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失われたその果てに  作者: miuki
第1章.出会い
8/12

Ⅶ.壊れた平穏

AM09:40


「……」



「あの……」



「……」



「ちょっと……?」



「……」



無言で付いてくる四宮姫香を背に僕、天野悠斗は逃亡もかなわず学校の校門前まで着いてしまった。



「本当に…中まで来るつもり…?」



「……」



どんなに問いかけをしても理帆と瓜二つの四宮姫香は喜怒哀楽の激しかった玲奈の面影をぶち壊すには容易な程無表情で無言を貫いていた。

彼女の桃色の髪からは女の子特有な柔らかな香りはせず戦場ののりきった焦げ臭さが残っていた。

流石に戦場でボロボロになった姿のまま一般の高校まで付いてこられるわけにはいかない為止むを得ず授業に戻るのは諦めて一旦家に帰る決断をした。

授業をサボって戻ってきたらボロボロで若干衣服がはだけて胸元が見えている美少女を教室に連れてきたら確実に生徒指導室へと直行は間逃れない、四宮姫香の推定バストサイズは明らかに巨乳の域に達している為この姿はまずい…何よりも変な噂で目立ちたくはない。



「一旦僕の家に戻って着替えてもらう…そのボロボロのままじゃ…流石に…ね?」



「……」



「いい加減になんか喋ってくれないですかね?」



「……」



コミニケーションを取るのは不可能だと半分諦め始めたその刹那ー



「お持ち帰り…?」



「ようやく喋ったと思ったらなんか人聞き悪くないですか!????」



決してやましい気持ちはなかったのは事実。

彼女がいくら元カノの理帆に似てるからとはいえ僕は節操なしではない…しっかり四宮姫香と玲奈は割り切っているつもり…いな、、割り切れていないから桐崎十夜の策士にハマって目をつけられてしまったのだろうが…



「四宮さんの今の状態が道ゆくお子様の目に悪すぎるからボロボロの服から綺麗な服装に着替えましょうって事を言いたいんですよ」



「……」



「やっと喋るようになったと思ったのにまた喋らなくなった…」



彼女の思考が読めなさすぎる

監視役に四宮姫香選んだ桐崎十夜はかなり良い判断力を用いているのを改めて実感したのと同時にとてつもなく恨んでしまった



「あのやろぉ…ほんと許せない…」



「……」



「帰り道…無言なのもつまらないしちょっと話しないか?…そのぉ…あのな、、四宮さんは理帆って名前の君と瓜二つな子…知っていますかね?」



「理…帆…?知らない…」



わかっていた答えが返ってきた…当然の事だが四宮と理帆は別人だ…だがそれでも僕の中では四宮は本当は理帆なんだと都合のいい事ばかり考えている…散々醜い争いをしている人間を蔑んでいたはずなのに僕自身がそいつらと同様に自分の都合のいい解釈ばかりして楽な方楽な方へと物事をすり替えようとしていた…理帆は記憶をなくしていて今は四宮として生きているのでは?

あの3年前失ったと思っていた理帆は死んではいなかったのでは?身勝手な考えを今目の前にいる四宮姫香に押し付けてしまっている。

そんな自分に自己嫌悪に襲われ吐きそうになったが四宮の無表情ながらもこちらの顔色を伺うような上目遣いで見られてつい理帆と重ねてしまい自分の中に今でも潜んでいる恋心が揺さぶられてしまい胸が苦しくなってしまう。


あぁ…やっぱり可愛いなぁ…会いたいな…笑い合いたいな…



「好きだ…」



「……っ!」



無意識に僕の口から溢れてしまったその言葉は四宮の耳に入ってしまった、意外にも四宮の鉄仮面は崩れて少しだけだが眉がつり上がったように見えた



「…っ、あっ、ち、違うんだ…その…ごめん…へんなこと言って…君を見ていると理帆の事を思い出してしまって思わず理帆への気持ちが…その…漏れてしまった…ごめん…女々しいよね」



「…」



生きてるはずのない存在に囚われてただただ追いすがる醜い失われた恋。



「理帆さんは…幸せ者ですね。あなたに凄く愛されているのが伝わります…女々しくありません。とても素敵だと思いますよ?……ただ」



下に目線を落としながら四宮は意外にも僕に励ましの言葉を送ってくれた。その予想外の対応に驚きもあったが今は堪え切れないこの胸を締め付ける苦しみが調和されていくような感覚にあてられていた。



「天野君が理帆さんの事で苦しみ続けてる事を知ったら…理帆さんは悲しむと思いますよ?天野君がもし理帆さんが自分のせいで何年も心を痛めていたらどうですか?」



「……っ、、」



ぐうの音も出ない…



「もし私が…大切な男性がいてその人が自分の死でずっと苦しみ続けてたら辛いです…かといって自分以外の女性と改めてお付き合いしていたら思うところがあるのは否定できませんがそれでも幸せに生き続けてるだけでもう十分です…なので…」



四宮は僕に手を差し出して…



「幸せへの一歩…踏み出してみませんか?」



「監視という名のストーカーに慰められるとかつくづく惨めになってくるなぁ…でもありがとう四宮」



忘れてしまいそうになるが四宮は僕の監視として桐崎から送られた監視役だ…気を許すのは危険、それでもここまで漬け込ませてしまったのは玲奈の容姿をしているからだろうか?



「これから電車に乗るが四宮…君はお金今持っているのか?」



「大丈夫…飛ぶ」



「あっ、、持ってないんっすね…なら僕が出すからあんまりホイホイと日常生活で異能力使うなよ…いざという時バテて戦えなくなる」



「一般人なのにやけに異能力者の生活習慣で気をつけるべき点に詳しいんだね」


「ゲホッゲッホッ!!あぁ〜急に咳がぁぁ」



完全に四宮にペースを握られてしまった

きっと今頃桐崎十夜は得意げに計画通りだと思ってるんだろう…



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「計画通りだっ!」



「…よく天野悠斗の過去の親密な相手を調査できましたね、運良く四宮姫香が瓜二つの子で運良く単独任務を任せられる神童でなければこんな任務任せられませんでしたよね」


城ヶ崎は当然のような疑問を桐崎にふった



「麒凛は何か私に探りを入れたいようだけれどあいにく私は口が堅いのが取り柄でね…残念ながら君が望むような情報の開示はできないかな」



「はぐらかすんではなくてあえて否定はせず真っ向から情報提供を拒む姿勢をしてしてくるあたりがこういう交渉のやり取りに長けているのが分かりますね」



「そりゃ、当然だよ…序列4位の私は一応はここの生徒会長兼総司令の席を授かってる身なんだ…べらべら軽はずみにお喋りするような人がその席を授かっていたらそれこそ異能力特務防衛機関の上の者達への信頼も世間一般から疑いの目を向けられかねない」



「たかだが学生なのに…重い責任を委ねられましたね…」



「序列5位の麒凛も生徒会長ではないにしても副会長としてはそうそう変わりない責任の重さはあるから頑張りたまえ」



「そうですね…天野悠斗…イレギュラーな彼の存在は急を要する議題ではありますが今は……」



「あぁ…ここ最近の…」



桐崎と城ヶ崎は強ばった表情で大量の資料と書籍を睨みつけて何かしらの調べ事をしていた。



「本当なら四宮1人でなんて任せてられない…のが本音だけれど今のこの状況の方が優先度が高い…天野悠斗は敵ではないのは確実だから危険視はせずとも見過ごせない存在…万が一敵に目をつけられて敵の手に落ちたら彼の存在は大きすぎる…が……それでもそれよりも明らかにこちらへ驚異を向けている者の存在…これを早急に蹴りを付けないと…()()()()()()()()



「……」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


AM10:05


「なぁ…理帆…」



「…理帆じゃなくて四宮姫香」



「あっ…すまない…四宮さんは…その…昔の記憶がないとかそういう事ってあったりするのか…?」



電車の中、お互い無言で居続けるのも苦しいし僕はとっさに自分の中の四宮姫香と理帆は別人だと認識しようとする為決定的な四宮姫香の過去についての問をふってみた。

だが思いの外四宮が驚いたような表情が出ていて無表情な彼女に表情が現れた



「どうして…知ってるのですか…?」



その返しは驚きと共に僕の妄想だと思っていた可能性に希望を与えてしまう一言となった



「えっ…本当に、、記憶喪失…なの?」



「…うん、ここ2、3年前の記憶しか私にはない…この四宮姫香って名前も…桐崎さんが付けてくれた」



「なんでことだよ…この御都合主義な展開…ぇ…四宮さんは記憶をなくしたかったけとか思い出す限りで一番古い記憶とか何かある…?」



「…気が付いたら目の前に桐崎さんがいて…この力のあり方を教えて貰って名前をもらって…私が生きるべき理由を貰った…だから私は君の言う理帆じゃなくて桐崎さんに従うただの四宮姫香…」



悲しい回答ー

無表情な子なのではなく感情を捨ててしまった言わば抜け殻状態なのに生命活動だけを続けている人形と言っても差し支えない四宮姫香の記憶

四宮は自分が何者かも知らない為目の前に手を差し伸べてくれた桐崎十夜の言うがままにただ支配されていたのだ…

もし彼女に手を差し出してくれた人が全くの別人だったら彼女の記憶喪失後の生活はまた大きく変わっていたのだろう…皮肉な事に桐崎の存在のおかげでもしかしたら理帆かもしれない彼女と運命的な再会をした今の僕の心境はなんとも複雑なところではあった。

今の全てをなくした彼女にこのちっぽけな僕は何ができるのか?


何もしてあげられないー

これが現実ー

これが無力な僕の存在

だが目の前の彼女を見捨ててはおかない…



「なぁ…れい…四宮…」



「…」



「その四宮姫香って名前が…元の名前じゃなくて桐崎さんに付けられた名前だってんならその…僕は君の事は理帆…と呼んでも…いいか………?」



「……っ、!?」



凄いゲスな事だとは分かっている…本人と決まったわけでもない昨夜会ったばかりの子に自分の元カノの面影を感じたが為に重ね合わせてそして今は亡き元カノの名前で呼んでもいいかとお願いをする。

それでも僕は四宮姫香と理帆に縋り付きたかった…あれから何もかもをなくしてもう失うものは何もないと思わされるほど空っぽだった僕の前に再びこうして彼女が現れた…それだけで理帆を失った日から止まっていた僕の時間が動き出そうな気がしていた。



「好きに呼んでいいよ…別にこの四宮って名前も桐崎さんに付けられただけで本当の名前じゃないですし…」



「あ、ありがとう…理帆…」



「…どう致しまして」



僕の暗がりに続いた止まってた日常は平穏の皮をかぶっていただけで悲劇が続いていただけだった、

だがそんな平穏は今日を境に失われてそして今また動き出そうとしていた…だがそれは同時に異能力に関わっていく事にもなる



AM11:00


「ここが僕の家だ」



「家…一軒家なのね…てっきりアパートとか借家だと思ってた」



「…やっぱり僕の家族構成とかも調べ済みみたいだね…その発言をするって事は…」



「……天野君が一人暮らしなのは‥調査が入って分かっていました…それに両親は既に…」



「あぁ…10年前…の町一つを巻き込んだ大火災で亡くなった…最初の異能力者が現れたあの日に…」



そう…僕は両親を失い…愛する彼女も亡くし世界が僕へと向けた牙を痛い程知っている…だからこそ人々の私欲にまみれた醜い争いが嫌いだ。

己の権力や立場を利用した身勝手な自論を振りかざす権力者が嫌いだ。

何よりも他者を見下し貶める強者の皮を被った精神的弱者が嫌いだ。

だけれどもそれに関わる事に疲れてしまったから僕は逃げ出そうと思った、この理不尽な世界に、、

もう失う物など何も無い、、だから怖いことなんてない…けれどまた…失いたくないものに手を伸ばしてしまった…そう…彼女の名は四宮姫香。



昨夜で僕の平穏は崩れ去りそしてまたー失いたくない大切な存在ができてしまったー


手を伸ばせば掴み取れるー

だけれど無力な自分はそれを手のひらから零れ落ち失ってしまう…分かっていたけど頭で理解しても結局僕の中で玲奈を求めてしまい手を伸ばしてしまう。



今度こそは…今度こそは…失うわけにはいけない



こうして僕に三度、孤独と隣合わせの恐怖の日常が始まってしまったーー

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