表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/27

第26話:自分の答え

翔太と別れた後、一人で歩いていた。


頭の中で、色々なことが渦巻いている。


翔太。由美さん。美咲さん。健一さん。


そして——ソラ。


屋根の上に登った。いつもの場所。街を見下ろせる、古いビルの屋上。


夜の街が広がっている。明かりが点々と灯っている。その下に、たくさの人がいる。眠っている人。働いている人。泣いている人。笑っている人。


「僕は——何が変わったんだろう」


声に出した。


体は疲れていた。でも、心は不思議と軽かった。


翔太に、自分のことを話した。裏切られたこと。奪ったこと。両方。


言葉にしたら——少し、楽になった。


---


数日が経った。


あの公園を通りかかった。翔太と会った、夜の公園。


ベンチが見えた。


誰かが座っている。


翔太だった。


でも——一人じゃない。


誰かと話している。同年代くらいの男性。見たことのない顔。


距離があって、会話は聞こえない。


でも——二人とも泣いていた。


翔太が頭を下げている。深く、深く。


相手の男性は——首を振っている。何か言っている。でも、泣いている。


あれは——親友か。


翔太が連絡しても返事がなかったという、あの親友。


会えたんだ。


僕はその場を離れた。近づかなかった。声をかけなかった。


見守る必要はない。あれは、翔太の物語だ。僕の物語じゃない。


公園を出て、歩き続けた。


「謝れたんだにゃ」


声に出した。


許してもらえたかはわからない。首を振っていたのは、許せないという意味かもしれない。もういいという意味かもしれない。わからない。


でも、翔太は逃げなかった。


連絡しても返事がなかった相手に、会いに行った。頭を下げた。


「僕も——逃げなかったにゃ」


---


屋根の上に座った。


星を見上げた。今夜は少しだけ見える。雲の切れ間から、いくつかの光が覗いていた。


「僕は——ソラを赦したのか?」


声に出した。


わからない。


でも——翔太に向き合えた。「こいつです」と言った人に、逃げずに向き合えた。


それは——何かが変わったということだ。


ミーヤの言葉を思い出した。


「赦すことと、向き合うことは違う」


「わかってしまったら、それを無かったことにはできない」


僕は——わかってしまった。


「僕は、ソラを赦してない」


声に出した。


「今でも、あの瞬間を思い出すと苦しい」


ソラの指。僕を指差した指。「こいつです」という声。目を逸らしたソラ。


思い出すと、胸が痛む。それは変わらない。


「でも——」


「ソラも、追い詰められてたんだと思う」


翔太の顔が浮かんだ。泣いていた顔。「自分が怒られるのが怖かった」と言った顔。


「僕があの子猫から餌を奪った時と、同じだったんだと思う」


あの子猫の顔が浮かんだ。震えていた子猫。僕が奪った子猫。


生き延びるために、弱い者から奪った。あの時の僕と、ソラは——同じだったのかもしれない。


「それを認めることは——赦すこととは違う」


「僕は、ソラを赦さなくていい」


「でも、ソラが『そうするしかなかった』ことは——わかる」


わかってしまった。


もう、無かったことにはできない。


「それで、十分だ」


---


涙が出た。


止まらなかった。


「僕は——もう、ソラに囚われなくていいにゃ」


声が震えた。


「憎しみは消えないかもしれない」


「でも、それだけが僕じゃない」


「僕は——僕の人生を生きるにゃ」


風が吹いた。


温かい風だった。


母猫の声が聞こえる気がした。


「お前は優しい子だね」


「母さん——」


声が詰まった。


「僕、ちゃんとやれてるかな」


答えは返ってこない。当たり前だ。母さんはもういない。


でも——心の中で、声が響いていた。


「わからないけど——頑張ってるよ」


空が白んできた。夜が明ける。朝が来る。


新しい一日が始まる。


立ち上がった。


「僕は、ここにいるにゃ」


街を見下ろした。朝の光が、少しずつ広がっていく。


「寄り添いたい。だれかの気持ちを、聴いていたいにゃ」


「それが——僕が見つけた、僕の生き方にゃ」


風が吹いた。朝の風。冷たくて、でも気持ちよかった。


屋根を降りた。


街に向かって、歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ