第三話
アジア支部第5班と書かれた札が掛かる扉を開けた。後を追う様に黒いフサフサの毛を靡かせながらルーズもその部屋に入った。
「はい、集合。」
2つ1組で向かい合わせに並ぶデスクが6つ。それぞれのデスクに噛り付くように向かっている4人の男女。2つは空席のまま。集合と言った橘の声を聞いていたのかいなかったのか、まるで集まる様子もなければこちらに目を配る気配もない。
「いや、忙しいのは分かるんだけど、指令書来ちゃったから。」
そこまで言ってようやく1人の女性がこちらを向いた。
「班長、今とても忙しいんです。まだ前回の報告書も出来上がってないんですよ。」
「うん、それは分かってるんだけど、指令書が来ちゃったからね。」
なんだろう・・・上司のはずなのに、いつも肩身が狭い気がする。
「片桐、こっちが優先。」
部屋の一番奥で一つだけ他とは別に置かれた机に居たのは、あの嫌がらせ貴公子の佐伯だ。佐伯が言うと片桐と呼ばれたその女性はため息をつきながら体をこちらに向けた。それにつられるように他の者たちもこちらに顔を向ける。なんとなく、佐伯が憎い。
「今回の指令書の対象は近藤清澄、27歳男性。危険度ランクは3番目のB級。監視役の情報に寄ると最近同じ職場の女性を付け回しているらしい。犯罪に近い行為も見受けられるので近々一度査定に出した方がよいのではという話だ。」
「B級のストーカーかぁ。そこそこですね。」
橘の話をお菓子をぼりぼりと食べながら聞いていた男が言った。
「桑田・・・お前最近凄い太ってきてないか。」
「そんなことないっすよ。3キロ増えた位です。」
「お前、先月も5キロ増えたって・・・。」
「はい、だから今月はそんなに太ってないっす。」
そういう事じゃないだろう・・・とは思ったが、呆れて言葉も出なかった。
「でもB級って大丈夫ですか?私たちの対象って基本はC級かD級ですよね。」
「あぁ、だけど今回はどこの班も手一杯らしくてな。とりあえず外勤してないのは俺たちの班だけだったから行けとのお達しだ。C級とB級はそんなに変わらないし、“何か”あっても多少手こずる程度だろう。あとはお前らのやる気次第。」
「そうは言いますけど、やる気でなんとかなるんだったら俺たちだってもっとやる気出してますよ。でも、自分で言うのも難ですが、技能的にもC級だから5班なんじゃないですか。これで取りこぼしたら、RSAの恥だって笑われますよ。」
いかにも真面目そうな返答をしてきたのは、班随一の生真面目な男・鳴沢だった。エリートのようなメガネをかけているが、これは伊達だという噂がある。・・・どうでもいい話だが。
「んまー、確かに。でも自分たちのレベルより少し高いくらいとやりあってないと、いつまでたってもB級のままだぞ?お前らの憧れの1班になるにはその志じゃ無理じゃないのかぁ?」
「憧れは憧れ。でも自分がそうなれるかどうかは別の問題ですよ。」
冷めた発言をするのが得意なのは、我が班の才色兼備である羽鳥だ。男によくモテるのにこの冷たさでよくフラれてもいる。
「まぁまぁ、指令だって言うんだから、行くだけ行ってみよう。監視役と直接話して見ないとはっきり掴めないよ。」
佐伯が言うと皆はそうですねと口々に肯定し出した。…あぁ、やっぱり憎い。