第4話「なにも知らない彼女」
本当に……会えるんだ。夢じゃないんだ……!でも……絶対にバレてはいけない。律希を推していることを。まずは、大企業の令嬢らしく、完璧な見た目でいなければいけない。まだパジャマのまま。ノーメイク。髪もボサボサ。
このまま“推しと対面”なんて……正気?私は急いで階段を駆け上がった。
部屋のドアを開けると、すでに執事の桐生柊哉がいた。姿見の前に、衣装ラック。整えられたジュエリー。完璧な準備。
「……なんでもういるの?早くない?」
「朝の段階で、会長から予定を伺っておりましたので。」
柊哉は爽やかな笑みを浮かべた。
「もう……知ってたなら教えてよ……」
「……“リマ様が驚く顔を見たい”とのことでしたので。」
呆れながらも、それ以上言い返す気力はなかった。
「……じゃあ、着替えるから、後ろ、お願い」
さらっとパジャマを脱ぎ、その場で下着姿になった。
22歳になったばかりの自分。年齢だけ見ればもう立派な大人。背だけは165まで伸びて、大人っぽく見えるはずなのに──恋も仕事も、まだまだひよっこだと思ってしまう。……鏡に映る自分の姿が、ふと視界に入った。
下着は薄く、上質なレースの淡いグレー。肌は白く、余分な肉のない華奢なラインに、しっかりと引き締まったウエスト。柔らかな胸の丸み、滑らかな背中。背骨のラインに沿って落ちる、シルバーアッシュのロングヘア。
柊哉は、ドレスを手に取り、静かに背後へ回る。背中から布地をすべらせ、腰を留め、ファスナーを上げる。彼は表情を変えることなく、淡々と着替えを手伝った。
「……ピアスは、こちらでよろしいですか?」
「ええ」
着替えを終え、そのままメイクルームへ。そこでも柊哉は慣れた手つきでリマの髪を巻いた。
柊哉は今年で25歳になる。幼い頃からずっと一緒で、身の回りの世話はもちろん、仕事のスケジュールまで管理してくれている。
私が大学に入学した頃からは、Pommeの事業にも本格的に加わるようになった。右も左もわからなかった私を支えてくれたのは、いつだって柊哉だった。交渉も、資料作りも、彼はそつなくこなしてしまう。
──長い付き合いだからこそ、今では家族のようなものだと思っている。
「ありがとう。メイクは自分でやる」
「わかりました」
下地にファンデーション、パウダーをはたいた。アイブロウで眉毛を描き、瞼にはピンクのアイシャドウは控えめに、そこにブラウン系のアイシャドウも重ねる。
「ねえ。涙袋変じゃない?」
「…いい感じです」
「ん」
チークは頬、鼻、おでこにのせ、ハイライトを鼻先に入れた。まつげパーマをかけた長いまつげにマスカラを乗せて、アイラインを引く。最後に前髪にアイロンをかけて仕上げた。
「ん~リップどうしよう」
「この色はどうですか」
柊哉はローズピンクのリップを手渡した。
「あっこの色、律希好きそう!!!柊哉天才?」
些細な言葉で顔を輝かせるリマを、柊哉はただ静かに見つめた。
「よし!できた!どう?かわいい?」
リマは立ち上がってその場でくるりと一回転した。
「…かわいいです」
「ふふっ。手伝ってくれてありがとう。行ってくるわね!」
「ふふっ。手伝ってくれてありがとう。行ってくるわね!」
私は部屋を出ようとして、ふと振り返った。
柊哉は、私が使ったメイク道具をひとつずつ丁寧に片付けていた。ブラシを軽く払って、リップをきちんとキャップに戻して。
……ほんと、几帳面なんだから。小さく息を吐いて、そのまま玄関ホールへ降りていった。
もう少しで、IVORYが来る。
──月島律希が来る!!
私は、少しだけ呼吸を整えて、真っ直ぐに扉を見つめた。
「ご到着されたようです」
使用人に告げられ、私は両手を胸に当てた。心臓の鼓動がどんどん速くなるのを感じた。
私は御影莉茉。Pommeの社長令嬢。
今日はただ、それを演じるだけ。ドアが、ゆっくりと開いていく——
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