表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

第14話 隠しダンジョン

 Kiteの暗号を解読した俺たちは、翌日の夕方、指定された場所へと向かっていた。

 場所は、隣町の外れにある地下鉄の旧駅舎。数十年間使われず、フェンスで固く閉ざされたその場所は、昼間でもどこか不気味な空気が漂っている。


「本当に、ここなのか……?」

 ゴウが、錆びついたフェンスを見上げながら呟く。

「間違いありません。暗号の『鉄の蛇が眠る場所』は、ここを指しているはずです」

 ユキが、地図アプリと辺りの風景を見比べながら答えた。


 俺たちの導き出した答え。それはこうだ。

『日没の街』――日没の時刻。

『鉄の蛇が眠る場所』――この地下鉄廃駅。

 そして、最も難解だった『十三番目の影が、偽りの壁に真実の道を示す』。

 これは、「日没の時、この場所から見える十三本目の電柱の影が指し示す壁に、ダンジョンへの入り口が隠されている」というものだった。

 あまりにゲーム的な発想。だが、この世界では、それが正解になりうる。


 俺たちはフェンスの切れ目から敷地内に侵入し、息を潜めてその時を待った。

 やがて、太陽が西の空に傾き、街が茜色に染まり始める。周囲の建物の影が、ぐんぐんと長く伸びていく。


「シュヴァさん、あれです!」

 ユキが指さした。見れば、駅から少し離れた場所に立つ、十三本の電柱。そのうちの一本の影が、まるで道標のように、駅舎の古びたコンクリートの壁の一点を指し示していた。

 俺たちは、その壁へと駆け寄る。

 そこは、見たところ他の場所と何ら変わらない、ただの壁だ。


「本当にここで合ってるのかよ……」

 ゴウが壁を叩いてみるが、硬い感触が返ってくるだけだ。

 日没まで、時間がない。影がずれてしまえば、入り口は二度と見つからないかもしれない。

 俺はエーテルグラスを装着し、『AO』にログインした。ゴウとユキもそれに続く。


『Schwarz Ritter』として世界を見た瞬間、俺は息をのんだ。

 ただの壁にしか見えなかったその場所に、うっすらと魔法陣のような紋様が浮かび上がっていたのだ。


「これだ……!」

 俺は壁に手を触れ、ゲームのコマンドを意識する。

 ――調べる。


 瞬間、壁に描かれた魔法陣が眩い光を放ち、目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。コンクリートの壁が、まるで水面のように波打ち、その中心に闇へと続く渦が生まれる。


「うおっ!?」

「開いた……!」

「行くぞ!」


 俺たちは躊躇うことなく、その渦の中へと飛び込んだ。

 体がねじれるような奇妙な浮遊感の後、俺たちの足は硬い地面を捉えた。

 そこは、現実の廃駅の風景と、ゲームのダンジョンが見事に融合した、異様な空間だった。

 カビ臭い空気。壁から滴る水の音。現実の廃墟の要素。

 その一方で、天井からは不気味な紫色の水晶が突き出し、線路の脇には骸骨やゾンビといったアンデッドモンスターが徘徊している。


「こいつは……とんでもねえ場所だな」

 ゴウがタワーシールドを構え、警戒を強める。

「皆さん、気をつけて。トラップの気配がします」

 ユキが弓を構え、鋭い視線を周囲に向けた。


 俺たちはゴウを先頭に、ダンジョンの奥深くへと進んでいった。

 アンデッドモンスターを蹴散らし、ユキが看破した床のトラップを避け、錆びついた階段を下りていく。

 このダンジョンは、明らかに俺たちが今まで経験してきたものとはレベルが違った。モンスターの強さも、トラップの悪質さも、段違いだ。

 だが、俺たちの連携もまた、以前とは比べ物にならないほど洗練されていた。


 ゴウが敵の攻撃を一手に引き受け、ユキが正確な射撃で敵の陣形を崩す。そして俺が、魔法と剣でとどめを刺す。

『アイアンウォール』の絆が、この高難易度ダンジョンを突き進む力となっていた。

 どれくらい進んだだろうか。

 やがて俺たちは、広大なドーム状の空間、かつての駅のホームだった場所にたどり着いた。

 その中央。

 古いベンチに腰掛け、ノートパソコンのキーボードを叩いている一人の少年が、そこにいた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ