成さんは織田家に仕え始めたばっかりか。そりゃアピールする場があれば使いたいよな。
ますます気が重くなる。
暫くすると信長が市と恒興さんたちを引き連れて室内の観覧席にやってきた。
信長と市はそのまま席につき、恒興さんは試合場に降りてくる。
どうやら司会進行は恒興さんがやるようだ。
「それではこれより客人、柳藤十郎信晃殿の力試しとして御前試合を始める!この結果如何で織田家に迎え入れるかどうかが決まる!皆の者、将来戦場で槍を並べるかもしれん男だ。確りと見極めるように!
うわぁ、どんどんプレッシャーがかかる。椅子に座った何人かは見る目が面白い見せ物から、何かを見極める目になってるし!
「全員三郎様に、礼!」
そう恒興さんが号令をかけると、客人たちも一斉に信長たちの方に礼をする。
俺も慌ててそれに続く。
「織田方、森三左衛門可成!客人、柳藤十郎信晃!お互いに、礼!」
俺と可成さんは互いに頭を下げる。いよいよか…
「それでは両者尋常に勝負…始めぇ!」
試合開始の合図と共に可成さんが槍を構える。
穂先から石突きまでが俺の視線と一直線になるようにして、距離感を分からなくしている。
この時代では珍しい身長の俺にもきっちり合わせて来ているだけで、この人が只者でないことが見て取れる。
それに対して俺はいわゆる正眼の構えで迎える。というか、剣道なんて高校の時に授業で習った程度だ。完全にハッタリである。
「そいやあぁっ!」
気合いと共に可成さんが踏み込んでくる。ギリギリ俺の剣の間合いの外。踏み込んで来ても俺の目にはまだ槍は1つの点にしか見えない。
槍を見てはダメだ!可成さんの体全体を見ないと!
既に可成さんの体を見る限り槍は突き出されている!?
俺は転がるように避けて距離を取る。
あと一瞬遅ければ槍は俺の顔を捉えていただろう。
「ふむ。今のを避けると言うことはただの素人ではないと言うことか」
かなり無様な避け方だったろうに、それでも可成さんは力を抜くような素振りは見せない。
ですよねー
だって可成さんとしては信長に認められる為の戦いでもあるんだもんな。手を抜くわけがない。
俺は横目で信長たちの方を見る。
おい、信長、嬉しそうな顔してんじゃねーよ!!俺が無様で楽しいか!楽しいんだろうな、ちくしょう!
気持ちがくさくさして来たところで、その横の市が目に入った瞬間、俺は自分が市に対していかに不誠実であったかを思い知らされた。
市は祈るように手を合わせ、まるで己が試合に臨んでいるかのようにこちらを見ている。側付きの女性が何かを話しかけているが全く反応していない。
そうだよな。市は俺を望んだのだ。いくら妹に甘々であろう兄も、この試合結果次第ではその望みを叶えることはないだろう。
俺は洞窟で見せた市の素顔を思い出す。普段のちょっと高慢な感じではない、年相応の彼女はとても活き活きしているように見えた。
俺がいることで少しでもあの姿でいる時間が増えるのであれば力になりたい。俺の自惚れかもしれないが、彼女もそう思ってくれているから側にいろと言ってくれたのだと感じていた。
ビビっている時ではない。俺は覚悟を決めて改めて剣を構え直す。
それを見た可成さんはあの男臭い笑顔を見せると声をかけてくる。
「ほう、肝が据わったようだな。さっきとは別人のようだぞ?」
「俺のやらなければならない事を思い出したので」
そう返すと彼は更に笑みを深め、構えを深く取り直す。
「ならばよし。男が覚悟を決めたのだ。某も本気で行く」
そう言うと弾かれたように可成さんが踏み込んでくる。先ほどの一撃より遥かに速い!
だが俺にはステータスの恩恵がある。それを最大限に活かすため、感覚を身体に追いつかせる為、オオカミと戦った時の感覚を思い出せ!
カチリ、
スイッチが切り替わる音が、あの時よりハッキリと聞こえる。
世界から色が消え、音が消え、あらゆる動きがスローになる。
矢のようだった可成さんの動きが急激に遅くなる。
その目線、体の動きからどこを狙っているかがよくわかる。
まずは首。上体をずらす事で避ける。
避けた首を薙ぎ払うように、槍が追ってくるが身体を沈めてそれを避ける。
続いて胴に向かって再び槍が突かれるがこれは木刀を添えるようにして軌道をずらす。
見える。そしてどうすれば確実に攻撃を避けれるか、いなせるかがわかる。
これが剣術スキルの力なのか、ステータスの恩恵なのかはわからない。だが、今はわからなくてもいい!この戦いに勝ってから思う存分考えればいいことだ。
五度、六度と攻撃を避けるうちに可成さんの表情が焦るような顔に変化する。
観客がポカンとした顔をしているのがわかる。
信長は真剣な顔でこちらを見ている。
市は………そうそう、お前はやっぱり笑顔が似合う。待っていろよ、すぐに終わらせて安心させてやるからさ。
世界に音が戻った。
可成さんが地面を踏みしめる音が聞こえる。次の攻撃に備えて強く大地を踏みしめる。
可成さんの呼吸が聞こえる。力を溜めるために息を吸い込み、槍を突き出し始めると息が漏れ始める。
七度目の攻撃が風を切る音が聞こえる。捻りの加わった槍が唸りを上げながら眼前に迫る。だが動きはスローだ。
俺は木刀から右手を離し、その槍を掴んだ。
可成さんの顔が驚愕に染まる。
世界に色が戻った。
可成さんの顔が青醒めているのがわかる。
掴まれた槍を取り戻そうと体の重心が後ろに下がるのがわかる。
俺はそれに合わせて大きく踏み込む。
まだ世界はスローだ。可成さんが引くよりも俺が踏み込む方が速い。
踏み込むのに合わせて左手の木刀を可成さんの首目掛けて横薙ぎに振るい、当たる瞬間に寸止めをする。
決まった。そう感じた時、スローだった世界が元に戻る。
一連の俺の動きに気付いた可成さんも、周りの人間もすべてが固まっている。
「っ!そこまで!勝者、柳藤十郎信晃!」
その中でも一早く再起動した恒興さんが試合を締めた。
その声に試合場にざわめきが戻ってくる。
可成さんはまだ信じられないのか目を見開いたまま固まっている。
俺が木刀を首から外すと、ようやく可成さんも再起動し、よろよろと槍を戻す。
その後互いに礼をし、可成さんは下がり、俺だけ試合場に残される。
え?この場でなんか沙汰があるの?
「柳殿、今の戦い、実に見事であった。目にも留まらぬ三左の猛攻を難無く捌いた上、槍を掴んで止めるとは……くくっ、面白い。実に面白い!」
信長はそう言うと顔を片手で覆い笑い始める。
「最初に報せを聞いた時にはどんな野人が来るのかと思った。実際に会うてみて、戦いが始まった時には取るに足らない者だと思った。それがどうだ、急に武神もかくやと言う動きで、攻めの三左を赤子の手を捻るかの如くあしらってしまった。何がきっかけじゃ?」
そう問いかける信長に対し、俺は市の顔を見た後に今の気持ちを正直に伝えることにした。
「俺は市に笑っていてほしい。他所行きの貼り付けられたような小綺麗な顔ではなく、市らしい輝く活き活きとした顔で笑っていてほしいんだ。その為に俺を望むのであれば、俺は全身全霊を以て応えなければいけない。」
俺がそう言うと信長は笑いを止め、真剣な眼差しでこちらを見据える。
市は顔を真っ赤にしてあたふたしている。
「俺は確かに市を賊からその身を救った。それは事実だ。だけど賊を、人を初めて殺して壊れかけた俺の心を救ったのは市だ。今の俺があるのは市のお陰だ。その市が俺の勝利を願っているのを見た、きっかけというならそれだな」
そう言い切った俺に対し、信長は初めて俺に対して穏やかな笑みを浮かべた。
「よく言った、柳殿。いや、藤十郎!俺はお前を我が家臣として迎えよう。暫くは市の望み通りに、側仕えの務めを果たせ。だがその力を内に秘めているだけでは織田家の、いや武の世界の損失よ。追って別の沙汰も出す。市、お前もそれで良いな?」
「えぇ、兄上。ありがとうございます」
「あぁ。これからよろしくお願いします」
市と俺は承諾の意を返す。
「皆の者聞こえたな!柳藤十郎はこれより織田家の仲間だ!此奴はその力で望みを叶えたのだ。異論のある者はおらんな?」
「「「ははぁっ!」」」
その場にいた全ての人が首を垂れる。
こうして俺は織田家の人間として生きていくことになったのだった。
のぶあき は もりよしなり に しょうりした!
〜ステータス〜
名前:柳藤十郎信晃
レベル:14 (777/1400) ↑1
年齢:20
所属:織田弾正忠家
職業:側仕え
称号:急成長
状態:健康
体力:93/130 ↑10
気力:120/130 ↑10
妖力:-
力 :43(39+4) ↑2
頑強:36(32+4) ↑3
敏捷:31(30+1) ↑2
器用:35(30+4+1) ↑3
知力:33 ↑2
精神:32 ↑3
幸運:27(26+1) ↑2
忠誠:-
技術:剣術(全般)、急所突き、投石、解体
〜装備〜
主武器:木刀(攻撃力2+2)
副武器:なし
頭:なし
胴:木綿の小袖/肩衣(頑強+2)
腕:なし
腰:木綿の袴(頑強+1)
脚:木綿の足袋(頑強+1)
装飾品1:木綿の襷(敏捷+1、器用+1)
装飾品2:ウサギの後ろ脚(幸運+1)
これにて第一章終了です。
いやぁ、戦闘シーンって難しいですね。元々動きは考えていたのですが、いざ文字に起こすとなると難産でした。
この作品では男性(大名とか武将とか)に仕える人間を小姓、女性(嫁、母、姉妹など)に仕える人間を側仕えとしています。役割はそれほど変わりはないですけどね。
第二章ではいよいよ信長が全国に名を広めるあの戦いや、そこに参戦したあの武将たちが集うまでの話を進めていきます。
第一章では明らかにならなかったスキルの話や、二本のへしきり長谷部などのからくりについても語れたらいいなと思っています。
第二章開始まで期間を開けるつもりはありませんので、今後ともよろしくお願い致します。