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異世界兄妹探索譚  作者: ムー
第一章 クロの森
1/6

プロローグ

 朝、鳥のさえずりで目が醒める。

 隣にいるはずの兄を抱きしめようと、手に力を込めるが空ぶる。


 失敗失敗。きっといつの間にか、兄とは反対に眠ってたのだろう。


「いない」


 しかしそこに、兄の姿はなかった。まだ覚醒しない頭で、兄がどうしていないのか考える。

 ふと、下着姿のまま兄のベッドに潜り込んだことに気付き、一つ想像する。


「トイレかな」


 ようやく兄が私に欲情し始めたのかと、背徳感にゾクゾクしながら待機するが、いつまで経っても戻ってこない。置き時計を見れば、既に待ち始めてから30分ほど経っていた。

 

「しょうがないなぁ」


 頑張り過ぎである。どうせなら私の中にゲフンゲフン。

 朝ごはんでも作っているのかな。そう思い、トイレ、台所、私の寝室、クローゼット、とにかく家中を散策するが、どこにも姿が見えない。


「兄さん~?」


 私と兄は家からここ数年外出したことはない。親は私達を捨てて何処かへ消えた。

 兄が株で年収2000万程稼いでいるため、衣食住には一切困ったことはない。しかし、だからこそ兄がどこにも見えないのは異常であり、私を焦燥させる。

 動悸が激しい。兄だけが私の生きる意味であり、全てなのだ。その兄に捨てられてしまったら私は。


 気がつけば台所から包丁を取り出していた。

 兄により、二日に一回研がれている綺麗な和包丁。包丁は私の赤い目を映す。

 

 

 ◇◇◇◇◇


 一日待った。けれど、兄は帰ってこない。


 


 ◇◇◇◇◇



 もう、一ヶ月経ってしまった。


 家の中にいても、兄のために綺麗にしていたハズの体も、お風呂に入っていないせいか、栄養が足りないせいか、包丁に映る私はいかにも不健康そうな表情をしていた。



「ぁ……」


 もう、もう、限界であった。


 気がつけば、私はずっと手に握っていた包丁を落とし、床に倒れていた。


 死んだら兄に会えない。その恐怖と、生き続けても兄には会えない。どちらも同じ恐怖。

 不意に涙が零れた。

 会いたい。声を聞きたい。あの澄んだ瞳で私を見て欲しい。


 どれももう、叶わぬ欲求であると理解し、絶望する。


 消え行く意識の中、思い浮かべるのは全て、私を救ってくれた兄のことだけであった。



 

 

 


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