第3話「世界が動いた」
Pommeが、無名のアイドルグループのスポンサーになった── そのニュースは、たった一晩で世界を駆け巡った。
「なぜ、Pommeが?」
「前代未聞の契約すぎる」
「社長の道楽じゃないの?」
SNSでもネットニュースでも、“IVORY”の名前がトレンドに躍った。
「このセンターの子、誰!?」
「え、月島律希って言うんだ……天使みたいな笑顔」
「まだ21歳なんでしょ? 19歳でデビューして、もうこの完成度はやばい」
「2年間どこに隠れてたんだ……?!」
──あの日、たまたま目にした低画質の動画。白いライトに照らされて踊っていた少年の名前が、今や世界に響いていた。
「……ふふ。今日も律希ビジュ良すぎ!」
ベッドの上でスマホを抱きしめながら転がる。さっきアップされたばかりの音楽番組の切り抜き。ダンスのキレ、あどけない表情、遠くを見据えるような目線。全部が、たまらなく愛おしい。
でも──
画面越しに見える、ファンたちの熱狂。
「かわいすぎる!」
「もう推すしかないでしょ!」
嬉しいはずなのに、胸の奥がズキンと痛んだ。私の方が、先に見つけたのに……。
──まるで、自分だけのものだと思ってた宝物を、世界に見せてしまったみたい。これが独占欲なのだろうか。こんな感情になる自分に嫌気がさす。推しは推し。それはわかってる。でも、こんなふうに心が揺れるのは、初めてだった。
「……ダメなオタク……」
そんな自嘲気味な声が漏れたタイミングで、ノックの音が響いた。
「リマ様、失礼します。会長がお呼びです」
「……お父様?」
──リビングへ降りると、父・御影宗一郎が、ソファで紅茶を飲みながらニコニコと待っていた。
「リマ〜〜、良いニュースがあるよ〜〜」
「……なに?」
「IVORYがね、御影邸にご挨拶に来ることになったの」
「……………………………………え?」
「ほら、スポンサーになったでしょ? ご挨拶したいって、事務所の方から言われてさ〜。リマが喜ぶかなって思って、内緒にしてたんだけど!」
「えっ、それ……いつの話……?」
「今日だよ☆」
「な、なんで今言うの!?!」
「ええ〜〜? だって、サプライズの方が嬉しいかなって〜」
「全然うれしくない!!!!!」
そう怒鳴りながらも、私の心臓はもう限界だった。
現実味を帯びる“その時”。
──律希に、会える。目の前で。あの声を、耳で聞ける。
でも……バレちゃいけない。Pommeをきっかけに売れ始めたIVORYは、きっと私たちに感謝するだろう。もし私が推しているのを知ったら?律希は私からの評価を気にしすぎてしまうんじゃないか。むしろ重い?気持ち悪い?……それが怖い。
Pommeの社長令嬢として、ただのスポンサーとして完璧に振る舞わなければいけない。でも心は、叫んでいた。
……律希に……会える……!!!
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IVORYは、フランス語や英語で“象牙色”を意味します。ただの白ではなく、ほんのり感情のにじむ白。
優しさとか、穏やかさとか、静かな強さとか。
そういう色を、彼らから感じてもらえたら嬉しいなと思って、この名前を選びました。