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推しに全ぶっぱ!  作者: カナリオ
第1章 『リマ、推しをプロデュースする』
15/16

第15話「アフターパーティーの距離感」

 IVORY×NOIRのコラボ特集が公開されてから数日。SNSでは「伝説的ビジュ」「映画かと思った」と話題がやまず、ファッション誌は即日完売していた。


 その成功を祝して開かれたアフターパーティー。場所はPommeグループが運営するホテルの最上階。煌びやかなシャンデリアの下、夜景が広がるフロアには音楽と笑い声が柔らかく響いていた。


 私は黒のワンショルダードレスをまとい、シンプルなゴールドのアクセサリーを添えていた。背筋を伸ばして歩けば、視線が自然と集まる。けれど私はそれを気にすることなく、グラスを手にドリンクカウンターへ向かった──そのとき。


「リマさん!」


 少し離れた場所から、軽やかな声が響いた。振り返ると、グラスを片手にした律希が、まっすぐにこちらを見て笑っていた。


「お久しぶりです。やっぱりスーツの時と雰囲気が変わりますね。ドレスも似合ってます!」


「……ありがとう。そんなに褒めても、なにも出ないわよ」


 冗談めかして返したのに、彼は屈託のない笑顔を崩さず続けてくる。


「いや、本当ですよ。そうだ……あの撮影のときも、リマさんが的確に指示してくださったおかげで、すごくやりやすかったです」


「……私はただ場所のことを知っていただけ。皆さんの力があったから、ああいう写真になったのよ」


 さらりと答えたつもりだった。けれど、気づけば彼の視線はまっすぐ私に注がれていた。

 ──え……近い、近い……

 胸の奥がざわつく。思わずグラスを傾けて気持ちを落ち着けようとした。


「でも、リマさんが現場で指揮してるの、すごくかっこよかったです」


「…………かっこよかった、ですか?」


 その笑顔を前にしたら、どうしても冷静ではいられなかった。言葉にした途端、自分の独占欲が形を持ってしまいそうで、怖くて。


「はい。ああいう姿、僕、見たことなかったので」


 視線が合う。その瞬間、心の奥で何かがふっと崩れていった。


「……私も、思ってました」


「え?」


「あなた……その……撮影のとき……」


 言葉が喉につかえて、でも引き返すことはできなくて。私は目を逸らしながら、それでも小さくはっきりと口にした。


「……かっこよかった、です」


 律希の表情がわずかに和らぐ。その笑みを見た途端、耳まで熱くなるのを感じた。


 ──なに言ってるの、私……落ち着いて、冷静に……!


 動揺を隠すようにグラスに口をつけると、律希がふいに声を落とした。


「撮影のとき、一緒にいた人……執事さんですよね?」


「……ええ。柊哉。私の秘書兼、ボディガードみたいなものよ」


「……仲、良いんですね」


 グラスを持つ手が、一瞬止まった。


「……どうして、そう思ったの?」


「なんとなくですけど、リマさん、いつもより楽しそうに笑ってる気がして。……僕と話すときと全然違うなって思って。……そんなの、当たり前ではあるんですけど!」


 冗談めかした口ぶりだった。けれど、そのまなざしはまっすぐで、心の奥を探られているように感じられた。


 私の話す声、大きかった?たまたま視界に入っただけ?それとも、私のこと、見てた?

 あの後、律希が私に「チョーカーを付けて」って言ってきたのは、偶然?もしかしたら──

 ほんの一瞬、息が止まる。


「彼とは昔からの付き合いなの。ただの……家族みたいなものよ」


 自分でも驚くくらい、早口になっていた。

 律希は何も言わなかった。ただ、目を逸らさなかった。

 その瞳が──どこか信じたくなさそうに揺れて見えたのは、きっと気のせい。


 パーティー会場の片隅で、私と彼の距離はほんの少し縮まった、ような気がした。

 けれど、その感情にはまだ名前がなく、ただ胸の奥で静かに揺れているだけだった。


最後まで読んでいただきありがとうございます!


ぜひ感想やブクマで推してくださると嬉しいです( ; ; )

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