表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/4

AHO! 1

初投稿です。読んでいただけたら幸いです。

「民よ!!!我が声を聞いてほしい!!!」


どんよりとした曇天の中、大きな叫び声が、静かな町の中の空気を通った。

早朝、本来であれば活気づく町の中心部も、今となってはポツリポツリと

わずかにしか人がおらず、陰鬱な天気がよく似合うほどに沈んだ雰囲気が漂っていた。


お世辞にでも品質が良いとは言い難いくすんだ果物を、

布の敷かれた地面に淡々と並べ始めて商売を始め出す高齢の女性も、

大事そうにお守りを握りしめ、似合わない剣を片手に町の入口へと向かう青年も、

奴隷を引き連れ、首に繋いだ鎖を引っ張り、急いで歩けと怒鳴る、

ギラギラとした眼つきの奴隷商人も、その奴隷も、

そこにいる誰しもが足を止め、一斉に大声がした方向に目をみやった。


叫び声をあげるのは、小柄な身体には似合わない、身の丈より幾分も

大きい年季の入った灰色のローブを羽織った女性。

深くローブを着込んでいるため、肢体はハッキリ見えないが、

わずかに臨むその顔は、凛としていた。

突然の風にローブの端をはためかせ、

生気のこもった鋭いエメラルドグリーンの瞳で、

1人1人の聴衆の眼をにらみつけ、更に言葉を紡ぐ。


「このまま戦えば、餌となり殺されるか、あるいは捕虜となり、

さながら生き地獄を味わうことになるであろう!

我々が人のまま生きてゆくならば!

この戦いは無意味だ!今すぐ撤退せよ!

神は決して我らを見捨てやしない!」



その演説を聞いた民衆は、一様に苦い顔をしつつ、

つまらないものを見たといわんばかりに視線を元へ戻した。


「何故だ!何故、私の声は民に届かない!」


灰色のローブの女性は思うような反応が得られず、がっくりとうなだれた。


その女性の隣には、静かに、

しかし、隠せぬほどの圧倒的な存在感を放つ、

中年男性が立っていた。


腕を組み壁に背をもたれ、目を伏せているその男は、一言でいえば”異様”であった。

肩にかけるように斜めに通した、一見しただけで上等な品質な厚めの獣皮で、

ナイフ等の小道具をスムーズに取り出せるよう可動性を優先した胸当てを装着し、

胸当ての隙間から覗く素肌には、痛々しいほどの無数の傷痕があり、歴戦の戦士を

彷彿とさせる、筋肉隆々の男である。

なにより目を見張るのは、大男の図体の背には、背丈ほどもある。

果たして剣といえるかどうか怪しい、あまりに無骨で、分厚い「鉄の塊」の

大剣が、そこにはあった。


取って付けたような柄には、赤黒い染みを作った包帯が巻かれていた。

大剣は、その存在感を消すにはいささか不躾な、素材が正体不明の漆黒の鞘に

おさまっていた。

その中年男性は、鞘を無言で撫でた後、おもむろに片手でグッと柄を握り直し、

人間業とは思えぬその怪力で、ヒョイと一振り回しし、再び肩に背負い直した。


「…そこの姐さん、そんな御高説、誰も聞きやしませんて。

 ここには、絶望した者しか残ってませんから。

 あ、この果実、食べます?」

レンガ作りの店先から、果肉をシャリとかじながらスッと身を乗り出し、

つまらなそうな顔でそう告げたのは、緑髪の少女であった。


子供のような背丈に、精一杯の荷が入るであろう布袋を

ガッシリと背負い、尖った耳と風変わりな布服が特徴的な

少し跳ねた緑髪が特徴の少女である。

緑髪の少女は、灰色ローブの女性と中年男性に向かって、

果物をポイッと無造作に投げ渡す。


「あ、お代は結構です。私のおごりです」


灰色ローブの女性は慌てて受け取ろうとするも、その手からこぼれ、

地面に落ちてしまう。中年男性は片手で無言でパシリと受け取った。

果物をしげしげと見つめ、いくぶんか固まった後、おもむろに

身に装着しているナイフを取り出し、せっせと皮をむき始めた。


「…どなたか存じあげませんが、ありがとう…」


灰色ローブの女性は落ちた果実を拾い上げながら、苦しげにつぶやく。


「そんな御高説を垂れるために、この町へ来たというのですか。

 もはや、残された時間は、ないというのに」


緑髪の少女はわざとらしく身をすくませ、続けざまにこう告げた。


「この町はもうすぐ滅びるというのに」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ