冒険者ギルドからの報告書
夕食から帰ると、父が扉の前に立っていた。
「お帰りなさい」
迎える言葉に、父は少し戸惑う。
「ん、ああ、ただいま。冒険者ギルドから調査結果が来たぞ」
「本当? さ、入って入って。見せて見せて! あ、食事は?」
部屋の中へと誘いながら、食事のことを尋ねる。
「食べてきた」
「そっか」
ソファへと促し、護衛の二人にも椅子を勧める。
「二人の意見も聞きたいから座って」
二人は目配せをしあい、窓際の椅子に座る。
父が二つに分けた報告書の束をテーブルに並べていると、宮侍がカートを押して入室し、お茶と一口菓子、白紙の紙束を用意して部屋を辞す。
この細やかな気配り。流石は春宮の宮侍だ。
さて、報告書を見てみよう。
一つ目の山は十枚もあり、その全てが単眼巨人侵攻時に討伐依頼を請け負った者の中で生き残った者のリストだ。
二つ目には死亡者と未帰還者、行方不明者が記されている。死亡日時とその理由、最後のギルド記録が記されていた。
四人で死亡理由に魔物に殺されたなどの不審点がない者を抜いていく。
それだけで大半の者が除外されたので、死亡日時が古い順に受注者リストのプロフィールを探しながら並べた。
「う」
プロフィールを手渡す護衛騎士が呻き、私達の視線が彼に集まる。
「どうした?」
彼の、灰色の瞳が困惑に揺れる。
「この冒険者、魔法使い……です」
魔法使いで一人目の被害者は冒険者パーティーの二道魔道師のようだ。彼女は治療魔法と防御魔法を使い、パーティー内の後衛として弓も扱っていたそうだ。歳は二十三歳、冒険者生活七年目の若手らしい。国の南方にある南陵郡魔法学校の出身とある。
彼女が被害者となったことで、更に犯人が掴めなくなった。
被害者達の共通点が更に減ったのだ。
今残っている共通点など、イーグレット王国出身の二十代から三十前半。女性よりも男性が多いかな? くらいである。
とはいえ、男性の方が多いのは戦場に赴いた比率が高いからだろうしなぁ。
「若いのばかり狙われているな」
「そうですね。この四人は被害者の範囲からは外れているので、少しホッとしました」
「四十手前で良かったです」
プロフィールを揃え終わり、三人が口々に呟く。目の前にいる人が候補者でないことに気が弛んだのだろう。
「四十代の冒険者って、どれくらいいるのですか?」
「それほど多くはない。一流以上に達した者くらいしか残らないからな。いくら鍛えても身体能力も落ちる。私も経験から来る勘と指揮で成り立っている」
「んー。四十で能力が落ちるなら、三十までの有望な人材を消すのは理に叶っている。か……」
国家を対象にするなら。という前提だけど、それでも何故バラバラの時期、場所で? という疑問は残っている。
「そもそも、場所も日付もまちまちなんですよね」
「日付なら、間隔が決まっていますよ」
護衛騎士の指す箇所を注視する。
「七日の間隔で亡くなっています。冒険者だけのリストでは分かりにくいですが、ここからここまでは七日づつ。そこから二十一日おいて七日。そして三十五日。他のリストと照らし合わせればはっきりするかと」
他のリストか。それなら、
「レイボールド。続きは明日だ。そろそろ寝なさい。今日は私もここに泊まる」
「本当!?」
唐突なお泊まり宣言に浮き足だってしまった。
「あ、いえ、流されませんよ。まだ続けます。こんな中途半端なところで終われません」
「時間を考えろ。士官学校では規則正しい生活をせねばならんのだぞ。さっさと寝なさい」
腑に落ちない。
「寝なさい」
「……分かりました」
呼び鈴のヒモを引くと、宮侍がやって来た。
「父が泊まることになりましたから、その手配をお願い。それから、私の寝支度もよろしくね。父上、別邸への連絡も頼みますか?」
「待機室にマークという侍従が来ている。その者に明日の出勤時刻に来るよう伝えてもらえるか?」
「頼める?」
「かしこまりました。手配します」
彼は護衛騎士と共に出ていき、すぐに数名のメイドを連れて戻る。
メイドが寝室を調えに向かい、宮侍は湯槽に湯をはった。
「ありがとう。上がったら呼ぶよ」
彼らは頭を下げ、退出していった。
「どうする?」
先に入るかを尋ねる。
「先に入ってなさい。私は春宮へ来る前に汗を流したし、エドワード様と少し話すことがある。先に寝ていなさい」
「そう。分かった」
十時前に訪ねるのもおかしな話だが、幼なじみの二人で積もる話があるのかもしれない。
リストの照合をしたいけど、とっとと風呂に入って寝ておこう。
リストを出してしまえば、熱中して寝られなくなるものね。