第2話「これはわがまま?いいえ……」
私は自宅に戻るなり、迷うことなく一番奥の部屋の大きな扉を開けた。
「──お父様。お願いがあるの」
「ん? なに〜? お小遣い? ドレス? それとも馬?」
父・御影宗一郎は眼鏡をクイッと上げてこちらを見る。小柄で、ぽってりとした可愛いおじさん──にしか見えないけれど、世界的大企業・Pommeのトップ。普段はのほほんとしているが、本気になれば一国の経済さえ動かせる人物。
「ちがうの。お願いしたいのは、ある……アイドルグループへの出資」
「……アイドル?」
父の目が少しだけ鋭くなる。
「名前もまだ詳しくは知らない。事務所のことも、何も分からないの。でも……ステージを見てしまって。たまたま。彼のパフォーマンスを目にしただけで、脳が痺れるみたいに動けなくなって。……もう、目が離せなかった」
「ほう」
「有名でもないし、まだ荒削り。でも、絶対に光るの。あの子は……これから、誰よりも輝く」
ぎゅっと手を握りしめた。まっすぐに父を見つめる。届いてほしい。
「Pommeが支えれば、きっと大きな舞台に立てるようになる。才能を、埋もれさせたくないの」
父はぽってりとした手を顎に添え、「ふむふむ」と唸りながら考え込む。
「……一番気になってる子は、センターの男の子。”りつき”っていう名前らしくて。……うまく言えないんだけど、彼をこのままにしておきたくないの。今動かないと、きっと彼はいつか消えてしまう。…それだけは絶対にダメ!」
言った。言えることは全部。しばらく沈黙が続いた後、彼は破顔した。
「……リマがそこまで言うなら、パパお金出しちゃおうかな〜〜〜!」
「──本当に?!」
やっと息ができた気がした。
「うんうん、リマがここまで熱くなるなんて珍しいし。そもそも出資したいなんて、初めてじゃない?」
父はさっそく秘書に連絡を入れ始めた。彼の本気は、スピードでわかる。1時間も経たないうちに、小さな芸能事務所との交渉がスタートし、Pomme社の力が動き出した。
部屋を出て、胸元を押さえる。まだドキドキが止まらなかった。彼と出会ってしまった、その時からずっと──
私は御影莉茉。どこにでもいる女の子…
なんかじゃない。私の言葉ひとつで、企業が動き、国さえ揺れる。そして今、彼がその渦の中に入った。
──これは、始まりの物語。
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Pommeはフランス語で”りんご”という意味なんですが、お察しの通りApple社を意識して名付けました。
つまりリマは、スーパーお金持ちです♡