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猫のいる街1

「なんだ……ここは」


 さきほどまで悪態にまみれていた真城が思わず感嘆の声をだした。それもそうだ。目の前に広がっているのは、多くの人間がひしめく巨大な街だった。


 ここは商店街のようで、右をみても左をみても人ひとひと。老若男女はおおよそそろっているが子供はみえない。現実の世界と同じような雑踏が、かすかに傾斜のある街の、大きな通りにひしめいていた。


 だが、現実とは違うところもいくつもあった。


 まず、たくさんの猫がいた。民家の屋根や、路地の隙間。道路の縁や、白ペンキの長イスの下などに。三毛猫や真っ白な子猫、ジト目の黒猫など種類も幅広い。視界に必ず一匹は猫が紛れ、暇そうにしっぽを振っている。


 そしてもう一つ、これが一番大きな現実との相違点だった。


「……おっきい木…」


 これまで沈黙を守っていた日野が思わずそう漏らす。その木は街の中心から生えており、枝は建物に沿って遠くまで延びている。二階建ての屋根に掠るくらいの低さで、マンションの区画の合間を縫うようにして張り巡らされていた。よくこのような長さの枝が折れないものだと思った。


「あれがこの街のメインポータルだよ」


 熾は大樹を見上げて言った。


 街の奥に見える大樹の幹は太く、隣にある小さな教会?と比較すると二倍ほどの大きさになっていた。


 ここから見える街の大部分は、その木の枝で殆どの日光を遮られていたが、町並みは決して暗くない。大樹から伸びた枝や葉が、仄かに発光しているせいだ。その光は、先ほど手に触れた光る竹によく似ていたが、より光度が高く、力強い輝きを放っていた。


「ちょっとズレた。さすがに俄仕込みのクラフトじゃだめだったか」


『ふん。壁の真ん中にとばされなかっただけまじだ』


「むぅ」


 熾と枯炭は耳元で言い合いをしている。


「ねえ。ここは?」


 割り込むように、ケニーが訊ねた。


『ここはマウザーシティって呼ばれてる街だ』


「……夢の木坂通りか。商店街だよ。マウザーシティはこの国の首都で、一番大きい街だ」


 なるほど、マウザーシティ(猫の街)か。そのままだなと思った。


 ――しかし国、首都だと?夢の中だぞ?


『私はこの町は好かない。監視ゴーレムに猫を使う辺り侘寂をわかっとらん』


 肩に乗った枯炭が口を開く。落ち着かない様子で、街の端々にいる猫達を警戒していた。


「この人たちは……まさか全員?」


 ケニーが、活気に満ちて街を闊歩している人や、露天でシートを広げ、札のようなもの?を売買しているらしい人々を見て、信じられない様子で言った。


「ああ。君らと同じ夢の旅行者だよ。ちょびっと『人形』も混じっているけれど」


「人形?なんだそれ」


 真城が訊ねる。


「ま、それはおいおいね。僕らはこの世界で自由に動ける人間を総称して、『ウォーカー』って呼んでる。君達はいわば新人ウォーカーってところか」


 俺たちはそれぞれきょろきょろと、街ゆく人々や建築物を見渡した。猫の量や大樹を除けば、夢の町並みは奇天烈ということはなく、現実に存在する地方都市とそう大差はないだろう。


「……何でもいいが、もったいぶり過ぎなんだよ。ウォーカーでもウォーターでもいいけどよ。もう三時も半ばだぜ?俺もうすぐバイトなんだよ」


 ただ一人真城は焦っていた。


「それは……ある意味大丈夫。というかそんな時間からバイトして平気なのか?」


 熾はもっともな質問をぶつける。学生がそんな時間に就業するのはあまり褒められたものではない。


「割いいんだよ。つーか大丈夫って本当だろうな。嘘だったらぶん殴るからな」


「いいよ」


 しかしウォーカー、歩行者か。そういう固有名称が生まれるくらい、この世界が多くの人々に共有されていると予想できる。


 ――ならばなぜ、この世界が現実世界に知られていない?

 俺がネットで調べた限りこんな世界のことなど、全くみることはなかった。この規模で実在の人間達が夢見ているのなら、もっと噂になってもいいはずだ。


「よう熾!新入りの案内か?そんなの爺に任せとけばいいのによ。これみろよ!シラベから『纏光』の新バージョンが入ったぜ!消費は上がったが纏える量が上がって、さらに接近戦用新形態なんと二種追加!」


 突然投げられた声に思考を中断される。道の端で露店……だろうかを広げていた、柄の悪そうな青年が熾に声をかけた。熾は少し何かを考えた。


「悪いナタル。それはとても気になるけれど、ちょっと今野暮用が入っている。何せこの人たち、さっき来たばっかで、ポータルの外に放り出されてた」


「まじかよ!そんなことあり得るのか?」


 思わず立ち上がって青年は言った。どうやら俺達はかなりのレアケースらしい。


「僕も初めてだ。何せポータルの外だ。とりあえず、王様のところに連れて行くつもり。何せもう食われてた」


 青年は、こちらを一瞥する。目つきが悪い人相のせいか、ガンをつけられているような気分になる。


「ああ!?なんだよ見せ物じゃねえぞ。やんならこいや」 


「やめなさい。恥をかかさないで単細胞」


 実際、真城は対抗してか睨んでいるし、日野に至っては眼力から逃げるように熾の後ろに隠れていた。


「それは運が悪かったなあ。まあこの世界も悪くないさ。強くなったら俺の露店をよろしく頼むぜ。『幻剣』から『変重』まで安くしてやるからよ。あと、裏路地の遊び方と改造のイロハくらいは教えてやるからな、有料で」


 ナタルという青年は笑いながら俺に肩を組み、手でばしばし叩いてきた。痛い。


「ど、どうも」


 焦る俺はそんな対応しかできなかった。


「わかったから腕を離してやってくれ。後、あんたの店は青少年の教育に悪いからだめって教えておく」


 熾の言葉にナタルは「ジョークジョーク」と、おどけた様子で俺から腕を離し、手を振った。


「ナタル『幻刃』と『夢弾』のプレーンを四つを売ってくれ」


 熾は言ったが、俺達には何のことかわからない。


「いいけどよ。プレーンでいいのか?なんなら改造品売るぜ?」


 残念そうな顔でナタルは言った。


「プレーンでいいよ。あんまり性能凝りすぎると、初心者は逆に使いこなせないから。料金は一括で払う」


『そもそも貴様の改造した武器など信頼のしの字もないだろう』


 鼠は吐き捨てた。


「そりゃねえぜ鼠様。じゃ、ありがたくふっかけさせてもらうかね…『囀声』と『障壁』は?」


「それは後でいいし、おっさんの方がいいの持ってるはずだ。それくらいは分捕れると想う。そもそもそれまで僕が用意したら金が足りない」


「了解了解毎度あり」


 そう言ってナタルという青年は熾に、短冊のような細長い紙を八枚渡した。熾は小銭のようなを代金として払う。どうやらこの世界にも通貨という概念、つまりは経済活動があるらしい。


 儲けた儲けた。そう言いながら、ナタルという青年は露店に戻った。彼の店に別の人がやってきて、彼の興味はこちらから完全に消失した。


 そのまま商店街を歩いていく。熾はそこそこ名前が知られているようで、たまに露店や、道行く人間から声をかけられていた。だがどこか熾はそれらが鬱陶しそうだった。


『さて、もうすぐだ』 


 枯炭は言った。


「だからどこに行くの?せめてそれくらいは教えてよ。そこの単細胞じゃないけれど、私も時間まずいの」


 ケニーは苛立った様子で言った。知らない街の人の中で少々居心地が悪そうだった。俺もそうだったし、他の二人も同様にストレスがたまっているようだった。


『これからこの辺りを仕切っている男、つまり『王』に会いに行く』


 枯炭は言った。


「王?この世界は君主制でも採用してるの枯炭?」


 ケニーはバカにしたように言った。


『枯炭さん。だ』


 鼠はくりくりした瞳で、ケニーをにらみつける。


「こ、こたんさん」


 ちょっと複雑そうな顔でケニーは言いなおす。悔と笑が混ざり合っていた。


「『王』は便宜上の呼び方だよ。まあおっさんはこの辺りの統治者だからあながち的外れってわけじゃないよ」


 熾が言った。統治者ねえ。俺は、この世界が一体どのように回っているのかイマイチ掴みかねていた。


『王は本当は貴様らが一番最初に会うはずだった人間だ。本来ならこの世界に初めて入った時点で、『王』に会うように設定されているはずだが。何故か不手際が起こってあそこに貴様らが落ちてきたようでな。貴様らの知りたいことの大部分は、『王』が説明するから安心するといい』


 つまり質問するならその『王』にしろ。と言いたいのだろう。この世界に対する疑問や不安感に再び強く蓋をする。


 腕時計を確認する。時刻はすでに4時にさしかかろうとしていた。


やばいめっちゃミス多い。気づき次第直していきます

すみません

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