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003・【新入隊員視点】ひっ、ひぃぃいっ!!なななんで隊長様がこんな所にぃ!?(新入隊員、心の叫び)…やっぱり嫌われているんだな(隊長、心の声)




 ある日、僕は休憩時間にいつものように先輩と雑談に興じていた。これは決して暇潰しや無駄話ではなく、隊の事を知るための貴重な勉強時間だった。


「ラジア先輩。どうして第六団隊にだけ副隊長がたくさんいるんですか?あ、そういえば紋章もありませんよね。何か意味があるんですか?」



 他愛もない会話の中のふとした疑問――でもきっかけは、この一言だった。あの恐怖体験を体感した今の僕ならば、死に物狂いで自分をぶん殴ってでも止めてやるのに。

 ここからは体験談としてお送りします。



「あーそれはなぁ…あれ?そういやオレも知らなねぇや。あ、ちょーどいいとこに!あのー、何でなんっすかー隊長ー?」



 た い ちょ う ?



 ギギギ、と我ながら錆びつきまくった機械のような動きで振り向くと、背後にはいつの間にか聳え立つ巨大な壁…なんと隊長様がッ!!ひぃぃえぇっ!!怖い怖い怖いぃっ!!この人ぜったい視線とかで人殺せるよぉっ!!!!


「…何の話だ?」

「いえね?今コルンとうちの隊の話になりまして。隊長、何でうちの隊って副隊長がこんなにいるんっすか?あと紋章が無いのも何でっすか?実はオレも知らなかったもんで〜。隊長ー、教えて下さーい!」


 ラジア先輩!?ちょ隊長様に向かって何言ってんですか!!違うでしょう!!偉い方でももっと他にいたでしょう!?リーデル副隊長とかアックス副隊長とかマリアン副隊長とか聞きやすい方がいたでしょうッ!!何でよりにもよって隊長様なんですかぁぁっ!!強面でもせめてゾルグ副隊長まででしょぉおっ!!!!


「それは」


 えぇ?!答えて下さるんですか隊長様っ!?

 だが、隊長様の声は誰かの怒鳴り声に掻き消された。ひぃ!命知らずぅぅ!!もしこれで死んだら先輩だろうとなんだろうと恨みますからね!!あ、隊長様は恨めません…恨んだら魂ごと殺されそうで怖いから…っ!


「おいラジアァ!!てんめぇさっさと交代しに来いやぁぁ!!とっくにてめぇの休憩終わってんだろうがぁぁッ!!」

「あ、へーい!やっべ忘れてた…隊長すんませんオレ戻ります!続きコイツに話してやってくれますか?じゃ、わりぃなコルン、ちょっと聞いといてくれや。後でオレにも教えろよ〜っ!」


 そう一気にまくし立てると、隊長様や僕の返事も聞かず先輩は走り去って行った。わあ!相変わらずラジア先輩は足が速いなぁ…じゃなくって!!

 そっ!そんなぁあ!!ラジア先輩ぃっ!!こんな状況で置いてかないでっ!置いてかないでぇえっ!!


「それで『何故この隊には副隊長が二人以上いるのか』と『隊を示す紋章がないのか』だったか」

「はっ、はいぃっ!い、いえすみませんなんでもありませんっ!!」


 勢い良く頭を下げていると、地鳴りのような低く重い声が降ってきた。ひっ!こっ殺される?!あぁぁでもちゃんと聞かないと後でラジア先輩が怖いぃぃっ!!うわぁぁん!!


「それはな、俺が未熟者だからだ」

「へっ?」


 うわどうしよう!!びっくりして変な声出しちゃったよっ!!頭上げちゃったし!!

 幸い隊長様はお気付きにならなかったのか、お言葉を続けた。…お、怒って…ない、よね?…ねぇ?


「この隊の設立当初、俺が異例の抜擢を受けて隊長に任命されたことは知っているか?」

「…は、はぃ…」


 隊長様はゆっくりとした動作でお頷きになられた。ひぃっ!なな何かマズい事を言ったかな?!今度こそ怒った!?


「当時も、ひよっこの若造などに隊長が勤まるはずがない、と方々から叩かれていてな…まあ実際に体を動かす以外俺はたかが知れているし、隊員も俺より年上の奴しかいなかったからな」

「……」


 なんか、隊長様の眉間にいつもより深い皺が寄ってる気がする…目付きも…やべぇ?ヤベェよ、ヤベェよな!?ど、どうしよう墓穴掘ったよどうすればッ?!うわぁああ!!


「そこで、通常は陛下より遣わされる副隊長と隊長が選べる副隊長、この二名が副隊長であるところを、さらに平等を期す為にと各騎士団から一人ずつ副隊長を任命し…結果、この隊には七人もの副隊長達がいるわけだ」

「……へ?」


 また変な声がッ!!自分のアホ!!学習しろよバーカバァーカッ!!ああすみませんごめんなさいわざとじゃないんですすみませんすみません…っ!!!!


「ちなみに、紋章が無いのも、臨時の団隊で各団からの寄せ集めだからという理由で与えられる事がなかった故だ…何か質問はあるか?」

「いっいえッ!!もうありませんッ!!隊長直々のご教授、誠にありがとうございましたッ!!大っ変勉強になりましたッ!!」


 ホントにもうありがとうございます!!もういいです!!二度と忘れられないと思います!!十分どころか十二分です!!これ以上寿命縮んで墓石準備する前にこの場から消えさせて下さい!!あるいは逆でも…って絶対言えないけどッ!!


「…そうか」


 …あれっ?なんか隊長様が寂しそうに見える気が…いや錯覚だよね。だって、あの隊長様だぞ?…でも…よし。


「たっ、隊長!!」

「何だ?」


 決して大きくはないし静かなのに、びりびりと全身に響き渡る低い声。うわ怖い…でもっ!


「ぼ、僕もそのっ…こっ、これからっ!がっ、頑張ります!!」

「…そうか。だが無茶はし過ぎずにしっかりと確実に励めよ」


 そう言うと、隊長様は微かに目を細め、唇の端を僅かに吊り上げた。真っ白な歯が微かに覗く…ひぃやぁぁあ!!怖い!!た、隊長様その顔は駄目です!!ヤバイです!!いつもの顔も怖いけどいつも以上に怖いぃぃっ!!何?何で威嚇されてんの!?新人が生意気言ってんじゃねぇよって事かな!?うっわぁどうしようどうしよう犬歯が見えるよ?!いや犬歯なんて可愛らしいものなんかじゃない!!牙!!あれは牙だよぉ!!な、何かマズいことした?!したんだよな?!あああどどどどうしよぉぉおおっ!!??


「は、はいぃぃッ!!」


 とりあえず全力で返事を返しながら、唯一自然に目を逸らせる方法として、全力で頭を下げることにした。…どうか命だけはご勘弁して下さい…


「…ではな」

「はいっ!ありがとうございましたぁ!!」


 僕はその後、隊長様が完全に歩き去るまで、ぴくりとも動かずに頭を下げ続けた。




 その後、夕食時に食堂で会えたラジア先輩には副隊長と紋章の理由をきっちりと説明しましたとも。ええきっっちりと。

 もう二度と置き去りにしないで欲しいと懇願したら…あの、何で笑ってるんですか?え?逃げるか倒れるかと思った?…そんな失礼なこと隊長様相手に出来るわけないでしょぉおっ!!というか隊長様相手でなくても出来ませんっっ!!!!

 思わずそう叫んだら、周りにいた先輩方まで何故か笑ってたけど…あぁ…本当に…こ、こわかったぁ…。




……………




【ちょっぴり他視点】




 新人…コルンは、やはり俺を怖がっているようだ。

 視線があまり合わないのは仕方のないことなのだろうし、やはり階級差もあるから緊張させてしまうのだろうな…。

 話している間も、いつも以上にコルンの表情は強張り、顔色はみるみるうちに青褪めていった。

 今に倒れやしないかと不安になり、話を切り上げようかとも思ったが、どうにか最後まで大丈夫だったようだ。あぁ、よかった。


(それに今日は、初めて号令と返事以外で声が聞けたな。会話まで出来てしまった…先輩隊員達とも上手く馴染めているようでなによりなにより)



 隊長は、端から見ればいつも通りきびきびと歩きながら――けれども心の底では幸せを噛み締めつつ、うきうきと――執務室へと戻っていった。



 その日の隊長は、見る者が見れば簡単に分かるほど、後ろ姿にどことなく嬉しそうな雰囲気を漂わせていたそうな。



 そんな隊長に首を傾げていた隊長フィルターを持つ隊員達は、その後訓練を終えて交代してきた、現場に居合わせた他の隊員から広場での成り行きを聞き、生暖かい気持ちで微笑みながら、よかったよかったねと見守りつつ、たまーに物影で目元をこっそりと拭っていたことは…もはや言うまでもない。






 【隊長フィルター】…隊長と身近に関わる隊員達にいつの間にか施される、隊長の顔面を貫く真実の瞳。(単なる慣れとも言う)

 分厚くなればなるほど隊長の見た目を怖がりつつも、『あ、この人ただの天然なんだわ』となんやかんやで慕い始める。ついでにちょっと涙脆くなれる。


 【隊長のハードル】…幸せハードルはめちゃくちゃ低い。地面に深くめり込んでいる。隊長はいつでも幸せです。

 怒りのハードルは、自分に関する事ならどんな罵声や嫌がらせにも慣れ過ぎていて、高すぎてそこまで届かないから怒らない。もはや怒りを忘れてる。だが、自分以外の事になると…?



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