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セーブ&ロードのできる宿屋さん

セーブ&ロードのできる宿屋さん SS1

作者: 稲荷竜

 ブランはいつもパチリと目覚める。


 朝だ。

『銀の狐亭』は宿屋なので、朝早くから夜遅くまで仕事がある。


 だから、ブランの朝はかなり早い。

 ……だというのに、家族四人で使っているベッドには、もう妹のノワしか眠っていなかった。


 ブランは、未だにむにゃむにゃと寝息をたてるノワの顔を見る。

 彼女とブランは双子の姉妹だ。


 顔立ちは、たぶん似ているのだろう。

 でも毛並みの色などで、だいぶ違う印象に見えるはずだ。


 ノワは黒。

 そして、ブランは白だ。


 さらに、浮かべる表情というか、普段の顔もちょっと違うと思う。

 ブランは自分が妹のノワに比べて理知的であるという自覚があった。


 実際、口ゲンカをすると毎回勝つ。

 つまり頭の出来が違う。

 証明終了。



「……ふっ、勝った」



 朝から眠っている妹に勝利してブランはほくそ笑む。

 ついでとばかりに、妹の鼻を人差し指でこねまわした。


 妹のノワは嫌そうに寝返りを打って逃れる。

 それでも起きない妹の眠りの深さにあきれる。



「……お前を起こさないと私が仕事できないんですけど」



 妹を起こすのはブランの仕事だった。

 しかしこの妹、眠りが非常に深い。


 なにをしてもなかなか起きない。

 殴ったり蹴ったりすると、逆に永眠させかねない。

 なので、毎朝、ブランは妹を起こすのに大変な苦労をさせられていた。



「……」



 不機嫌な顔で妹を見下ろす。

 そして、おもむろに両方のほっぺたを左右に引っぱった。



「……ふにゃふにゃ」



 妹はそんな名状しがたい音声を出す。

 だが、起きない。



「おい、起きなさい。どうしてほっぺたを引っぱられて起きないでいられるんですか。私なら一瞬で跳ね起きて腹部に一撃ですよ」



 ブランの攻撃力で人を殴るとだいたい穴が空く。

 なのでブランがなかなか起きない時は、彼女の両親か妹以外の人物は触れてはならない。


 ともあれ――妹は起きない。

 ブランは次なる、実績ある作戦に出ることにした。


 くすぐるのである。

 ひっぱってもつねっても起きない妹だが、くすぐられると比較的起きやすいのだ。


 しかも、服の上からなんていう生易しいことはしない。

 肌を直接だ。


 ブランは妹のかぶっていた毛布をはいだ。

 そして、腰のあたりに馬乗りになる。


 この時点で起きてもよさそうなのだが、妹は寝息を立てたままだ。

 気持ちよさそうな妹の顔を見ながら、ブランは両手をわきわきさせる。


 そして――

 妹の服の下に、手を突っこんだ。


 妹が身をよじる。

 しかし、逃さない。抱きつくようにしながらブランはくすぐり攻撃を続ける。


 まだ起きない。

 動きはどんどん速くなっていく。服がめくれ、へそが露出した。

 そのへそのあたりをなでる。妹が「ん」と鼻にかかったような声を出す。


 しかし、未だに起きない。

 じれったいとばかりにブランは大きく服をめくる。へそのまわりで指を動かす。肋骨に沿うように指をはわせる。

 妹がくすぐったそうに身をよじる。口から声が漏れる頻度が増える。


 もう少し。

 何度も妹を起こした経験から、ブランはそう判断する。


 妹が身をよじる。のがれようと上へ上へと動いていく。

 しかしブランは逃さないよう、腰をおさえる足にこめる力を少しだけ強くする。


 ガッチリと固定されて、妹は上半身を揺らす。

 ブランはほとんど抱きつくような体勢で妹の肌に指を這わせ続ける。

 そして――



「やだぁ!」



 ドン!

 妹がついに目覚めて、上に乗ったブランを突き飛ばした。


 ブランはベッドから落ち、床に転がる。

 そして、部屋の壁に激突して、止まった。



「……」

「……あ、ブラン、おはよう」



 妹のノワは、のんびりとあくびをしながら、そんなことを言う。

 ブランはへたりこむような体勢で、不機嫌な顔をしながら、「おはよう」と返した。

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