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プロローグ

昔から一人でいられる場所を探すのが好きだった。




好き、と言ったら語弊があるのかもしれない。

少なくとも小さい時の俺は、探さずにはいられなかった。



家の中はいつも激しい怒鳴り声が響いていた。

お父さんの責める声にお母さんのヒステリックな叫び声。

幼かった俺はただしたすらに怖くて自分の部屋で一人、布団にうずくまり耳を塞ぐ毎日。

「だったら逃げ出せばいい」

そう思うようになったのはいつだったけか。



小さな子供たちが誰の目にも触れそうにない空間を秘密基地と呼ぶのと同じだ。

それが俺にとっては逃げ場だっただけ。




公園の裏道にある大きな木の下。

小学校の花壇のはずれにある体育館の裏側。

中学校の図書室の奥にある使われていない資料室。

高校の駐輪場を抜けた先にあるぽっかり空いたスペース。



俺が大学にあがって、やっぱり逃げるように一人暮らしを始めれば両親はまもなく離婚した。

だからもう、逃げる理由はなくなったのに。








「どーしてこうもまた…俺は何を探してるんだか…」



講義が終わって、空きコマと昼休みが重なった少し長めの空き時間。

最近できたばかりの友達もみんな講義にでていて一人、何をする予定もなく大学を歩いていれば

自然と足は人の少ない方へ。



「お、」




7号館。

授業がほとんどない古い建物、って入学前の説明会で先輩が言ってたっけ。



こういう建物はなんだかんだで倉庫として使われることが多いから中で一人になれるのは意外に不可能だ。

そう、だから探すとしたら外。



太陽が照り付ける四月の桜舞う今日。

特に何もない建物の狭い裏を通る人なんてもちろんいるはずもなくて。

少し進んだ先に見えたのは狙ったようにそこだけ芝生の生えた小さな空間。

一本だけたつ大きな木はうまく日差しを受けて青々と立派で。



一人の世界にはもってこい。



一人の世界にはもってこい、なのに。





「ひ、と…?!」





なんで。

なんでこんな所に人が。

しかも、




「寝てる、し…」





ぐっすり、っていう言葉がしっくりくるぐらいの爆睡ぶり。

一体どんな夢を見ているのか気になるぐらいの気持ちよさそうな寝顔。



ふわり、と自然に伸びた指先が彼女の前髪を揺らして、

ぴくり、と反応をしてゆっくりと目を覚ます。




あ、可愛い子だ。




伏せられた睫毛は長く、ぱっちりとした目を際立たせる。

くるくると巻かれた茶色い髪を手で溶かした彼女が寝ぼけたのか俺の手を柔らかく包んで引き寄せて、



ちゅ、と優しく口づけをする。




驚き半分。

あとの半分は?なんて野暮なこと聞かないでほしい。



久しぶりの女の子の柔らかい感触。

更にはキスまで落とされてしまえば、嫌でもドキドキしてしまうのが男だ。



やっと意識が現実に戻されたように瞬きをした彼女が繋がった手を見て、そのまま視線を上にあげて、目線があって。




「…っ!!」




ようやく俺を視界にとらえる。




「あーー…と…おはよ?」


「…」


「え?あれ?起きてる?」


「…」


「ていうかこんな所で寝たら風邪ひくぞ。まだ肌寒いんだし。」


「…」


「…あのさ、少しぐらい反応を返してくれてもいいんじゃない?」




こっちだって気まずいんだ。

こんな漫画みたいな出会いがあるんだってたった今知って、




なんて運命的。




ここから…そう、恋が始まってもおかしくない。





大学一年、幸先良いスタートダッシュ。

もう一度その髪に手を伸ばして、



『名前は?』



そう、尋ねるつもりだった。


























「近づくな変態!!」







































壮絶な拒絶をされる前までは。



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