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イーグレット物語  作者: 夜山 楓
英雄連続不審死事件
1/10

プロローグ

 夏の都、ネスト。北極圏に位置するここは、守護鳥である光大鷲ーーシャイニード・イーグルと初代王エリオンドが契約を交わした土地だ。

 夏も過ぎて秋の都に移られた王家も戻って来られ、二代前の王孫にあたる現在の契約者パーチ大公と共に迎える。


 エドウィン王はじっと兄を見つめ、アリシア王妃は泣き崩れた。

 私達は両陛下の外孫だ。初孫の死が辛いのだろう。


「おかしい」


 ポツリと呟いたのは四つ歳上のアラン第二王子(叔父)。

 豊穣神の加護を受けて神官を勤める彼としては珍しく、険しい顔をしている。

 王太子(伯父)は宥める様に彼の肩を抱き寄せた。

「ショックだろうが、ハプニングは誰にでも起こることだよアラン。徐々にでいい。怒りではなく哀しみを感じなさい」


 アラン王子は兄を見据えたまま、首を振り、王太子の手を払うと強く杖を握り締めた。


「違うのです。おかしいのです。ランスの体に、魔力が渦巻いているのです」


「何ですって?」

 魔力を持たない兄の遺体に魔力があるなど、本当におかしな話。いや、危険な話だ。

 魔道師に分からず、神官に解る異変なら、候補は絞られ、何れにしても危険なものである。


「とりあえず、ここからお離れ下さい。今から調べます。アラン様、神殿に至急ご連絡を。私は魔術学院に伝えますから!」

 アリシア様の手を引き、背に手を添えてエスコートする。

 父は大公を抱え上げた。高齢の彼は足を悪くしている。

 陛下は騎士達に促され、そっと兄から離れた。


「アラン王子!」


 じっと動かない彼に呼びかける。

 アラン王子はこちらを見ると、いつものように穏やかな笑みを浮かべた。


「レイ、各所への連絡は他の者でもできるでしょう。私達で一足先に調べますよ」


 父を見る。

「ランスを頼む」


「分かりました。貴方、王妃様を」

「アリシア様、こちらへ」

 騎士にアリシア様を預け、アラン様の許へ戻る。


 兄から目を離さず彼に語りかける。

「危険ですよ」

「勿論。豊穣の加護と回復の守護の影響を受けた魔道師が気づかず、加護持ちの神官が解る異変。強力な呪いでしょうね」

「ええ。それも、緻密な隠蔽がされた呪い。若しくは、強力な魔物がかけた呪い」


 調べます。と一言置き兄に魔力を流せば、強い抵抗に空気が乱れる。

「レイ、こちらへ」

 前に立とうとする彼を押さえる。

「これから騎士になる者が殿下の後ろに下がるはずがありませんでしょう」

「女辺境伯と婿入り前提でお付き合いしている王太子と親子ほどの差がある第二王子と、国の存続に不可欠な守護鳥と唯一契約できる外孫なら、外孫の方が重要だね」

 肩を押されて踏ん張ろうが兄から遠ざけられた。

 くうぅ!

「契約者の条件は、魔力のある王の子供か孫ですよ。アメリアさんも召喚術の第一人者。貴方は豊穣神の加護を持つ神官であり、確かな力を持つ魔道師。陛下の孫にあたる二人の子供が魔力持ちならその子にだって可能となるわけですし! つまり、増える可能性が高いのはアラン様です!」

 腕を掴んで引く。引……。あああ! 動かない!

「大人が子供を守るのは当然だよね?」

 脇の下に腕が入る。あ! や!

「じ、自分だって成人したばかりでしょう!」

 持ち上げられても抵抗する。認めませんよ! 殿下あぁ!


 あっさりと私を兄から遠ざけたアラン様はにっこりと笑みを深めると、私の肩に手を置いた。

「つい三日前に鍛え始めた君より、王家の者として武術を嗜み、武神の加護持ちに影響を受けている私の方が頑丈な上に、長けているよ」

「ぬああああああ!」


 惨敗である。



 慎重かつ手当たり次第に呪いの解析を行う。

「そういえばレイボールド。王国各地でツワブキの英雄達が相次いで突然死していることをご存知ですか?」

「えっ」

 初耳である。

「そう。聞いてませんか」

「まさか、兄の死も?」

「ランスロットも英雄の一人……可能性は高いでしょう」

「地域ではなく、各地で?」

「ええ。北端のネストから、南端のツワブキ。南西の竜宮や西部の妻の実家まで」


 まだ婚約未満の段階だろ。というツッコミはおいといて。

 いくつもの国を吸収して巨大化したイーグレット各地に現れている? 魔物の可能性はなくなったということ?


「ツワブキの戦いから一年ですか。あれからランスを入れて十名。それも、把握している限りでの話です」

「ツワブキで活躍した者の中には住みかを定めない冒険者も多かったから把握しきれない?」

「国としても、広く告知して全員を集めるわけにはいきませんからね」

「なるほど。英雄達の不審死が民達の不安を呼ぶことになる、と」

「その中に親しくしていた者がいて墓参りをしましたが、何も感じとりませんでした」

「三日の段階で抜けない呪いの影響がその頃には消えていた?」

「知った頃には五日が過ぎ、墓参りの手配に二日。参れたのは十日目ですね」


 いくつか問答をしていると、宮廷魔道士団がやって来た。

「アラン様、ランスロット騎士の遺体に異変があったと聞きました。レイ君、報告を」

 私達の見解を語り、どのように調べたかを伝える。

「分かった。ここは任せて離れるように」

「神官不在で呪いを放っておくわけにいきません」

「加護持ちの魔道士がおりますから、任せて下さい」

 二人揃って部屋から出された。騎士達に周りを固められ、誘導に従う。


 数人の神官とすれ違う。ネストにある神殿の中でも選り抜きの者達だ。

 ここまで下女下男に出会(でくわ)さないのは規制をかけられたのかな?

 英雄達の突然死も気になるなぁ。

 丁度、国の中枢にいるわけだし、騎士団や護民官の詰所に行ってみよう。

 しかしーー


「それにしても、英雄達の突然死ですか。魔術学院では噂すら耳に入りませんでした」


「うーん。確かに、上げられた報告は騎士と護民官に限定されるね。神殿でも、葬儀が多くなっているから噂される程度だった」


「騎士と護民官だけを狙っている? それとも、魔道師や神官が出歩く回数が少ないから効率が悪いのか?」

「それでも買い物に出向いたりするだろう。上位の者でなければ」

「葬儀を行った神官が異変に気づかないということは、アラン様との違いを見つけねば、調べられる者が増やせませんね」


「そうなるね。では、私は神殿へ行ってこよう」

「こちらは魔道師の突然死がないかも含めて、学院で調べてみます」


「お二方」


 あ。騎士がついてるんだった。


「今は奥に(こも)って護られて下さい」


「「はい」」

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