ヌルヌルと
「あ、こら。逃げるな」
言っている相手は、タコだ。
海釣りに来て、たまたまタコを釣り上げた俺だったが、文字通りつかみどころがなく、ヌルヌルと逃げ惑っている。
「大人しく、こん中入れって」
持って来ていたクーラーボックスは、凍らせた保冷剤がいくつも入っている。
冷たいところは本能的に嫌なのだろう。
俺も嫌だ、まだ暖かい方がマシだ。
かといって、防水性に難ありということもあって、なかなか海水をくんで、というには難しい。
と思いながら、ケースにしまおうと四苦八苦していると、ヌルリと手から外れ、海へとお帰りになった。
「あーあ、やっちまったなぁ、兄ちゃん」
横の釣り人から笑われた。
「まあ、あいつが嫌がってたんでしょう」
なんて強がりを言いつつも、今日の晩飯のための魚釣りを再開した。
ちなみに、タコは釣れず、魚は上がってこなかった。