第6話「ミッション、サインを手に入れよ」
使用人控室に入ると、リマはドアをきちんと閉め、息を切らしながらメイドたちに口を開いた。
「──制服、貸してくれないかしら……」
「お嬢様!? どうされたんですか!?」
「お願い、理由はあとで説明するから」
***
「──IVORYのみなさん、こちらの色紙にお願いできますか?」
ずらりと並ぶメイドや執事たちに、メンバーは少し驚いたような顔を浮かべる。
「じゃあサイン会、はじめまーす!」
リーダーの声に続いて、律希たちは色紙にペンを走らせていく。
中には緊張して手が震えている若いメイドもいて、「わ、すご……本物……」と小さく呟いて頬を染める姿も。
律希は優しい笑顔で「ありがとう」と答えながら、ときどき相槌を打ちつつ、穏やかな時間が流れていった。
そして、ある執事が無言で色紙を差し出したとき──
律希の手が一瞬止まった。その執事はすぐに頭を下げ、色紙を持って去っていった。その執事はスラッとした目を引くスタイルで、端正な顔立ちをしていた。
サイン会が終わると、使用人たちが全員部屋を出て行き、控室にはIVORYの4人だけが残った。
「──さっき会長さんが言ってたな」
「“使用人の中にファンがいる”って?」
「うん。誰だったんだろ…。でも、まさか自分たちが、こんな場所で歓迎される日が来るなんてな」
「ほんとだよ。2年前の自分たちじゃ、絶対想像できなかったもん」
「…俺、正直ちょっと泣きそうだったわ」
「わかる。サインもらう時、手が震えてたメイドさんもいたよね。あの子がファンだったりして」
「そうかも!…みんな、すごく丁寧に応えてくれて。嬉しかったな」
「それにしても…リマさん、……あの人がpommeの社長令嬢やんな?」
「うん。最初に応接室でお会いした人ね」
「……すごい人やったな。オーラが違う。背筋ピンってなるわ」
「わかる。静かなのに、目が離せないっていうか……」
「俺、芸能界の人かと思った。アイドルだったら、センター張ってても違和感ないくらい綺麗だったよね」
「……でも、住む世界が違うって感じがしたな」
「うん。どこか近づいちゃいけない空気があるというか……」
律希は黙ったまま、どこか考え込むようにしていた。
「……さっき、執事にすっごい整った顔の人いなかった?」
「え、そっち気になる!?」
「やっぱり律希、そういうとこ変わってんな……」
「……かっこいい人だったな、って思って」
「……あー、そっか」
メンバーのひとりが少しだけ笑いながら、「でもそれくらいでよかった」と呟いた。
「律希はさ、これくらい純粋でいてくれないと。うちの大事なセンターだからね」
「うん。やっとスタートラインに立てたところなんだから」
律希は「うん」とだけ、静かに頷いていた。
***
廊下の陰で、私は燕尾服のネクタイを外しながら深く息を吐いた。……バレてない。よかった。
手に持ったサイン色紙を見つめながら、そっと微笑んだ。
……夢じゃない。律希のサイン……!
最後まで読んでいただきありがとうございます!
ぜひ感想やブクマで推してくださると嬉しいです( ; ; )