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第19話 埠頭の倉庫街

 夜の闇に沈む倉庫街は、まるで巨大な墓標のように静まり返っていた。

 俺たち『アイアンウォール』のメンバーは、魁人の指示通り、倉庫の屋根やコンテナの影に身を潜め、息を殺していた。耳に装着したインカムから、魁人の冷静な声だけが聞こえてくる。


『――ターゲット、エリアに侵入。数は6。予想通りだ』


 来たか。

 俺はコンテナの隙間から、ターゲットの姿を確認した。髑髏のエンブレムを掲げた『スカルクラッシャー』のメンバーたち。その中には、見覚えのあるリーダー格の男の姿もあった。


「ちっ、いねえじゃねえか。あの女、逃げやがったか?」

「まあまあ、リーダー。そのうちひょっこり現れますって」

 彼らは、怜奈(の偽装データ)がまだ現れないことに、少し苛立っているようだった。


『敵は完全に油断している。最高のタイミングだ。……合図を送る。3、2、1……今だ!』


 魁人の号令が、俺たちの闘争心に火をつけた。


「うおおおおお!」


 最初に動いたのは、ゴウだった。倉庫の屋上から飛び降りた彼は、その巨体でPKの一人に強烈なボディプレスを浴びせる。

 それを合図に、俺たちも一斉に奇襲をかけた。

 ユキがコンテナの上から続けざまに矢を放ち、他のメンバーも散開して敵を囲む。俺はリーダー格の男に狙いを定め、背後から急襲した。


「なっ!? 貴様ら、『アイアンウォール』!」


 リーダーの男が、驚愕の声を上げる。

 奇襲は成功した。初撃で二人のメンバーを戦闘不能に追い込み、戦況は有利に進むかと思われた。

 だが、相手は百戦錬磨のPKギルド。すぐに体勢を立て直し、的確な反撃を開始する。


「雑魚が調子に乗りやがって! 全員、皆殺しだ!」

 リーダーの男が叫ぶと、彼の足元から禍々しいオーラが立ち上った。

 強力な範囲攻撃スキル。その予備動作だ。


「まずい、全員伏せろ!」

 俺が叫ぶのと、男がスキルを放つのは、ほぼ同時だった。


「【混沌の波動(ケイオスウェイブ)】!」


 衝撃波が、倉庫街全体を揺るがす。

 俺たちのHPゲージがごっそりと削られる。それだけではなかった。

 バリン! というけたたましい音と共に、近くの倉庫の窓ガラスが物理的に砕け散った。衝撃を受けたコンテナの壁が、ミシミシと音を立てて大きく凹む。

 ゲームのスキルが、現実の物体に、明確な影響を及ぼしている。

 この戦いは、もはやゲームの中だけの出来事ではなかった。


「ははは! すげえ! これだよ、これ!」

 リーダーの男は、その光景を見て恍惚とした表情を浮かべている。彼は、この現実侵食を、心から楽しんでいるのだ。


 俺たちは、彼の圧倒的な火力の前に、徐々に追い詰められていく。

 その時、リーダーの次の攻撃が、少し離れた場所にいた怜奈――作戦の様子を窺うために、物陰から見ていたのだ――に向かって放たれた。


「危ない!」


 俺は、ほとんど反射的に彼女の前に飛び出していた。

 背中に、焼きごてを押し付けられたような激痛が走る。

『HP -150』

 致命的なダメージ。視界が、急速に赤く染まっていく。


「シュヴァさん!」

「如月くん!」


 仲間たちの悲鳴と、怜奈の絶叫が、遠くに聞こえる。

 ああ、ここまでか。俺は、彼女を守れなかったのか。

 薄れゆく意識の中、誰かが俺の手を強く握りしめるのを感じた。

 温かく、そして、震えている手。


「――もう、逃げない」


 凛とした、声が聞こえた。

「私が、あなたを守るから!」


 次の瞬間、俺の体を、今まで感じたこともないほど温かく、そして強力な光が包み込んだ。

 それは、傷ついた体を癒す、聖なる光。

 神官(プリースト)だけに許された、奇跡の力だった。


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