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エースストライカー  作者: 柿井優嬉


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中学⑤

「野島くんて、点取り屋で、毎試合と言っていいくらいゴールを決めている、すごい人なんだってね」

 入部して数日が経過した工藤が、部室へ向かっている最中に顔を合わせて、そう俺に声をかけた。

 こいつは、知り合ったばかりで遠慮しているからではなく、穏やかで控えめといった性格のようだ。話し方にそれが如実に表れている。

「僕、下手だから、上達できるように、よかったらいろいろ教えてほしいんだけど、いいかな?」

「ああ。構わないよ」

「ありがとう。よかった。野島くんは性格もいいから大丈夫だろうって聞いてたけど、本当で」

 ん? 性格がいいなんて、誰がそんな発言を。

 仲間内で日常に褒めることを言ったりなど当然しないし、「あいつだな」とすぐに思い浮かぶ奴はいない。

「聞いたって、誰に?」

 俺は気になって問うた。

「水本さん。彼女、ときどきサッカー部の練習に参加してるらしいね。陸上部だけど、サッカーに興味があったからプレーについてちょくちょく質問してたら、野島くんがわざわざそうしてくれたって言ってたよ」

「そっか、一組だから、水本と一緒のクラスだもんな。あいつ、俺のことを買いかぶってんだよ。水本の件はともかく、うちのチームの戦力アップにつながるんだから、誰だって教えるだろ」

「でも、同じポジションだよ」

 今、口にした通り、工藤もポジションはフォワードなのだ。

「自分の定位置を奪われる可能性だってあるのに」

「ほ~、頼もしいな。じゃあ、奪ってみせてくれよ」

 俺はふざけた挑発的な態度で言った。

「あ、そうだよね。僕なんかが奪えるはずないもんね」

 工藤は微笑んで、「失言をしちゃった」という振る舞いで返した。

「ハハハ、冗談だよ。まあ、頑張ろうぜ。うちの顧問の先生、努力する奴を評価してくれる人なんで、試合に出るチャンスも十分あるからさ」

「うん」

 工藤はしっかりとうなずいて、俺たちは一緒に部室に足を踏み入れたのだった。


 俺は偉そうに「頑張ろう」と声をかけたが、とんでもなかった。工藤は、テクニックはそれほどではないけれども泥臭くボールに向かっていってシュートを決める選手がプロにもいるが、まさにそういうタイプで、必死に動き回る試合中のみならず、練習も人一倍熱心に行い、その真摯なプレーぶりは目を見張るものがある。

「あいつ、よくやるよなー」

「ほんと」

 部員の間でそんな会話になったりした。

 それにしてもだ。

 聞くところによると、工藤は授業の体育で、他のスポーツはどれもめちゃくちゃできるのだという。本当に水本と一緒だ。本人の自由だし、俺たちサッカー部としても今のままのほうがいいとはいえ、客観的な立場から見れば「もったいない。別の運動部で活動すればいいのに」と思う。

 ゆえに、また二人きりのときに、工藤に訊いてみた。

「なあ、他のスポーツはどれもすごくできるらしいじゃん。どうしてサッカー部に入ろうと思ったんだ?」

「そりゃあ、下手でも、サッカーが好きで、やっていて一番楽しいからだよ。みんなだってそうでしょ?」

「まあな」

 野暮な質問だったかと反省しかけたけれども、尋ねてよかったなと思うだけの、続きがあった。

「ただ、前は違ったんだ。小学生の頃は、地元の少年野球チームに入ってたし、バスケも大好きでよくやっていた一方で、サッカーはそれこそ上手にできなかったから敬遠して知識もほとんどなかったんだけど、親戚にすごいサッカー好きな人がいて、スタジアムでプロの公式戦を観戦する機会があってさ。その試合のスコアが、〇対〇だったんだ。同点なのに延長戦をしないばかりか、どっちのチームも一点も入ってないのに、お互いに勝ち点一で良い状況だったから、観客も大半は満足そうだったんだけど、僕にはそれが衝撃的だったし、不満だったんだ。『なんで? 絶対にゴールが入ったほうが面白いじゃん』って。選手は終盤は失点のリスクを回避するためにそこまでアグレッシブにプレーしてなかったし、観客も納得顔だったけれど、『必死で点を取りにいけよ』ってさ。でも、そんなことを思ったり、口にしたりしたところで、どうなるものでもないから、『だったら、自分がやろう。最初から最後までゴールを狙い続けて、あのときの平然とした表情の観客たちも本心では目にしたかったはずの得点シーンをいっぱい見せられる選手に、自分が』って考えて、サッカーを始めて、やるうちにどんどんのめり込んでいったんだ」

「……すげえな」

 いくらそんな感情を抱いたからって、得意な他のスポーツをすべてなげうつかたちで、苦手なサッカーに身を投じるなんて。

「そうかな? とはいっても、それからたいして技術が進歩してないからね。この話をするの、恥ずかしいんだけどさ」

「でも、その気持ち通りのプレーをちゃんと実践してるもんな。偉いよ。俺も負けてらんねえや」

「あー。余計なことを言っちゃったか」

 工藤はまた失敗をやらかしてしまったという仕草をした。

「フフフ。とにかく、お前に触発されて、みんなも以前より練習に熱が入ってるからな。ほんと、うちに入部してくれてよかったよ」

「ええ? そんなふうに言ってもらえるなんて、光栄だよ」


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