春の都、慶都
転移門を潜ると、そこは春の都へと繋がる街道だ。
私は門の端へ寄り、後続の者が来るのを父と待つ。
「ああ、やはり慶都は良いなぁ」
慶都のある天烏地域は温暖な気候で草木が青々と茂る生命の楽園だ。門近くの水田では米の苗を植え付けていた。
エキューズから出たことのない士官生達は、目を丸くして鮮やかに咲く野花や木々に見とれ、羽音をたてて飛び去る昆虫に驚いている。
「とりあえず、上着は脱ぐか」
春の慶都は温かく、毛皮のコートは暑すぎる。
最後の荷物が門を通ったので転移門を終了させた。
「ようこそ、慶都へ。エキューズ領より二十四名。馬三頭。荷台を検めるので、こちらでお待ちください」
転移門の衛士に誘導され、荷物の検分を待った。
慶都の城門を抜けると、馬車から歓声が上がった。人の多さに圧倒されたのだろう。
ここは勇者降臨の地。多くの者が行き交い暮らす天鴉皇国の首都だった。
慶都にあるエキューズ家の別宅で三日暮らすことになる。別宅での注意事項とこれから入る士官学校で必要となるものを教え、各自に銀貨五枚を渡す。
「士官学校に必要な物を買った後は好きに使っても良いが、これは四年間の生活資金に使うのが懸命だろう。散財はするなよ」
父は小言を言うが、彼らは聞いているだろうか? まあ、大丈夫だろうと思いたい。
「それでは夕方には戻ること。困った時は護民官に相談すること。良いね?」
「はい!」
「それでは、楽しんでこい」
解散の合図で楽しそうに街へと繰り出して行くのを見送った。
「それでは私も砦に戻る」
「ええ、お気をつけ下さい」
父は春宮に向かい、砦に帰るようだ。私を鍛えるためにちょくちょく帰って来てくれるものの、最前線に配備された兵士団の将軍だ。長く空けるわけにいかない。
「参りましょうか、レイボールド様」
残ったのは馭者を務めてくれた若者二人。使用人の形をしているが、私につけられた近衛騎士である。
「お願いします」
兄の死因が呪殺と判明してから、事件が終息するまで外へ出るときは必ず近衛がつけられることが決定したのはすぐだった。
元々、一人で買い物やフィールドワークをしていたので鬱陶しいことこの上ないが、入学までだと観念している。
そもそも、今までのように外に出る空き時間が少なくなった上に疲れて動けなかったというのがあるけどね。
入学してからは長期休暇くらいしか外出が許されないので考える必要がない。
馬車に乗り込み、一人は馭者台へ、一人は対面へと座った。
今日は足りない物を買い込み、春宮で入学まで過ごすこととなっている。
同郷の者と仲良くしたいなぁ。とは思うものの、立場や役割を考えると抑えるしかないのだ。
国が最重要事項。仕方ない。