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馬医リンガル!!  作者: 大和大納言
第一章 馬医リンガル!! 《1》
1/1

1. トクシュノウリョク

 いつもは眠くてしょうがない五時間目、でも今日は何故か眠くならない。眠くなりたいのに!昨日起きたことをもう一回再現しなきゃなのに!


 何が起きたかって、一言で言うなら「変態女神に用途不明の能力を授けられた」かな。突然変なところに呼び出しておいてろくに説明もせずに何に使うかもわからない能力を押し付けて、なにががんばって!よ!!今日は無理矢理にでも寝て…いや昨日も寝てはいないのよ?ともかく今日もまたヒポナの所に呼んでもらって問い詰めないと!


 …って思ってると寝れないのが人の性。いつもは退屈なはずの一般教養の授業なのに。あー、寝れないなら早く実習がしたい!


 このときの私は授けられた能力の内容をまだ知らない。知ってたら、たぶん、実習が楽しみすぎて発狂してたと思う。



ーーーーーーーーーーーーーーーー



「全員揃ったかー?うっし、じゃあ始めるぞ。1週間後には卒業試験、こっからがラストスパートだとか言う教師がほとんどだろうが俺はそんなこと言わん!今さら足掻いてもどうにもならん!いつも通りやれ!んあ、いかんいかん、試験の説明だけせんとな……」


 退屈なだけの5限も終わり、今日の6限は待ちに待った実習。私を含めて40人の江南軍校特医科生は併設された将科の厩舎に来ていた。

 あ、何が何やらって感じですか?ちょうど先生の話が入りそう……


「我が名古屋国は、美濃・伊勢・浜松の三国に囲まれつつも、旧尾張・三河に浜名湖湖西地域を併せた領土を維持出来とる。それは何故か?こうやって教育制度がしっかりしとるからだ!国の各地にある軍校で次世代の人材を育てて各基地に配属させる、これがしっかりしとるからうちの国は揺るがんのだ。で、今回の卒業試験は君ら軍学生の配属先に、ついでに将来に直結する大事な試験だな。まあ岡崎に配属されればもうけもんだ、がんばってくれ、俺の給料も上がる。」


 大筋は上のような感じです、ナイス先生。

 ついでに教科書の序文。


 ーーここ日本は現在、いくつもの国に別れて領土を争い合ういわば戦国時代が200年ほど続いている。古くは1400年ごろから400年ほど戦国状態が続き、一度は諸国の連合によって統一されたものの連合政権は内部の方向性の不一致から瓦解、再び戦国に逆戻りした。

 刀、槍、弓矢中心の現在、兵器で差がつくことがほぼないため強国が生まれにくいのもこの状況が長続きしている原因のひとつであると言える。最強戦力である騎馬隊の錬度維持、向上は軍事力の向上に直結するものであり、馬の管理を任務とする馬医となる、この教科書を読む諸君に国の未来がかかっているとも言える。3世代後の日本統一へ向け、諸君の奮闘に期待するーー


 補足すると、私、上田里美が所属するのは軍校特医科。ここは馬の医者である馬医を養成する学科。だから実習で厩舎に来てるってわけです。ちなみに将科は将校を養成、兵科は一般兵の養成、医科は軍医の養成を担う。


「で、卒業試験だが全員ある程度知ってるとは思うけど一応な。試験科目は学科1種・実技3種の計4つ。学科は主に傷病処置に関する知識、それに若干の一般教養が問われる。実技は甲種が日常管理、日常的な馬の管理だな、乙種は傷病処置、丙種は投薬、全部200点満点だ。4つの平均が評価点として各基地に送られる。岡崎のボーダーは176だから、まあそれ目指してがんばれ」


 だ、そうで。ちなみに「岡崎」は岡崎基地のことで、この国最強の騎馬隊である第618騎馬特殊部隊、通称「熾天使(セラフィム)」が所属する基地。最強の騎馬隊が所属する基地には超優秀馬医が集まるわけで、私の目標でもある。まあ他にも理由あるんだけど……。




 ってかさっきからみんな喋りすぎじゃない?すっごくザワザワしてるのが気になるんだけど、いつも先生注意するのになんで今日はほっとくんだろう……?


ーーそこで耳を澄ませてみた私は気づいた、話してる内容がおかしい……!


゛「ねぇ最近のエサ、ケチりすぎじゃない?」

「それ!今朝とか草とニンジン2本だよ!?」

  「これで遠乗りとか耐えれるわけねぇよなぁ……」 "


 …、エサ……?ニンジン…?遠乗り……?

 いやまさか、……ねえ…?

 薄々察したけど、そうじゃないと信じたい、信じさせてください嘘だと言ってください!嬉しいけどさすがに怖いって!

 そんな私の願いは脆くも崩れ去る。


" 「こんなんじゃ乗せれる人間も乗せられねぇよな!」 "


 そして私は確信した。これはヤツの仕業だ、と。これがヤツに授けられた能力なのだ、と。たしか馬を司る女神とか言ってたっけ。ならまあこの能力は納得できる。私に授けられた能力はーー


 ーーいや待って、「一方通行」なのかな?

 そこで丁度よく先生のありがたいお話が終わり、3人1組のグループに分かれて担当の馬へと向かう。今日は我が大親友の玲、渡辺玲が一緒。


「よっ、ピポナっ!」

「っ…玲!も~、事故だからさ~あれは~!」


 あれから私のあだ名はピポナ、あと3ヶ月で卒業なのに変なあだ名できたとか泣ける…。



「で?その授けられた能力は?なんだか解ったの?」

「いいタイミング!さすが玲!」


 玲には昨日のピポナとのあれこれを話してある。一人で抱えるにはどうにも、ねえ…。

 そんな玲に、私はさっきの出来事を玲に話してみる。


「ーーってわけ!ようするに、馬の言葉が解るようになってる、ってこと!で、今からは解るなら喋れるかもってことでそれを試してみようかな~って思ってたとこ。」


「里美さ、」


 なんだろう、次の言葉に迷ってるみたい。


「……タクマシイよね。」


「…それって誉めてる?」


「誉め言葉として受け取っといていいよ?」

「絶対なんかあるよね!?なんか裏の意味みたいなのあるよね!?大丈夫だよ、前から言ってるけど私、大概の事じゃ傷つかないから言っていいんだよ!?」


 玲ちゃんすごく優しいんです、はい。


「いやね、普通は、馬の声聞こえたー!ってなったら怖くない?私なら怖くて厩舎から走って逃げ出すかも、くらいのことなのに里美は平然としてるどころか発展させようとしてるじゃん、だから、タクマシイよなぁ、って」


「にしては『逞しい』が、すごくカタコトだよね」

「んー、なんとなく違う気もするから、かな?」


 ニヤっと笑う玲につられて、二人でひとしきり笑う。そんなこんなで今日の担当の馬、(はやて)くんの前。最近思うのは、この国の男たちが付ける名前は、なんて言うか、こそばゆいような感覚。


 もちろんこの子も喋ってーー…!?


゛「お、今日は…里美ちゃん、か…。…はぁ。彩音(あやね)ちゃんじゃねーのかよー…」゛


 相手は馬とは言え…、なかなか胆の座ったこと言うじゃないの……。

 ちなみに彩音とは同じクラスの中川彩音のことだと思う。そのキャピっとした見た目の可愛さ(笑)と、優しくてフレンドリー(笑)な性格、あと多めのボディタッチで高い男子の人気を誇り、私と勢力を二分する女。なんであんなのが人気あるんだか。本性見たらその人気も地に落ちると思うんだけど、あの女狐なかなか尻尾を出さない。強者。

 そんなこと思っていたら勝手に声は出ていた。ここで抑制が効かないのは私の良いとこであり悪いとこ。


「悪かったわね、彩音じゃなくて!」

「『えっ』」

 

 反応したのは私の隣にいる玲、そして、颯。


 そう、私が授かった能力は、「馬と会話できる能力」だった。

 



       ーーーーーーーーーーーーーーーー




「次、3番の上田さん」

 

 はい、と短く返事をしてカーテンで囲われた一角へと入る。卒業試験も最終日の最終科目、実技丙種、「投薬」。


 この科目、受験者は何も情報が無いままで馬と1対1の状況に放り込まれる。その馬にどんな疾患があり、どんな薬を投与するのが適切なのか考え、実際に処方するところまでを行う。投薬はしない。だって間違ってたら危ないもんね。



 ここまでの科目はどれも順調。鬼門の学科も9割いけたかもくらい。実技は……、今から見てれば想像できるよ。

 私は気負い無く馬の奥にいる試験官に一礼し、お願いします、と声をかける。ついでに馬にも「よろしく」と小声で。


『お、おい!嬢ちゃん喋れんのか!?』

「そそっ!始まったらどこが悪いのか教えてね!」


 不審そうにこちらを窺っている試験官に愛想笑いを送って開始を待つ。今日の人はちょっと太めの「お姉様」。私も太らないように気をつけよう。


「ほんなら、30分間な。始め!」




 ちょっと変わった言葉だなーと思いつつ、合図と共に馬に話しかける。顔周りを調べているように見せながら。


「で、どこが悪い?」

『ビックリするなぁ…。人に話しかけられたの初めてだ。』

「うん、珍しいのはわかるから、直してほしいのはどこ?」

『ん、ああ。なんか3日前の朝あたりから腹の周りを何かが這い回ってるような変な感覚がしててなぁ、痛いとかはないんだけどその感覚が気持ち悪くて。』

「お腹の周り……?ちょっと触るよ?」


 馬のお腹を触りながらちょっと考える。腹部の疾患なんて普通は投薬の試験では出ない。難しすぎるから。普通の受験者ならまず処方できないと思う。まず患部がどこだかすら微妙じゃないかな。

 でも残念、私は普通の受験者じゃないんだな……


『ん、そこ!そのへんなんか感覚が薄いわ』


 突然の馬の声。

 この場所で感覚が薄い……?とすると……

 他のところと比べてそこは少し冷たいように感じられ、私にとってはそれが決定的なヒントとなった。でも、……まあ先に薬用意しないと。


「よし!わかったよ、待っててすぐお薬出すから!」

『本当か!?嬢ちゃんすげーな!』

「ふふんっ♪ありがと!」


 この馬の病名は「腸管膜動脈血栓症」、「寄生虫性動脈瘤」とも言われるわね。円虫と呼ばれる寄生虫が食べた草にでもついてたんだとおもう。それが消化器から血管に入って動脈の内側を食べる。食べられたところが固まって血栓になるのがこの病気。患部が冷たくなるのが特徴。とりあえず円虫の駆除にイベルメクチンを処方して、血栓がどれくらいかわからないから報告しとかないと。


「試験官さん?」


「ん、どうしました?」


「この馬、腸管膜動脈血栓症です。イベルメクチンを処方するつもりですが、血栓の状態はわからないので報告を、と思いまして。」


 試験官は意外と驚かなかった。

 難問さらっと解いたったからびっくりされると思ったんだけどな…

 そして逆に私が驚かされることになる。


「了解しました。で、あんたもピポナにその能力を?」


 その試験官の名前は伊藤早紀(いとうさき)。これが後の私の師匠になる人との出会いだった。


 



さっそくの説明回でした。

世界を一から作るのは難しい。

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