第17話 狙われたヒーラー
『面白い。いいよ、やってあげる』
魁人からの返信は、早かった。
彼にとって、特定のプレイヤーを探し出すことなど、造作もないことなのだろう。俺は、怜奈の容姿や、彼女が腕の痣を消した状況など、持っている情報を全て彼に伝えた。
翌日の昼休み。俺のスマートフォンが、短い着信音を鳴らした。
魁人からだ。添付されたファイルを開くと、そこには一人のプレイヤーの詳細な情報がまとめられていた。
【Player Name: Rena】
【Class: 神官】
【Guild: なし】
やはり、彼女だった。プレイヤーネームは、現実の名前をそのまま使っているようだ。
クラスは、回復と支援魔法を専門とするプリースト。パーティーに一人いるだけで、生存率が劇的に向上する、非常に希少なクラスだ。
そして、ファイルの末尾に書かれた魁人の所見に、俺は息をのんだ。
『――現在、彼女は悪質なPKギルド【スカルクラッシャー】から執拗なストーキング行為を受けている。ソロで活動する高レベルのプリーストは極めて稀であり、彼らは彼女を戦力としてギルドに引き入れようとしているようだ。勧誘を断ったことで、粘着質なPK行為や、ゲーム内チャットでの脅迫に発展。彼女の行動ログを見る限り、精神的にかなり追い詰められていると推測される』
スカルクラッシャー。
その名前に、俺は聞き覚えがあった。いや、忘れられるはずもない。
古の森で俺たちを襲った、あの髑髏のエンブレムを掲げたPKたち。あいつらが、怜奈を……。
全ての辻褄が合った。
彼女が憔悴しきっていた理由。「私みたいなのが、幸せになっちゃいけない」という言葉の意味。
彼女は、ゲームの世界で、逃げ場のない恐怖に苛まれていたのだ。そして、その希少な能力ゆえに、自分が他人を巻き込むことを恐れ、誰にも助けを求められずにいたのだろう。
俺の腹の底で、静かな怒りが燃え上がっていた。
あいつらは、ゴウを傷つけ、俺たちの努力を踏みにじった。そして今度は、怜奈を追い詰めている。
絶対に、許さない。
俺はすぐにギルドチャットを開き、ゴウとユキに事情を説明した。
『――というわけだ。水瀬さんを、助けたい』
二人の返事は、即座だった。
『当たり前だろ! 仲間が困ってるなら、助けるのがギルドってもんだ!』
『怜奈さん……そんなことになっていたなんて。僕も、戦います!』
そして、俺は魁人にもメッセージを送る。
『スカルクラッシャーを、叩き潰す。力を貸してくれ』
『話が早くて助かるよ。もちろん、協力する。僕も、ああいうシステムのルールを悪用するだけの連中は、大嫌いなんでね』
『アイアンウォール』と、天才ハッカー。
怜奈を救うための、即席の共同戦線が結ばれた瞬間だった。
俺たちの反撃の舞台は、整った。