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イーグレット物語  作者: 夜山 楓
英雄連続不審死事件
4/10

半年後。旅立ちの前日

 士官学校に向かう日の前日、勝手口? を入ったところで崩れ落ちた。

「とりあえず、基礎訓練は合格だな」

 荒れた呼吸を戻せず、体中から汗が噴き出す。

「レイ様、レモンウォーターにございます」

 身を起こされ、口にレモンウォーターが流れ込んでくる。

 飲み込む。少し塩と砂糖が入っているのだろうか? ぼんやりとしていた意識がはっきりとしてくる。


 はぁ、と父がため息を吐く。

「しかし、日が昇るまでに終わらせてもらいたかったな」

「旦那様、鍛え始めて半年ならば妥当かと」

「しかしなぁ……」

 妥当だのなんだのとこの主従は言うが、エキューズ家の城塞攻略は半年でできるものではないはずだよね。

「レイボールドは罠の在りかを覚えているはずだぞ」

「罠の在りかを覚えていても、地上二十メートルの城壁上りはキツイんですよ!」

 悔しさに床へと拳を叩きつける。

 しかも、知らない間に新しいのが付けられてたし!


 納得いかない。などと不平を口にしながら立ち上がる。

 フラリ、と揺れる体をストレイトは支えてくれた。

「休憩もすんだことですし、支度を致しましょうか。レイボールド様」

 支度……?

「支度なら既に終わらせました」

「いえ、正装してください」

 何故正装?

「若君の門出は数少ない慶事ですので、パレードを行います」

「このところ執政から離れていたのでアレですけど、きちんと書類に目は通しておりました。それで? 予算や計画はどのように?」

「ご心配なく。兄君の成人祝いパレードで使った飾りを配置変えして使いますので、後は護民官らとの交渉のみ。開催も使用人が各々噂として拡げれば半年で侯爵領全域に広まります」

「うわぁ」

 領が広くとも人の住める場所は限られ人数も少ない。だからと言って噂が全域に広がるとは思わなかった。

「何とか費用を捻出して、娯楽を催した方が良いのでしょうかね……」

「娯楽目当てに地方からやって来る者が出ては破綻しますよ」

「まあ、ねぇ……」

 エキューズは不凍港があるからこそ何とか生きていられるが、荒涼な土地が続く北極圏だ。

 作物は少なく、人が増えると飢えてしまう。飢えれば体が冷えて凍死してしまうからなぁ……

「できたとしても、熱源棟が各村に配置されて軌道に乗ったらか」

 数十年はこのままかなぁ。

「さ、支度を致しましょう」

「そうだね。正装の準備はされているよね?」

「勿論にございます。旦那様は式典用の武装をしていただきますからね」

「私もやるのか」

「一人よりも二人の方が見栄えしますし、万一の時は旦那様がレイボールド様を護って下さりませ」

「私では視認しないと対処できませんものね」

 父と違い、矢が飛んできても当たってからでなければ反応できない。矢の角度を知れれば狙撃地が解るものの、防げなければどうしようもないのだ。

「頼りにしておりますよ」

「そうか? 良いだろう」

 家宰に当主が良いように使われているが、うまく行っているのだからこれで良いのだろう。


 正装に着替え、飾りつけられた馬車に二人で乗り込む。

 父が乗り込む際には、ミシリ。と不吉な音をステップがたてた。

「終わったら点検に出しましょう」

「そうだな」


 楽隊を先頭に、主要道を進む。

 民からの声援や屋台の客寄せが聞こえ、エキューズから士官学校に向かう平民が知人を見つけて盛り上がっていた。

「ちょっと余興にでも」

 色とりどりに光る光源を馬車からポンポンと落とす。

 小さな子供達がはしゃいで捕まえようとするが、魔力を光らせているだけなので安全だ。

「レイボールド」

「何ですかー?」

 光源に群がる子供達に和んでいると、呼ばれて仰ぎ見る。

 父は珍しく瞳を輝かせて、こちらを期待を込めて見てきた。

「この武装を光らせることは可能か?」

 ……フム。

「やってしまいましょう! ポーズとって、ポーズ!」

 父は肩幅に足を広げてグッと胸を反らせ、右の拳を左胸へと当てる。

「今!」

 教会の前に来たとき、光源よりも強い光で武装をきらめかせた。

『ジーク様ー!』

 民衆が一気に盛り上がる。


 ああ、良いなぁ。

「士官生!」

 後ろに続くこれからの同輩に声をかける。

「剣を(かか)げよ!」

「おおおっ!」

 一斉に掲げられた剣から射出されるような一条の光線を大空へと放つ。

 放った光線はしばらくすると微細な光源となって降り注ぐよう仕組んである。

 思惑通りに色とりどりの光が降り注ぎ、興奮は最高潮だ。

 楽しそうに笑う母子を見て、父へと抱きつく。

「行きましょう!」

「ん? 行く?」

 3・2・1・飛翔!

 大歓声の中、私達は大空へと飛び立ち、民衆へと手を振った。


 長椅子でグッタリと横になる父の対面で、私はストレイト親子にお小言を貰っていた。

 多少の余興……光源程度であれば許されたものの、父が煌めいたり、二人揃って大空へと飛んだことはダメだそうだ。

 今になって考えると、自分でもらしくないことをしたと恥ずかしく思う。


 因みに、何故父が横になっているかというと、大空へと飛んだ時に極度に緊張していたところに、頼みの綱である私が片手を放して民衆へと手を振りだした時に腰を抜かしたのだという。

 はっきり言って遠隔操作で数人を飛翔させるくらい片手間なのだが、育ちが違えば常識が違うということだ。


 ストレイトJr.曰く。「旦那様もランス様も常識はずれの戦闘力ですが、レイ様も相当おかしい」だとか。

 魔法使いを通常の者と比べたら、それはまあ確かにおかしくなるよ。と返しておいた。

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