第9話「知将?ユウリ」
私と柊哉は約束の時間に合わせてある場所へ向かっていた。
それは銀座の一等地にある、世界的ファッションブランド〈NOIR〉のプライベートショールーム。そこは、選ばれた人間しか足を踏み入れられない場所。
扉を開けると、すぐにスタッフたちが私たちに頭を下げ、奥のラウンジへと案内した。
「いらっしゃい。リマ、柊哉くん」
そう言って待っていたのは、NOIRの若社長・一ノ瀬悠里。
オールブラックのシャツに身を包み、相変わらず完璧な笑みを浮かべていた。私はソファに座り、柊哉は私の後ろに立った。ユウリはスタッフを下げさせ、こう続けた。
「リマが直々に足を運んでくれるなんて嬉しいね。…君にそこまでさせるのは一体誰なのかな」
「…お願いがあるの。NOIRから、衣装提供をしてほしいグループがいるの」
「……だれ?」
「……いま注目され始めたグループ。まだ知名度はそこまでないけど、実力はあると思ってる」
「推し?でも珍しいね。いつもただ見てるだけじゃん」
「うん、ちょっとね。IVORYっていうんだけど知ってる?私がスポンサーしてて。もっと……世界に見てほしいの。それにはユウリの力が必要なの」
「トレンドは常にチェックしてるからね。IVORYか…もちろん知ってるよ。デビューして2年間は鳴かず飛ばず……それがPommeがスポンサーになって一気に話題になったね。……やっぱりリマのお気に入りだったんだ。
で、……その世界に見てほしいって本音?建前?」
「……もちろんもっと売れてほしい気持ちもある。……でもそれ以上にもっとカッコいいIVORYが見たい。私が、ただ、見たいの」
ユウリとはもう何年もの付き合いで、本音で話せる数少ない友人だ。
「自分の欲望のままに世界のNOIRを動かそうっていうんだ。……いいね」
「……つまり?」
「NOIRが衣装提供をしよう。あとスタイリストも何人か送る」
「本当!ユウリは話が早いわね」
「トレンドは先に仕掛けたもん勝ち。NOIRとしても、アイドルとのコラボは新しい刺激になる。それにPommeのご令嬢に借りを作れるなんて、こんなおいしい話はないからね」
「ありがとうユウリ。本当に助かる」
「でもその代わり──その“推し”くんたち、ちょっと見てみたいかも」
「んー……それはそのうちね」
それから数日後。IVORYのテレビ出演での新衣装がSNSで話題になった。
「今日の衣装やばくない!?」
「スタイリスト変わった?」
「NOIRの新作じゃん!?」
「え、アイドルにNOIRって革命では??」
SNSのトレンドには〈IVORY 衣装〉〈NOIR 提供〉の文字が並び、IVORYの注目度はさらに跳ね上がった。
そして、NOIRの新作発表会当日。
「──こちらへどうぞ、御影様」
私と柊哉は関係者として招待され、静かにシートに座った。
洗練されたランウェイと、煌びやかなライトの中でふと、別のドアが開いた。
目を引くようなシルエット。華やかなスーツ姿。そこに現れたのは──IVORYの4人だった。
……えっ……なんで……
呼吸が、少しだけ早くなった。私の胸の奥に宿った、密かな熱がまたひとつ、膨らんでいく。
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NOIRはフランス語で”黒”という意味です。
何者にも染まらない、強さと静けさをイメージしたブランド名にしました。あと響きがDIORに似てるのもお気に入りです!