夢想
舞い散る桜と、木の根元に積もった落ち葉と、吹き付ける雪の結晶。おまけに太陽はカンカン照りだけれど、暑くない。春夏秋冬の全てが入り乱れたこの光景はきっと夢なのだろう。そっと差し出した手のひらに、ひんやりと冷たい粒が着地する。桃色の花弁は指の隙間から風に煽られて、さらに旅を続けた。茶色に焦げた葉を踏めば、勢いのついた良い音がする。地面と、沢山の樹木と、果てしなく続く虚無。雲ひとつない青空に太陽が高く昇っている。
やることもなくて、適当に足を動かした。同じ場所に帰ってこ来られるように、方向を決めて直進する。次はどんなとんでもない光景が浮かぶ事だろうと楽しみにしていた。しかし驚くべきことに、景色は常に停滞を続けた。どこまでも、どこまでも季節が混じった世界は進む。それでもどこかに違う何かがあるんじゃないかと足は止めなかった。
万歩計があれば優に一万歩を超えるほどは歩いた。変わらない景色の中で、空に漂う風流が少しだけ軌道を変えて舞う。よく見れば、落ち葉の山の高さもまちまちだ。これならばやはり、どこかには希望があるかもしれない。一度火が付いた子供心は無邪気にも夢を見た。
もう数倍は歩いただろうか。依然景色は変わらない。不規則に飛び交うものを眺めて暇を潰すのにも飽きてきた。今度は歌を歌い始めた。校歌から始まり、最近流行ったサビ部分しか知らない曲に、親が聞いてたから歌詞を空耳で覚えた曲。ジャンルもバラバラだった。歩き続けるための一要素に過ぎないのだから、ただの暇つぶしにそれ以上の価値はない。
流石に足が疲れたので小休止を挟む。幻想世界で意識を得てから早数時間。ずっと一つの行動を繰り返した。他の方法を模索した時もあったけれど、今以上を見つけることは出来なかった。どこかにある見たことのない景色に思いを馳せる。砂漠の中で追い求めるオアシスのようだ。知らないものの想像は非常に難しい。木の種類が変わって、また違った桃源郷が見られるかもしれない。建物が出て来ても面白い。ひとしきり考えがついたところで、また歩き出した。
どれだけ歩いたかはもうわからない。無我夢中だった。そんな旅の途中、視界がぼやけた。全てのものにピントが合わない。それでも足は止めなかった。最早意地の領域だ。僕の抵抗は空しく何の解決も招かなかった。結局そのまま意識もぼやけて、自分の存在すらも感知できなくなってようやく、僕は夢からさめた。




