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16/22

16:先はいまだ長く



「悪いけど、埋葬のひとつもしてあげられないんだ」


 落ちた革袋や、砕け散ったウェトル・ファルレムスの牙を拾い集めていると、いつの間にかまた男の元まで戻って来ていた。


 雪原には魔物の死骸の他に、何人もの人が伏せっている。当然、動くものはもういない。


 彼らは全員、ここにそのままにしておくしかなかった。雪が無ければ埋葬もできたのかもしれないが、どちらにせよその選択はしなかっただろう。

 こんなに騒ぎを起こして、血の臭いを漂わせては長居するわけにもいかないのだ。


 だからこそ、ごめんなさい。

 そう心の中で謝る。

 死後の安らぎを願う。

 それしかできない。



 一人静かに瞑目していると、隣に立つ少女が消え入りそうな声で「トピアスさん……」と呟く。


――そうか、彼はトピアスと言うのか。


 口ぶりから考えるに、彼は彼女の父親ではなかったようだ。

 それでも自らの命を投げうって戦った男の姿に、ユリシスはついいつかの誰かを重ねて見てしまう。そういうのはよくないとわかってはいるのだが。

 軽く頭を振って、浮かんだ光景を消し去った。


 なんにせよ、名前だけでも知れてよかったとユリシスの心は僅かばかりにも慰めを得た。

 ほんの短い時間だったとはいえ、肩を並べて共に戦った仲だ。名前も知らないまま別れるのはどうにも寂しかったのだ。



 そういえば。


「……なあ、名前。何ていうんだ」


 まだ彼女の名前も知らなかったことに思い至った。しかし考えそのままに口をついた後、少しぶっきらぼうな聞き方になってしまったことに少しばかり後悔した。


「……シュルヴィ」

「シュルヴィ……シュルヴィか」


 それでも彼女はそれを気にした様子はなく――いや、気にするような余裕もないのだろうか。それを何とも言えない気持ちで受け止めながら、彼女の名前を小さな声で反芻する。


 忘れないように。


 刻み込むように。


 重ねないように。



 それはユリシスにとって、それぞれ違う意味合いから大事なことだ。

 一つ目は単純に、名前を忘れないため。

 二つ目は、たった一つだけ残った命を今度こそ守り抜くと誓うために。

 三つ目は――



 不意に袖を引かれたことで、ユリシスは横へと視線をやる。瞑ったままだった目を開けると、銀色の照り返し照り返しがやけに眩しかった。

 それもほんの一瞬だ。眩しさに目が慣れると訝しげな顔をしたシュルヴィと目が合った。

 そこでようやく、今の自分の様子が傍目からはぼさっとしていたようにでも見えていただろうことに気が付いた。

 どれだけそうしていたのだろうか。変な人だと思われてしまっただろうか。


「あなたは?」


 内心少し慌てていたが、彼女の言葉に「ああ」と納得した。なんてことはない。こちらの名前を教えていないだけだった。

 渋る理由なんてない。ユリシスは自らの名を告げる。


「ユリシスだよ」


 よろしく。そう小さく続けて。



 ***



 背嚢の千切れた紐を結びなおす。

 そのまま肩にかければ、ずいぶん久々に背負う気がする。肩に掛かる紐は毛皮や防寒着の上からもきつく食い込むようで、ずっしりと背に響く重さは地面へ引きずり倒そうとでもしているようだ。

 体の痛みがそれを助長しているのか、あちこちから悲鳴が上がった。


 しかしそんなことにかまけている暇はない。


「これ、貰ってくよ」


 ユリシスは男――トピアスの遺体の前に屈みこむと、手に持っていたツルハシを、それと腰のベルトからナイフを取り外す。

 ツルハシは硬い鎧を持つものに有効だということがわかったから。ナイフは、手持ちののものがもうガタが来そうだからだ。


「あの子守るのに使うから……許してくれよ」


 死体漁りは正直なところ気が引ける。

 しかし、生きるためには目を瞑らないといけないことだってある。



「お前も、尻尾くらいは貰うぞ」


 続いて沈黙したファルレムスの一匹のもとへと向かい、さっそく貰い受けたナイフを滑らせる。

 この場で解体する余裕もないし、死骸そのものを持って移動するのも難しい。

 ならばせめてとその特徴的な尻尾だけでも貰っていこうというわけだ。


 尻尾は処理が大変だが、見返りは大きいだろう。

 何せよく目立つ。ニーウェルム同様威嚇にでもなればと思ってのことだ。


 そうでなくとも、長さと太さを兼ね備え、毛が逆立ちふわふわとしている尾は襟巻にでもすれば温かさも見込めるはずだ。

 ちらと横目でシュルヴィの様子を伺う。彼女も防寒着を着込んではいるが、線の細さからどうしても寒そうに見えてしまう。



「水場、あればいいんだけどな」


 まともに毛皮を使うには、せめて水洗いくらいはしなければいけない。そうでないと駄目になるのも早いだろうし、獣臭さが抜けないどころか血生臭いままになってしまう。


 しかし平地すら碌に見当たらない滑らかな尾根付近には水場なんて期待できそうにない。


「少し下りるか?」


 自分も、そして彼女も。肉体的にも精神的にも疲労が溜まっているはず。一度どこかで休んだほうがいいかもしれない。



 しかしその前に。


「……済んだか?」


 こちらの様子を読んだのか、亡くなった人々のもとで祈りを捧げていたシュルヴィがゆっくりと顔を上げる。


「そうか。じゃあ、行こうか」


 こくりと静かに頷くのを確認すると、ユリシスは徐に歩き出した。


「そっちは……」


 しかしすぐさま待ったが掛かる。


「わかってる。けど、少しだけ我慢してくれ。役に立つもの、貰っていかないといけないから」


 ユリシスが向かおうとしたのは、彼が、彼女らが辿ってきた道。あの荷車があった場所だ。当然、ここと同じような光景を目にすることになる。彼女にとって、これ以上ないほど残酷な仕打ちをすることになる。


 しかしどうしても足を向ける必要があったのだ。

 シュルヴィは荷物の類を何も持っていない。

 この場に倒れていた人も皆そうだ。

 きっと、着の身着のままで逃げるしかなかったのだろう。

 ユリシスのように常に背嚢を背負ってでもいないと、急な事態には対応できない。もし襲われてから荷物なんて気にしていたら、その間に魔物に食われてしまう。


 ユリシスの手持ちの物資を分け与えようにも、自分の分すら碌に足りてないのだから不便な思いをすることは間違いない。




 さくり、さくりと雪の上に足跡を刻んでいく。行きとは正反対にゆっくりと。

 血の臭いにつられた魔物もまだいるかもしれないのだ。慎重さは欠かさず、しかし時には祈りのために立ち止まりながら。


 ユリシスは日の暮れを気にして天を見上げる。まだ空は明るく、天候も穏やかだ。しかし時間などあっという間に過ぎるし、天気もいつまでもつのか予想もつかない。

 それでも瞑目し、胸の内で何かを語っているのだろうシュルヴィの後ろ姿を見ていると、ユリシスは何も言えなかった。


 太陽が天頂から幾分傾いた頃になって、ようやく二人は荷車の位置にまで戻ってくることができた。

 幸い魔物と遭遇するようなこともなく安全な道中ではあった。もう獲物が残っていないことを知っているのか、それとも争いに巻き込まれるのを嫌ったのか。どちらでもない、別の理由からかもしれない。


 魔物がいないのは道中だけでなく、ここも同じ。新たに荒らされるようなことはなく、目の前にはユリシスが初めに見た光景と変わらない光景が広がっている。

 何一つ変わっていない。

 壊れた荷車に死んだロバ。散乱する物資に――無数の血溜まり。


「……辛いなら、待ってて」


 何かを堪えるような表情をする彼女にそう告げ、ユリシスは一人積み荷や散らばった荷物の物色を始めた。


「――大丈夫」


 しかし、気丈な声が背後から掛けられる。

 案外芯が強いのか、そんなことを思いながらも振り返ることも手を止めることもせず、「そっか」と小さく返した。


「何が必要なの?」

「そうだな――」


 必要なものは食料、飲み水、毛布。薬の類に、焚き火用の木材。ぱっと思い浮かぶのはそれくらいだった。


「それと、自分で何か必要だと思うようなものかな。ああ、布なんかは何にでも使えるから、余裕があったらそれも」


 彼女にも当然荷物は持ってもらうつもりだった。しかし余りに大荷物を持たせる気はさすがにない。


「わかった」という彼女のつぶやきを最後に、それからはお互い無言に手だけを動かしていた。ユリシスとしては聞きたいこと、話したいことがないわけでもなかった。しかしそれは今ここで、というのも躊躇われ、ただただ作業に没頭することで気を紛らわせていた。


 崩れかけの木箱の蓋を開け、詰められた物資を漁る。使えそうなものは背嚢に詰め込み、収まらなければ新たに袋を探す。


 ひとまずはこれくらいでいいだろうと袋の口を締め、荷車を後にする。今度は雪の上に散らばったものを拝借していく。

 主に拾うのは散乱した木材だ。壊れた荷車の破片や、杖代わりにでもしていたのか、この辺りでは見かけないような立派な木の枝など。


 樹林帯にでも行かない限り山肌は雪に埋もれてばかりで、枝を探すのも一苦労な現状ではこれらの木材はありがたかった。動いている間はともかく、野営中の焚火は生命線だ。

 手持ちも洞窟で落としてきたらしく、これまでは雪を掘り返して枝を集めていたのだがこれからは少しは楽ができるだろう。



 木片の回収も粗方終えると、最後は道具――否、武器だ。


 この場から拝借していた斧は先の戦いでひしゃげてしまっていた。まだ鈍器としてなら使えそうではあったが、本来の用途や刃物としての使用に関しては首を振らざるを得ない。

 刃先一つをとってもウェトル・ファルレムスの牙にぶつけたからなのか見事にぼろぼろと欠け、一回り小さくする程研がなければいけないほどだ。


 しかし斧はなかなかに有効な武器ではあった。ニーウェルム程度ならばうまく当てればそれだけで追い払うことも可能だ。

 そのことに味を占めたユリシスは同じような斧を探し、ボロボロのそれと取り換えた。




「さすがに、全部持っていくとなると重いな」


 鉈、斧、そしてツルハシ。予備にと新たに拾ったナイフを含めすべてベルトから吊るしてみると重さが限界なのかずり落ちそうになり、刃が触れ合うことでガチャガチャと音もなってしまう。いくら採集用の頑丈なベルトとはいえそれは変わらず、特に音に関しては少し工夫が必要だった。


 重さはベルトだけの問題ではない。単純にユリシスが持てる重さにもかかわってくる。

 普段ならば問題ないのだが、この雪山で、そして体中に疲労など諸々が蓄積した状態でどれだけの重量に耐えられるか。


「いつでも下せるようにしとくか」


 動きが遅いからと怪我でもしたら目も当てられない。

 とりあえずは全てを持っていくとして、魔物と相対した時などは簡単に下せるようにしておこう、そう結論を下す。


 そのためにと布切れを腰紐代わりに巻き付け、ナイフなど比較的軽い物を差していく。

 ツルハシも取り回しを良くするために柄の端に穴をあけ、頭部分に結んだ紐を通すことで肩にかけれるように手を加えた。

 実際に肩に掛けてみれば、少々動きづらさを感じるものの歩く分には問題なさそうだ。


 斧はベルトの腰裏に引っ掛け、鉈はそのまま。

 随分重装備になったが、その分取れる選択肢も広がったのだと、ひとまず自身を納得させた。



 ユリシスのほうは準備も整い、あとはシュルヴィを待つだけ。その前に何か見落としはないかとぐるりと辺りを見渡していると、血溜まりの一つに目が留まった。

 そっと歩み寄り、地に落ちたそれへと手を伸ばした。





「これ、持っておきな」


 荷物をまとめている途中のシュルヴィへと足を向け、そして血を拭って、拾った物を彼女へと差し出す。


 それは、一振りのナイフだ。


 長さも短く、狩猟用というよりは軽作業に使うようなもの。

 それをおっかなびっくりといった様子の彼女に、ユリシスは無理やり押し付けた。


「……わたし、」

「別に、戦えってんじゃないさ。それでも一応、護身用に。そうでなくても何かと便利だからさ」


 最悪、彼女が〝一人で生きなければならなくなったとき〟のためにも、ナイフくらいは持っているべきだろう。


――使い方も少しずつ教えようか。


 両の掌に乗せられたナイフをまじまじと眺める彼女を見ながら、ユリシスはふっと笑みを零した。


 そういえば、誰かに教えられることはあっても、誰かに何かを教えるようなことはなかったな、そう考えながら。


 とりあえず、彼女の手から与えたばかりの刃物を取り上げ、剥き出しの刃に布を巻き付けてから彼女の腰紐にそっと差した。



 ***



 後はシュルヴィの身支度が整うのを待つだけ。そんな段階になり、手持無沙汰なユリシスは周囲の警戒にと視線を彼方此方へと張り巡らさせていた。


「あの、これ」


 そこへシュルヴィが一枚の紙を広げながら歩いてきた。


「何、これ」

「……知らない? 地図だよ」

「地図?」


 シュルヴィが見せたのはデリアラス連峰周辺のことを記した地図だった。しかし地図の存在自体知らなかったユリシスにとってそれはうねうねと線がのたうち、自然物を模した落書きが散見し、何らかの目印が施され、所々にメモ書きがある。そんな意図不明の何かにしか見えなかった。


「えっと、なんて言えばいいんだろう」


 知らないとは思っていなかったのか、説明に困るシュルヴィ。そんな彼女をよそにユリシスは頭を捻りながら地図へと目を落としていると、彷徨っていた視線がある一点、メモ書きの一つで止まった。


「ん?」


 そこには『メイル』と記されていた。

 そしてあることに思い至ったユリシスは『メイル』から伸びる線を目でたどると、またメモ書きで止まる。しかし違う。これは知らない。また道を戻り、別の方向を辿り行くと。


「ああ、そういう」


 そこには『パント』と記されている。


「わかったの?」

「何となく」


 それがわかれば線も、落書きのように見えた絵も何なのかがわかってくる。森や山を歩く際、湖や滝、川や大岩などをよく目印として利用していた。それと同じことなのだろうと一人納得する。


「今ってどのあたりなのか、わかるか?」

「……多分、この辺り」


 少し迷ったのちにシュルヴィが指をさした位置、その周辺を探してみるも、求めていた物はない。そのことに落胆するも、そんなものかとすぐに割り切る。

 線――地図に記された道から少し離れると空白が目立つことから情報が不十分なのだろう。わざわざ道から外れる必要もないのだからそれは仕方ない。

 ここから近い水場の位置でもわかれば、そう考えていたのだが求めすぎだったらしい。


 それにしても。


――随分遠くまで来てたみたいだ。


 この地図がどれだけ正確に距離を表しているのかはわからない。それでも地図を見た限りでは現在の位置とメイル村、いやパント村は地図上では遥かに離れていた。

 いつのまにかパント村だけでなく、他のいくつかの集落すらも素通りしていたようだった。

 ここから一番近いのは『タルク』と書かれた集落だ。しかしそれは進行方向とは、逆。


――タルクってところから来たのか。


 ちょうど今の位置から道を戻ればタルクにつながる。彼女の出身も自ずとわかるというものだ。


 なんで村を出ることになったのか。気になりはするが、そのことを聞くのはどうにも憚られていた。いつか彼女のほうから教えてくれるのだろうか、そんなことをぼんやりと考える。


――まあ、想像はつくけれど。


 タルク村とメイル村はそれなりに離れた位置にある。間に山も挟み、地理的にも、地形的にも距離がある。

 それでも、大きく見れば同じ地域だ。標高もどちらも高地であることに変わりなく、似たような気候であればそこで育てられる作物もまた同じものだろう。

 そして、同じような大雨に見舞われ、村自体が同じような状況に陥っていてもおかしくない。



「……これからどうするの?」


 今度は袖を引かれるのではなく、声を掛けられることで考え事から引き戻された。


「そうだな、ひとまずどこか休めそうなところを探すつもりだけれど」


 洞窟を抜けてからというもの、強行軍で歩みを進めていたユリシスだったがシュルヴィにまでそれを強要するつもりはない。ここからはまた慎重な道中になるだろう。


「シュルヴィ……たちはどこに行く予定だったんだ?」


 再び地図に目を落とす。タルク村からこちらの方向へ進むのならば一番近いのはニレシアという集落だ。しかし。


「えっと、ウィルクマン……って街だって」

「ウィルクマン?」


 目を這わせてみても近場にそんな名前の集落はない。


――それに、街?


 そこでユリシスは一気に地図の端のほうまで視線を飛ばした。


「あった」


 もしやとは思ったが、ウィルクマンというのは随分大きな集落――いや街らしい。おそらくはユリシスらの最終的な目的地でもあったところだろう。


「ニレシアとか、ノーランツとかじゃなくて?」

「うん。近場の村は、どこも……受け入れる余裕がないだろうからって」

「……」


 目を伏せてそう言うシュルヴィに、ユリシスは掛ける言葉を見つけられなかった。それは彼女のほうも同じだったのかもしれない。

 ユリシスが自分の同類だと、それくらいは彼女も察しているだろう。


「……なら、猶更どこかで体を休めないとな」


 努めて明るく声を出せば、シュルヴィはそっと顔を上げた。


「どうして?」

「そりゃ、道はまだまだ長いんだからさ」


 その言葉に、これから目指す地を彼女も察したようだった。



 洞窟を抜けてからというもの、ユリシスも途中の集落に寄るより一気に山越えをするべきだと考えていた。しかしそれは道がわからないからであって、地図というものを手にした今、状況は大きく変わっていた。


 それでもニレシアでもなく、ノーランツでもなく。どれだけ日数が掛かるかわからないウィルクマンを目指すことにしたのは、守るべき者ができたからだ。


 魔物からではない。〝人間〟からだ。


 一人二人ならば、どれだけ困窮していても迎え入れる余裕くらいはあるかもしれない。

 しかし、それは可能性の話だ。可能性だけならば、逆の……いや、もっと酷い話だってありえる。


 僅かとはいえ食糧を持った子供二人。それもユリシスが持つのは大半は肉だ。干し肉に燻製肉。野草や果実を望めない以上、これから新たに得るかもしれないのも、やっぱり動物か魔物の肉だろう。

 飢えた人たちにとって、それがどれだけ魅力的に映るだろうか。それを持つ子供二人をどれだけ疎ましく思うだろかう。


 知らぬ誰かよりだったら、身内のことのほうを優先するはずだ。


 受け入れられないだけでなく、食料を奪われるだけでなく。最悪は命もろとも奪われることだ。


 集団でならば簡単に手出しはできなかっただろう。ユリシス一人だけならば荷物を誤魔化すことも逃げることも簡単だっただろう。

 しかし、連れができてしまったから――



 不安そうな顔と、目が合った。


「……たどり着けるかな」

「大丈夫さ」

「また魔物に襲われるかもしれない」

「俺が追っ払うよ」

「ご飯、足りなくなるかも」

「俺が獲ってくるさ」


 それを見ていると、どうにも複雑な思いが湧き上がってくるようで、ユリシスは無責任な言葉を並べてでも、彼女の不安を取り払ってあげたくなった。


「でも、それじゃ――」

「大丈夫」


 何かを言いかけたのすら遮って、言葉を重ねた。



「行こう」

「……うん」


 歩き出せば、おずおずとした足音が後に続いた。



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