002・【隊長視点】え?隊長にも初恋なんてあったんすか!?(驚愕中の隊員一同)…失礼な(隊長)
副隊長や隊員達が、初恋の話…こいばな?とやらで盛り上がっている。まあ、今は休憩時間だからな。気にしない。そんな彼らを余所に、黙々と書類製作に勤しんでいると、副隊長が唐突にこちらに向いた。
「でもどうせ、隊長は灰色どころか真っさらな青春だったんでしょ?今も二十代も半ばでまだまだ若いっていうのに、色恋なんてさーっぱりで、仕事一筋ですもんねぇー」
「…初恋くらい俺にもあったが」
少しムッとして、つい言い返してしまった。あぁ、これではこいつの思う壷だな。副隊長と隊員はポカン…と俺を見ている。何だその顔は…。
「…俺にだって、人並みに恋心くらいはあるぞ?あったら駄目か?」
「へぇー!どんなのですかっ?是非是非教えて下さいよ隊長っ!」
興味津々!と言わんばかりのこうなれば話すまで引かないであろう副隊長とその他隊員の面々に、仕方なく話してやる。
「まぁ、よくある話なんだが。あれは…たしか、まだ俺が十の頃だったか。相手は同じ村の一つ年下の少女だったな」
「おぉ、マセてますね!それでそれでっ?」
「ある日、その子と仲良くなりたくて、誕生日にプレゼントを渡そうと思った。たしか…木の実を削って笛を作った」
「あは、可愛いですねー。それでそれで?」
「それで、彼女の誕生日の日、思い切って告白し、まずは友達になってくれないか?と、それを渡そうとしたんだ」
「うんうんそれでっ?」
「差し出したプレゼントは…反射的だろうな。俺の手ごと払われて、受け取って貰えなかった。そして、顔が怖い、私に二度と近付くな、と泣き叫びながら走り去られた」
「……え」
「彼女にフラれた後、通りすがりにそれを見てしまったらしい同じ年頃の少年がいて、元気を出せと言ってくれてな。嬉しかった。もしかしたら、初めての友人が出来るかも、と思ったんだが…俺の顔を見たら、そいつも化け物と叫んで卒倒してなぁ。さすがにあの時は、久々にこの顔に少し泣きたくなったものだ。その後…っと、何だ?」
あの後、その時の二人は仲良くなり、どうやら成人と共に結婚して、今は幸せに三人の子持ちらしいと続くのだが。
肩を叩かれ、そちらを向くと、涙目になった副隊長がいた。何だ?涙目になるほど笑いを我慢するなんて…そんなに変な事言ったか?たかがフラれた初恋話じゃないか。よくある話だろうに。
「たいちょうヤメテ、もうヤメテ。泣くから。オレらが泣くからもうヤメテッ!!」
「?そうか。すまん」
「謝らないでぇ!むしろオレらが謝るからっ!ごめんなさいすみませんたいちょおぉーっ!!ほらお前らもッ!!」
「「「すいませんでしたぁぁああ!!!」」」
「?そうか。ただのつまらない初恋のフラれ話だったとは思うんだが…何か泣くほど面白いことがあったか?まぁ、そんなに可笑しかったんなら、泣くほど我慢せずに遠慮なく笑っていいぞ?俺は気にしないから」
「わっ、笑っ…笑えるかぁぁああッ!!」
「「「だ、だーいぢょぉぉお゛お゛っ!!!」」」
だから何故泣く。笑いたいところだったんだろう?おかしな奴らだな。
その後、どうにか皆を宥め、仕事を片付けた。
今日は、昨日ようやく届いた洗浄魔具の性能をさっそく試すつもりで、手早く荷物を纏める。
どれほど汚れが落ちることだろう、と楽しみに帰ろうとしていると、何故か隊員達に、俺は酒を飲まないって知ってるはずなのに酒場へと引きずられてしまい、仕方がないから酒を奢ろうとしたら、逆に無理矢理飯を奢られ、ごーこん?を、せってぃんぐ?されてしまったようなんだが…どうしてこうなったんだ?
隊長は顔面のせいで生まれてこのかた、他人に距離を置かれすぎた人生を送ってきているので、仕事では慣れていて腹芸出来ても、素は心の底からピュアなんです。
思い出を話すたびに皆が何で泣くのか本気で不思議に思ってます。
本人いっさい嫌味とか言ってません。それが本当だと分かるから、さらに隊員がいたたまれなくなります。
…見た目だけはマジで無表情な顔面凶器なんですけどね。