第18話 救出作戦
「作戦の概要を説明する」
ギルドホールに、魁人のアバターが映し出されたホログラムを囲み、俺たち『アイアンウォール』のメンバーは息を詰めていた。怜奈を救うための、反撃の狼煙が上がろうとしていた。
魁人は、ハッキングによって得た『スカルクラッシャー』の行動パターンを冷静に分析していた。
「奴らの行動原理は単純だ。弱そうな獲物を見つけて、集団で叩く。特に、ソロで活動している希少職のプレイヤーは格好のターゲットだ。リーダー格の男は、強い執着心と支配欲の塊みたいな性格をしている。一度狙った獲物は、絶対に逃さない」
その言葉は、怜奈がどれほどの恐怖の中にいたかを雄弁に物語っていた。
作戦は、その敵の習性を逆手に取るものだった。
「まず、僕が怜奈さんのアカウントに擬似的なログイン情報を流す。彼女が一人で高難易度エリアにいるように見せかけ、奴らをおびき寄せる。いわば、デコイだ」
「危険じゃないのか、それ」
俺が尋ねると、魁人は「問題ない」と首を振る。
「あくまで偽装データだ。怜奈さん本人にリスクはない。奴らがその偽情報に食いつき、指定エリアに集まったところを……君たちが叩く」
魁人がマップに示した決戦の地。それは、横浜の埠頭エリアにある、広大な倉庫街だった。現実世界では、夜間はほとんど人通りのない場所だ。
「奴らのアジトは、この倉庫街の一角にあるらしい。そこへ誘い込み、一網打尽にする。地の利は、こちらにある」
「地の利、だと?」
ゴウが尋ねる。
「そう。現実の地形だよ。このゲームでは、まだ現実の建造物を完全に破壊することはできない。壁やコンテナは、最高の障害物であり、最高の盾になる。君たち『アイアンウォール』の戦い方に、最も適した戦場だ」
作戦は、シンプルかつ大胆。
だが、相手は格上のPKギルドだ。正面からぶつかれば、勝ち目はない。
「だから、奇襲をかける」
魁人が、不敵に笑う。
「奴らが指定エリアに到着するタイミングは、僕が正確に予測する。君たちは、倉庫街の各所に潜み、僕の合図で一斉に攻撃を仕掛けるんだ。初撃で、どれだけ敵の数を減らせるかが勝負の分かれ目だ」
俺たちはゴクリと喉を鳴らした。
これはもう、ただのゲーム内イベントではない。現実の場所を舞台にした、大規模なギルド戦。そして、怜奈の未来を賭けた、負けられない戦いだ。
「分かった。その作戦、乗った」
俺が代表して答えると、ゴウとユキも力強く頷いた。
「おう、やってやろうぜ!」
「怜奈さんのために……!」
俺は、怜奈にだけ、そっとメッセージを送った。
『今夜、全てを終わらせる。だから、信じて待っていてほしい』
彼女からの返信はなかった。
だが、それでいい。今は、俺たちが彼女を信じる番だ。
決戦の夜。俺たちは、冷たい潮風が吹き抜ける、埠頭の倉庫街に立っていた。