哀しみ
兄の葬儀がある今日、婚約者であるフィリアが泣きながら胸に飛び込……いや、上から覆うように抱きついてきた。
「レー イ~!」
その背に手を回し、頭を撫でる。
兄のために泣いてくれる彼女がとても愛し
「ラファエラが死んじゃったぁ……」
「はああああ!?」
クラクラと立ち眩みがする。
学院に入った六歳の時からずーっと一緒にいた少し天然気質な幼馴染。彼女は治療や結界などを主に学び、一つ上のイオンに一昨年くらいから好意を寄せていた。
祝福持ちの彼はこの春、婚約者の待つ故郷へと戻ってしまったのでこのところ沈んでいたので心配していたのだが、まさか死んでしまうだなんて……
「フィリー……一体、何が……?」
四日前に別れた時、落ち込みは見えても元気にしてたのに。
「実を言うとお前が出て行った直後にラファエラも呼び出されてな」
「いたのか、白梁」
「いたんだ」
竜帝地域出身の彼は、守護竜の契約者候補として白の姓が与えられている。守護竜は白や青の色を持つ者を契約者とするそうだ。
白梁は一つ歳上の白髪青眼の男で、青より白の方が少ないために白姓を賜ったとか。
「ご両親が亡くなったらしくてな。実家へ帰る馬車が谷底へ落ちてしまったそうだ。あいつだって四道魔道師。生きている可能性を考えて周辺を捜索しているそうだが……もう、三日が経っている。明日には叔父君が葬儀を行うそうだ」
「そんな……」
「レイボールド。兄君に面会しても?」
「あ、うん。会って差し上げて」
白梁はコックリと頷き、私の頭を撫でる。
「今は哀しんでろ」
立ち去る背中を呆然と見る。
「……うん」
肩に伏せて泣くフィリアを促してベンチへと座り、二人で静かに泣き続けた。
涙に濡れて腫らした顔に濡れた布を当てられるとその冷たさにホッとする。
「お嬢様、お化粧直しを」
「うん」
フィリアは侍女に手を引かれて控え室に戻っていった。
「泣けて、宜しかったですね」
侍従に言われた言葉が飲み込めなかった。
「四日間、泣かないでいたでしょう」
「あ……」
言われて気づく。
「そうなんだ」
悲しみに涙を流さないなんて、そうとう重症だったようだ。
「冷静に、対処できていると思っていたのにな」
自覚をすれば、再び涙が溢れる。
目許に柔らかな布が当てられ、それを手に取ると顔に押し当てて嗚咽を隠した。
それからしばらくして、兄の葬儀はしめやかに行われた。