AHO! 4
只野は、学生のころから熱心なPCネットゲーマーであった。
あらゆるネットゲームに精通していたが、特にその中でもMMORPGには大学生時代に
ドハマリし、学業そっちのけで遊んでしまい、あやうく中退しそうになったほどだ。
大学生になり、稼いだアルバイト代をほぼほぼ課金に突っ込んだ。仮想空間の世界に
無限の可能性を感じ、課金パワーを投資してでも強くなることが、何よりのいきがいであった。
しかしそんな只野も、社会人になり、いきがいであったMMORPGから疎遠となる。
10年以上現役を遠ざかっていた只野だが、ふとしたネット広告で運命の出会いを果たす。
「7年の開発期間と、総費用数百億をかけた、超話題のVRMMORPG、ついにサービス開始!
今もっと熱い[アストラル・ホーム・オンライン]に乗り遅れるな!」
アストラル・ホーム・オンライン…こ、これは…!!!
VRといえば、先進的な技術で一時期話題となったものの、「あれ、なんか思ってたのと違う。
肩こるし、付け心地微妙だし、ゴーグルない方がいいやこれ」という、元も子もない理由で
下火となった技術であるが、時が立ち、VR技術も進歩してきたことで、遂に超リアルで
サクサク動く、期待に恥じない、超高性能AIを搭載した、VRMMORPGが遂に
満を持して登場したのだ!
只野はそのネットニュースを見かけた翌日、半ば発作的に職場を退職し、AHOに全力を
注ごうと心に決めたのであった。
美麗グラフィックによる長いオープニング(20分)を視聴し終えた只野は、
「綺麗だけど、なっげぇ」と思わず呟く。
長すぎて、結局ムービーの後半なんて、内容をなんかよく覚えてない。
「ええっと、確か」
ふと、オープニングの後に、チュートリアルが入るんだったなと思い出す。
この後の流れは、あらかじめ予習している。
ネットゲームにおいて、予習は大事である。
チュートリアルでは、とある危機に瀕した町が舞台である。
世界観としては、剣と魔法が飛び交う中世ダークファンタジーだ。
最初は、このゲームのNPCをプレイヤーキャラとして操作し、
1つ1つ、基本操作を習得していく。
自キャラのクリエイトはその後だ。
ダークな世界観に漏れず、曇天の空模様であった。
目の前には、ぼろぼろの布切れを身にまとう高齢者が敷物に果物を並べ、
似合わない剣を片手に青年が村の入口へと駆け出し、
みるからに「俺は悪人だ」と言わんばかりのギラついた眼の商人が、
奴隷を引き連れ、練り歩いていた。
VRゴーグルの画面中央には、”ブリジ町”と表示されている。
さっきのムービーであったな。
ブリジ橋だったか。
橋橋。
ちなみに、町という設定だが、画面に表示されている町人の数が少ない。
「んんーーー?動作を軽くするために、あえて人数を少ないのかーーー?
最初のチュートリアルなんだからさーーーもっと気合入れなきゃさーーー
駄目だよーーー最初が肝心でしょーーーーーーーー?」などと、
以前働いていた時のうざったい課長の物まねをして、勝手に邪推する。
「いかんいかん、課長のことを思い出してストレスが…」
うっと1人うめいていると、目の前に灰色ローブの女性が立っていた。
ローブを深く羽織り、わずかに見えるブロンドの髪、
凛とした表情、エメラルドグリーンの瞳をしている。
おそらくプリーン、その人だろう。
そっくりさんかもしれないので、一応、
プリーン(仮)としておく。
プリーン(仮)は、目の前の民衆に向かって、大声で叫んだ。
「民よ!!!我が声を聞いてほしい!!!」