入学式前夜
入学式を明日に控えた夕飯、王家とパーチ大公、父に婚約者の一家、白梁と青晨という青年でテーブルを囲んでいた。
テーブルに着くなり、青晨は恐縮しながら自己紹介する。
「親しき仲での晩餐にお招きいただき、誠にありがとうございます」
「いえいえ。白梁が言うには君も明日から士官学校に入るとのこと。うちの孫をよろしく頼むよ」
「はっ! 全身全霊を尽くしてお守り致します!」
「ありがとう青晨。レイボールドは私の後釜としてとても重要な存在だ。だけど、君も同様に重要な立場であることを忘れてはいけないよ」
パーチ大公の言葉に青晨は顔を曇らせる。
「いえ、白家も青家も契約者候補として竜帝地域では権勢を誇っておりますが、そもそもの銀竜帝がいないのです。それに、白梁もおります。銀竜帝が復活しても文武両道で魔法も使える白梁を選ぶでしょう。私の出る幕はございません」
白梁を見やれば、青晨を爛々と目を輝かせて見つめていた。嬉しくて仕方がないのか、口許に笑みが浮かんでいる。
国王夫妻とパーチ大公には伝えているが、実を言うと白梁は銀竜帝の転生体だ。
そんな彼が紹介してきた青晨はほぼ本決まりな隣国の初代皇帝と私達は見ている。
ここ、天烏地域の西に位置する竜帝地域は広く、大鷲地域との間には魔王の支配地がある。
是非とも銀竜の望む人物へと成長し、独立してほしい。
陛下は彼の言葉に満足して微笑むと、青晨へ助力を惜しまないことを告げる。
パーチ大公に至ってはうっすらと涙ぐんでいる。
ひそり、と隣の大公に告げる。
「大公。怪しいので涙ぐむのは止めて下さい」
大公は目を瞑り、厳かな雰囲気で頷いた。この会食に厳かな雰囲気もどうかと思うが泣くよりはいいかな。
南門までフィリーをエスコートし、帰る彼女を見送る。
「レイ、出発前に飾り紐を贈りたいの。少し時間を貰える?」
「飾り紐!? うわぁ! ありがとう、フィリー。勿論だよ」
士官学校へ向かう者には安全祈願の飾り紐を渡す風習がある。元々は戦に赴く男性に、女性が作ったお守りとして贈った物だという。
因みに、兄の飾り紐は私が作った。
楽しみにしていると伝えると、彼女は両親の許へと行き、転移魔法が発動された。離散防止に彼らはしっかりと肩を抱き寄せあい、消える。
「早く、結婚したいな」
離散防止に手を繋ぐことは今までもあった。まだ肩を抱き寄せることはできない立場なのが辛い。
「その前に大きくならないとな」
「茶化すな白梁」
「大事な事だろ? ああ、青晨の飾り紐は俺が渡すから時間くれよ」
「お前か……」
青晨の顔が暗く沈んでいく。
「家から贈られなかったろ? 青も白も、色で集められた他人なんだから」
「白梁、もうちょっと言い方があるでしょう?」
「フィリーと一緒に作ったんだ」
「ちょっと二人で話そうか」
「相談はしたけど二人きりじゃねぇよ。士官学校に行く奴の姉妹や友人も一緒だったさ」
私の嫉妬、青晨の苦さを白梁は明るく笑い飛ばす。
客間と私室の別れ道まで、
白梁を中心に話しながら護衛に引率されて戻った。
「青晨、明日からよろしく」
「こちらこそ、よろしく」