004・【隊長視点】さ、隊長。合コン行きますよー(副隊長その2)ごーこん?(隊長)
もうすぐ本日の仕事が終わる。今日も大きな事件は無く、街は平和そうでなにより。まあ、夜は夜で事件が起こることもあるから、完全に気を抜くことは出来ないが。
そんな事を考えながら、さくさく机に散らばった物を片付けていると、向かいの机から、同じく物を片付けていた副隊長が声をかけてきた。
「あ、隊長。今日合コンありますから、さっさと帰んないで下さいねー」
「…ごーこん?」
だから、ごーこんとは何なのだろう?新手の魔物か何かだろうか?それを討伐しに行くのだろうか?副隊長がいるのに、俺にまで声をかけるほど人手が足りていないのか?それとも、それほどまでに、強力な相手なのだろうか…?
「隊長?…もしかして、忘れてたんですか?まさか、何か違う予定を入れてたりとかします?」
「今日は野菜をあちこちから貰ったから、帰ったら挽き肉を入れた香草パイを焼くつもりだ。たぶん礼に配っても余るから、明日持って来ようと思うんだが…よかったらいるか?」
副隊長はたしかパイが好きだったはずだし、何を渡しても減らしてくれるから、野菜などを多く貰ってしまった時はとてもありがたい。
「それは…ものっすんごーく食べたいんですが…今日は駄目です!大丈夫!パイは明日でも焼けます!!なので明後日に下さいっ!!…だ・か・ら、今日は大人しく合コンに行きましょーねーっ?」
「……パイ…ごーこん…パイ…焼く……ごーこん…パイ……」
おや?いつの間にか、副隊長がにっこりと笑っている。俺は首を傾げた。これは絶対に引かない顔だ…やはりそんなに厄介な魔物なのか?
「…行・き・ま・しょ・う・ねっ?」
「……分かった」
どうやら諦めてごーこんを討伐に行くしかないらしい。…パイ…。
「あ、隊長。来ましたよ。本日のメンバーです。じゃ、行きましょう」
「…ああ」
「隊長ー!今日はよろしくお願いしまーす!」
「よよよっ、よろしくお、お願いしますッ!!」
「隊ちょ、宜しくです」
「お供します」
グリッド、コルン、ギルダー、ナムエン…コルンはまだ新人だが、これに副隊長であるリーデルまで加わる戦力を集めるとは、敵はどれほど強大な魔物なのか…気を引き締めよう。もしかしたら久々に腕が鳴る相手やもしれない。
…なのに。
「あ、お姉さーん!こっち〜お酒お代わりね〜」
「あ、リー副長ずるいっす〜!俺らにもお代わり下さ〜いっ!」
「「そーだそーだー」」
「あら?もしかしてあなた新人さん?かーわいい♪名前なんて言うの?」
「えっ!ぼ、僕はコルンって言いますッ!!」
「えー?貴方まだハタチなのぉ?見えなーい!貫禄ありすぎ〜!」
「…いえ、私はまだまだ未熟者です」
あれから早三時間。この状況は何なのだろう…?魔物を討伐しに行くのではなかったのか?何故女性がこんなにたくさんいるのだろう。しかも酒まで飲んで。戦場は危険だというのにこいつらは一体何をしているんだ。
「…おい」
「ひっ!」
副隊長に尋ねようとしたのに、何故かその隣の女性が息を飲んで固まってしまった。
「あ、いや…」
「!!??!!」
視線を動かすと、リーデルの逆側の隣にいた女性が青褪めた。ああ、どうしよう…。しばらく考えたが、仕方ない。
「リーデル」
立ち上がる。あ、青褪めていた方の女性が白目を剥いてしまった…俺のせいなんだろうな。すまない。
「あい?なんだ〜?そんな顔して〜?いつもどーり怖いぞぉ〜」
とろんと目の据わったリーデルに苦笑する。そうか、顔怖いのか。生まれつきなんだけど、そう思ってしまうのは仕方ないことだよなぁ。
「…すまないが、討伐はお前達で行ってくれ。健闘を祈る。死ぬなよ」
「ほぇっ?え?ええったいちょ〜?」
今のところ危険はなさそうだし、万一のことがあってもリーデルさえいれば、大概の相手には死ぬなどないから大丈夫だ。よし、帰ろう。
俺は一応多めに勘定を払い、足りなかったらリーデルに貰ってくれと伝えて、店を出た。
ちなみに翌日聞いた事だが、グリッドはあの時固まった女性と、ナムエンはあの時倒れた女性と、ギルダーは店の給仕の女性と、それぞれ付き合う事になったらしい。
三人とも初彼女なんだそうだ。よかったな、焦らずに幸せにするんだぞ?三人とも嬉しそうだったから、つい俺も嬉しくなってしまい、そう言って応援したら…何故か周りの全員が泣き出した。
祝福したのに、何故だろう。何か悪い事を言ったのか?
心配になって副隊長に相談したら、頭を抱えだした。ついでにお釣りを返された。別にいいのに。…でも、本当に何が悪かったのだろう?誰か教えて欲しい。
…ところで、ごーこんとやらは最後まで現れなかったようなんだが、いったいどんな魔物だったんだろう?残念だ。
隊長…アンタが残念だよ!と思った方、正解です。
ちなみに、隊長が抜けた後、副隊長の手腕により緊張が解けた女性陣は、普段なら怖がられる顔のグリッドやギルダーやナムエンの顔は気にならず、みんなそれぞれに意気投合して盛り上がりましたとさ。隊長…。
あ、副隊長は普段から女性に困ってないので本気ではありません。そして今回は一応お世話係だったので、玩具扱いで酔い潰されたコルンをちゃんと宿舎まで送り届けました。